ジャーナリスト・西中誠一郎氏

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 福島原発事故での自主避難者について「自己責任」「裁判でも何でもやればいい」と発言したすえに、それをフリージャーナリストに追及されると、「うるさい!」「出て行きなさい!」と激昂し、暴言を吐いた今村雅弘復興相。昨日、会見で謝罪と発言撤回を表明することで、安倍政権はそれで幕引きをはかろうとしているが、ほんとうにそんな程度ですませていいのだろうか。

 自主避難者を「自己責任」と切り捨てたその発言は明らかに「原発事故子ども・被災者支援法」という法律の条項に反するものであり、被災者に寄り添うべき復興大臣の資格はない。即刻、辞職すべきだ。

 だが、メディアはそのキレ方をおもしろおかしく取り上げているだけで、この本質的な問題にはまったく踏み込もうとしない。それどころか、保守系メディアやネット右翼の間では、復興相を追及して激昂のきっかけを作った"フリージャーナリスト"に対するバッシング攻撃まで展開されている。

「しつこい記者」「怒らせるための質問」「あいつはフリージャーナリストではなく活動家だ」......。
 
 そこで、会見の翌日、今村復興相にキレられた当事者である"フリージャーナリスト"こと西中誠一郎氏にインタビューを敢行した。質問の真意や今回の会見だけではなかった今村復興相の被災者軽視の態度、そして自らへのバッシングについてどう考えているかまで、権力に尻尾を振ることしか考えていないマスコミの記者とはまったくちがう、その真摯な思いをぜひ知ってほしい。

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――今村復興相の激怒会見、そして「自己責任」発言が大きな問題となり、これを受けて避難者の支援団体も大臣辞任を要求する緊急デモを各地で行っています。そこで、問題の会見の経緯や状況をお聞きしたい。

西中 自分ではこんなに大騒ぎになるとは思ってもいませんでした。会見後は別の用事で、ネットもテレビも見ていなかったんです。そしたら翌日、たくさん電話やメールが入っていて、えらい騒ぎになっていると。
 これまで原発事故関連の取材に関しては、事故直後から始まった年間20mSv「基準」撤回の取り組みや、原子力損害賠償紛争審査会、特定避難勧奨地点の設定と解除、埼玉県に集団避難した双葉町、福島県内の仮設住宅、「避難の権利」と「原発事故 子ども•被災者支援法」、いくつかの住民集団訴訟などを取材し、復興庁の記者会見には、節目節目で出てきました。
 原発事故から6年が経ちますが、この間「復興の加速化」のかけ声が大きくなる一方で、避難者の姿はどんどん見え難くなり、誰がどう責任をとるのかということはうやむやにされたままです。そんな中、3月末で避難指示区域の大半が解除され、区域外避難者への住宅無償提供が打ち切られました。これは生活そのものを大きく左右する大問題です。その影響の実態や、責任の所在はどこにあるのか、国の責任とは何か? 復興大臣の考えを改めて聞きたいと思いました。

――こうした省庁の記者会見では記者クラブに加入できないフリーはなかなか質問の機会がなかったりしますが、今回はどうだったのでしょう。

西中 各省庁によって違いますが、多くは記者クラブの幹事社から質問が始まり、大手の記者、そしてフリーと続くケースが多い。しかし復興庁は記者クラブじたいがなく、職員が議事進行していました。さらに最近の会見録を見れば分かりますが、復興庁の会見は質問が少ないことが多い。今回も冒頭の大臣発言が終っても誰からも質問が出ず、そのまま記者会見が終わりそうになったので、慌てて手をあげて、一連の質問になったのです。
 もちろん今村大臣のこれまでの発言を確認しても、期待できる答えが返ってくるとは思っていませんでした。少し前の『日曜討論』(NHK、3月12日放送)でも、自主避難者に対して「故郷を捨てるのは簡単だが、戻って、とにかく頑張るんだという気持ちを持ってもらいたい」などと発言していましたからね。大臣の頭の中は、"なんで早く帰らないんだ。なぜ地元の復興のために頑張ってくれないんだ"という思いが先走っていたと思います。実際、そうした気持ちが記者会見でも伝わってきました。ですから、それはおかしいだろうと質問を繰り返したのです。
 今村大臣は"避難者の面倒を見てやる"的な上から目線の発言が多いと思いますが、もちろん、あそこまで激怒するとは思いもしませんでした。ただ国策の結果原発事故が起り、否応無しに避難生活が続いているのだから、国としての責任を、自分の言葉で語って欲しかっただけです。

――激怒のきっかけは西中さんが発した「自己責任」に関する質問でした。福島に帰りたいけれど、帰れない人がいる。この質問に対し、今村復興相は「それは本人の責任でしょう」と答えています。

西中 同様の発言は実は3月14日の記者会見でも出ていたことです。「避難指示を解除するというわけで、皆さん判断してくださいよと言っているわけです」と。4日の激怒会見の後、今村大臣は"感情的"だったことを謝罪しましたが、しかし"自己責任"という発言については当初、撤回すらしませんでした。それは本心だからでしょう。
 そもそも2015年5月、6月に、政府と福島県が相次いで「自主避難者の住宅支援を2017年3月末で終了する」と決定してから約2年間、打ち切りの撤回と住宅政策の拡充を、避難者と支援団体は、国、福島県、そして受け入れ先地方自治体などに訴え続けてきました。そして打ち切り期限が間近に迫る中、経済的に逼迫した避難者を路頭に迷わせないために、様々な必死の行政交渉や相談会を避難者自身や「避難の協同センター」などが続けてきました。しかし、第一義的な責任がある国と福島県は、その打ち切り方針を変える意志を示してきませんでした。
 2012年6月に全会一致で可決成立した「原発事故 子ども•被災者支援法」では、政府が指示した避難区域よりも広い地域を「支援対象地域」とし、そこで生活する被災者や、その地域からの避難者、帰還者、いずれの立場であっても、生活面、健康面での支援政策の実施を、国の責任において定めています。
"避難は本人の責任"などという今村大臣の信じられない発言は、そんな基本理念すら無視するということなのでしょう。
 さらに問題なのは、避難指示区域が解除され、自主避難の住宅無償提供が打ち切られるという状況が迫る中で、ぎりぎりの政府交渉や院内集会などが開催されても、出席した国と福島県は責任を押しつけあうだけで、責任の所在が全く見えず、復興大臣の存在は希薄で、話題にすらなりませんでした。

――そうした問題は、たしかにテレビや新聞などでもほとんど取り上げられていませんね。

西中 最近の会見録を見ても、原発事故の自主避難者が直面する問題を質問する記者は少なかったと思います。しかし、3月14日の記者会見で突っ込んだやり取りがあったので、問題がうやむやにならないように、避難者の生活再建の命綱である住宅問題について、国の責任を明確にしておきたかったのです。
 また3月17日、前橋地裁が原発事故の原因を東電と国の責任による人災と認め、一部の避難者に対して不十分ながら損害賠償を命じた判決がでました。現在、同様の住民集団訴訟が全国30 カ所近くで起きています。今後様々な判決が各地で出ると思いますが、原発事故で「国の責任はありません」では済まされません。
 そもそも復興庁がなぜできたのか。それは東日本大震災と、福島第一原発事故があったからです。しかし、東京オリンピックが開催される2020年までの設置期限が設けられています。震災と原発事故からわずか9年でなくなる。オリンピックまでに、「原発事故被害者はいなくなりました」と現政権は言いたいのではないかと勘ぐりたくなります。

――これまで自主避難を始め、原発事故を取材してきた西中さんにとって、そもそも今回の自主避難と住宅提供の打ち切り問題をどう見ているのでしょう。

西中 住宅無償提供の打ち切りが発表されてから2年間、避難者や支援団体と、政府や福島県との交渉や院内集会に何回も参加しましたが、大きくマスコミ報道される機会が少ない中で、3月末を迎えてしまいました。そして国は住宅対策の責任を、福島県と避難者の受け入れ先自治体に丸投げしてしまいました。
 今回の今村大臣の記者会見での発言でも、「身近な親元である福島県が事情を一番良く知っているので、国はそのサポートをしっかりする」という発言がありましたが、「親元」って一体何なのですかね? 「避難者は、県と国が作ったルールに従え!」という上からの強制力にしか聞こえません。原発事故を起こした責任がある国が、被害を受けた福島県に責任を押しつけ、帰還しなければ、被害者である避難者が「自己責任」で住宅を確保しろというのは、どう考えてもおかしいです。本来なら、福島県は避難者の側に立って、国に対して抗議すべきだと思います。
 大臣の「自己責任」という発言も、"帰還ありき"という姿勢から出てきたことは明白です。「自主避難は勝手にやったこと、わがままだ」と大臣は言わんばかりです。最近しばしば報道されるようになった、避難先での子どものいじめ問題も、こうした国の避難者への対応の現れだと思います。
 住宅無償提供の打ち切りが迫る中で、生活に困窮する避難世帯が増えてきていると聞きます。子どもの低線量被ばくや内部被ばくを避けるため、母子避難している世帯も多いわけですが、数年前まで院内集会などに出席して積極的に発言していたお母さんが、最近どんどん減ってきているように感じます。長期間の避難生活で、経済的にも精神的にも逼迫しやむを得ず福島県内に戻られたご家庭もあるでしょうが、離婚はじめ様々な事情で帰る場所すら失い、自らSOS を発信する余裕すらない。追いつめられた家族が増えているのではないかと懸念しています。

――そうした弱者をバッシングする空気は日本に蔓延しています。また今回ネットでは大臣に逆らったとして西中さんへのバッシングも起こりましたが、そんな風潮についてどう思われていますか?

西中 4月4日の記者会見以降、連日大変慌ただしい状態で、メールやSNSは一部しか読むことができません。「今村復興大臣の辞任を求める署名活動」も始まり、わずか1日で28000筆を超える署名が集まり、抗議活動や署名提出、記者会見などが相次いで行われました。ですから自分に対するバッシングには気を止める余裕がないのが現状です。
 弱者バッシングということで、この10数年関わってきた取材の中で最初に思い出したのは、2008年から2009年にかけて起った、長期非正規滞在で法務大臣に在留特別許可を求めていたフィリピン人家族に対する「ネトウヨ」と言われる人々の誹謗中傷やヘイトスピーチでした。
 私は東日本大震災以前は、入管難民問題や外国人労働者問題、「治安テロ対策」の名目で行われていた在日ムスリムや難民申請者に対する警察の違法捜査と人権侵害、朝鮮学校の高校無償化排除問題などの取材や支援活動に長らく関わっていました。
 いずれにも共通するのが、行政機関による差別的な政策が行われる中で、深刻な人権侵害が起き、それに追随するように民間のバッシングが沸き起こるという図式です。在留特別許可を求めていたフィリピン人家族のケースもそうでした。オーバーステイが違法であることは確かですが、1980年90年代に来日し、経済産業界の労働力不足を補っていたのは、紛れもなく非正規滞在の外国人労働者でした。
 しかし日本政府は極めて狭い範囲でしか、外国人労働者の在留資格を認めていないので、多くの外国人が非正規滞在のままで在留年数が長期間し、結婚し子どもが生まれ、生活基盤を日本の地域社会に形成してきました。しかし景気が悪くなると、入管は取り締まりを強化し、このフィリピン人家族も父親が入管に収容され、最終的には、日本で生まれ当時中学1年だった娘だけが在留許可され、父母はフィリピンに帰国するという選択肢を選ばざるを得ませんでした。こういう家族は実は多いのですが、このケースは大きくマスコミ報道され、家族分離の強制送還に反対し家族での在留許可を求める声と、入管周辺や家族が在住する地域でのヘイトデモなどが入り交じり、注目されました。
 しかしこの家族に対するバッシングやヘイトデモが横行したきっかけになったのは、2003年秋に東京都と法務省、東京入管、警視庁が合同で立ち上げた「当時約30万人いた不法滞在外国人を、5年間で半減させる」という「不法滞在外国人半減キャンペーン」だったと思います。「治安テロ対策」の名目で「外国人犯罪の増加」の情報操作を行政機関自ら行い摘発や強制送還を大強化する。そのお墨付きに便乗するような形で、「不良外国人は出て行け!」というヘイトスピーチが始まりました。
 こうした傾向が、日本政府の植民地政策・戦争責任を拒否する傾向が強い第二次安倍政権発足以降激しくなり、在日朝鮮人や朝鮮学校、沖縄米軍基地建設への市民の抗議活動などに対する「ヘイトスピーチ問題」に繋がっていると思います。

――たしかに、今回の西中さんへのバッシングも明らかに安倍政権支持者とネトウヨが中心になっています。

 政治や行政による無作為や差別政策により深刻な人権侵害が生まれているにも関わらず、それを利用する形で民間のヘイトスピーチや、被害者へのバッシングが横行するという傾向が、この10数年強まっているのではないでしょうか。そして国の政策を批判すると「売国奴」とか「反日極左」というレッテル貼りがはじまる。私個人は好きでやっているだけなので何と呼ばれても構いませんが、苦しい状態に追いつめられた被害者をさらに貶め、傷つけるような風潮は許せません。
 ですから、やむにやまれず「自主避難」されている原発事故被害者に対して、「自己責任」であるとか「放射脳」であるとか、帰還を強要するような風潮は絶対に止めるべきだと思います。国の政策により被害状況が深刻になっている人たちがいる。その上に新たな誹謗中傷が生じていることは確かでしょう。そのような感情が、政権、閣僚の中にも蔓延しているように思います。
 今回の今村大臣の発言にしても、国や福島県が避難当事者の意見も聞かずに一方的に住宅無償提供の打ち切りを決めたにも関わらず、その路線に従わないのはけしからん、という本音が出たのだと思います。あれだけ感情が露になったのには驚きましたが、あれが素直な気持ちなのだと思います。
 安倍政権全体がそうですよね。安倍首相自身、批判的な意見に対しては感情的に食ってかかる。「気分のナショナリズム」とでも言うのでしょうか。しかし、そのような気分や身勝手な信念で押しつぶされるのが人権であり、人々の暮らしです。そして政権は不都合な事実を隠すことしか考えていない。ですから原発事故による避難者の存在じたいが、「復興の加速化」を標榜する現政権にとって不都合な存在なのでしょう。
 しかし震災から6年たっても、福島第一原発事故は収束していないし、低線量被ばくや内部被ばくの心配をしながら、福島県内で暮らしている多くの人々や、やむにやまれず避難生活を日本各地で続けている人々がいる。そのような"現実"に、これからも向き合っていかなければならないと思います。

(インタビュー・構成 編集部)

西中誠一郎
1964年東京都生まれ ジャーナリスト。入管難民問題や外国人労働者問題、治安テロ対策と監視管理社会化、戦後補償問題などをテーマに活動。「週刊金曜日」(金曜日)や「世界」(岩波書店)などに寄稿。共著に『国家と情報――警視庁公安部「イスラム捜査」流出資料を読む』(現代書館)などがある。