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自分以外のクリエイターが成功しているのは、才能と献身のおかげに違いない。それに引き換え自分には才能がなく、運のよさと人並み以上の努力で何とかここまでやって来た。

このように、厳しい評価をしていませんか? もしそうなら、あなたは詐欺師症候群(インポスター・シンドローム)と呼ばれる自己不信に陥っているかもしれません。仕事に対する恐怖の中で暮らしているのでしょう。いつか、本当の自分が露呈してしまうのではないか。めったにない偶然の達成という幻想がいつか消え失せ、同僚やメンターに失敗という恥ずかしい真実がばれてしまうのではないか。

詐欺師症候群は、1970年代に初めて説明されました。女子大に勤務していた臨床心理学者らが、多くの学生が成績について神経質になっており、真の実力が露呈するのを不安に思っていることに気が付いたのです。その後の研究で、あらゆる職業の男女が、詐欺師のような感覚を経験していることが明らかになりました。最新の推定では、人生でこの種の自己不信を経験する人は実に70%にも上ることが指摘されています。

詐欺師症候群は、とりわけクリエイティブな業界で働く人に影響を及ぼします。この世界では、天性の才能で桁外れの成功を収める人はほんの一握りで、普通の才能しかない残りの人々は必死でもがくしかないという神話がまことしやかに語られています。ある程度の成功を収めたクリエイターは、それが幸運か努力によるものであり、真の才能によるものではないことを心配してしまうのは無理もありません。

残念なことに、詐欺師症候群はキャリアに悪影響を及ぼすことが最近の研究でわかってきています。200人の職業人を対象にしたザルツブルク大学の調査では、詐欺師症候群を経験している人は給料が低く、昇進する可能性が低く、仕事への満足度が低く、貢献度も低いことがわかりました。

でも、ご安心ください。心理学研究によって、詐欺師症候群に苦しめられている人の典型的なマインドセットや行動が明らかになっています。以下に、その感覚を低減するシンプルな方法を紹介します。これで、あなたのキャリアを守ってください。

1. 健全な完璧主義者になる


ベルギーの心理学者らが、3つの業界で働く200人を対象に研究を行いました。その結果、詐欺師症候群の感覚を持つ人は、「不適応な完璧主義」(「ミスをするとイライラする」などの質問に同意すると高くなる)のスコアが高く、「適応型完ぺき主義」(「人よりも厳しい目標を設定する」など)のスコアが低い傾向があることがわかりました。

健全でない完璧主義を示す人は、失敗を恐れ、批判を恐れ、ミスを恐れ、過去の過ちを気に病み、他者を失望させることを極端に心配します。これを改善するには、健全な完ぺき主義者のアプローチをするとよいでしょう。他人に認められるためではなく、自分のためにできるだけのことをする。ミスや挫折を過剰に心配しないなどのアプローチです。


2. 防衛的悲観主義とセルフハンディキャッピングを避ける


詐欺師症候群の人は、物事がうまくいかなかったときに恥ずかしさや不安を感じる傾向があります。それにより、自らの能力や才能不足が露呈すると考えてしまうのです。このような不快な感覚を避けたいがあまり、詐欺師症候群の人が新しい課題に直面すると、次の2つの心理的習慣のいずれかまたは両方をとることが多くなります。

その1つ目が防衛的悲観主義で、最悪の事態を恐れるあまり、たとえば過度に一生懸命取り組むことで、それが起こるのを避けようとします。

2つ目が、セルフハンディキャッピングで、自分のチャンスをわざと危うくする行為です。たとえば、ギリギリまでプロジェクトを先延ばしにして、うまく行かなかったときの言い訳を用意しておくのがこれに当たります。

これら2つのアプローチは相反するように聞こえますが、実際はよく似た有害思考のスパイラルにつながります。このスパイラルに陥ると、一時的なものだった詐欺師の感覚が、慢性的な衰弱性の心理状態へと変化します。このようにネガティブな思考にもかかわらず成功を収めると、防衛的悲観主義の詐欺師はそれを祝福するのではなく、継続できないレベルの努力によるものだと思いこみます。そして、ここまでの努力を必要とするのは自分だけだろうと考えるのです。一方、先延ばし型の詐欺師は、成功を確実に運のおかげだと思います(だって、ぎりぎりに間に合わせでやっただけですから)。

このようなやり方が身近に聞こえるなら、あなたは詐欺師のマインドセットに陥っていると思われます。もう一度、自分の動機を確認してみましょう。可能であれば、創造する喜びを再発見するのです。次のプロジェクトの成果を、自分の価値のバロメーターだと思わないでください。自分を信じ、そのプロジェクトのメリットと難しさに見合った努力を投じることで、詐欺師のスパイラルを断ち切るのです。


3. 成功者の偽りのないストーリーを聴く


心理学者Pauline Clance氏の研究によると、詐欺師症候群の人は、他人と違うことに自尊心を抱く傾向があるようです。しかし、クリエイティブな業界では、ある程度の成功を収めると、周囲を取り巻く人が変わります。気が付くと、周りには成功を収めた人が増えているでしょう。そのため、自分が特別だという感覚を得ることは難しくなります。その上、周囲の皆は才能でここまで来たのに、自分は幸運と人並み以上の努力でのし上がってきたと思い込みやすくなります。しかし、それは幻想です。多くの成功者の経歴の背景には、嫌になるほどたくさんの失敗、方向転換、自己疑念があるのが常なのです。Oliver Burkeman氏は「99u」に、「誰もが心の奥底に、自分はその場しのぎでやっているという感覚を持っているものです」と書いています。

詐欺師の感覚に対抗する有力な手段の1つが、信頼できる同僚やメンターにキャリアの話を聞くこと。彼らのストーリーや経験に耳を傾けることで、何ごとも簡単には実現できないことを発見できるはずです。


4. 互いに助け合える環境を


詐欺師の感覚は、不安、自尊心の低さ、自己不信によって助長されます。そこで、同僚とお互いに支え合う環境を作れば、これらの感覚に対抗できます。これは、組織の観点からも有用です。なぜなら、詐欺師の感覚を持った従業員は、会社への貢献度が低くなるからです。

そのような文化を築くにはどうしたらいいでしょうか? まずは、スターパフォーマーに、自らの成功の背後にある試練と困難を正直に話してもらうのがいいでしょう。そして全員が平等に、個人的な批判ではなく、プロセスやテクニックに対する建設的なフィードバックを相互に伝えます。最近のベルギーの研究では、支え合う職場環境(「自分より職位の高い人が頻繁に時間を割いて自分のことを気にかけてくれる」などの質問で測定される)を構築することで、労働者の詐欺師の感覚と、仕事への満足度の低さや組織への貢献度の低さの関係を弱められることが示されています。


5. 対抗措置を取る


詐欺師症候群の感覚は、キャリアに長期的な悪影響をもたらします。ヨーロッパの複数の国の大学生を対象にしたある研究では、詐欺師の感覚が職業上の適応性を低下させることが示されました。これには、将来のキャリアへの不安も含まれます。たとえば、詐欺師の感覚を持つ人は、転職や昇進のチャンスを追いかけようとしません。その理由は、現在のポジションを保ちたいから。新たなチャレンジによって、自分が詐欺師であることが露呈するのが怖いのです。

前述のステップに従って詐欺師症候群に正面から立ち向かうことは重要ですが、実践的には、詐欺師の感覚がキャリアに悪影響を及ぼす方法を知り、熟考した対策を取るのが有効なアプローチと言えるでしょう。たとえば、昇進を望んだり、エキサイティングな転職先を探してみてはいかがでしょうか。

成功を収めるほど、詐欺師の感覚に陥りやすいのが現実です。それは本当に、よくあることなのです。自己不信にどっぷり漬かったら、とにかくそこから飛躍しましょう。それが、他の誰もがやっていることなのですから。


How to Beat the Imposter Syndrome Feeling | 99u

Christian Jarrett(訳:堀込泰三)
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