新年度がスタートした。春休み、飛行機で成田空港に降りた息子が、開口一番「中国人ばっかり」と叫んだ。清明節の連休と重なり旅行者も多かったが、大半は留学ビザや就業ビザを取って、日本でキャリア開拓を目指す中国人だった。

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新年度がスタートした。春休み、飛行機で成田空港に降りた息子が、開口一番「中国人ばっかり!」と叫んだ。清明節の連休と重なり旅行者も多かったが、大半は留学ビザや就業ビザを取って、日本でキャリア開拓を目指す中国人だった。

昨年、中国の大学を卒業したモンゴル族中国人のマリも、今頃は日本にいるはずだった。だが、3月中旬、日本での就職は土壇場で「白紙」となった。内モンゴル出身の彼女は、小学生のころから日本のアニメにはまり、高校で平仮名を独学し、大連にある大学の日本語学科に進学した。「マリ」というニックネームは、任天堂のゲーム「スーパーマリオ」のキャラクターが由来だ。

彼女は一昨年、交換留学生として1年間日本に留学した。就職活動も試みたが、日本の就活システムの理解に時間がかかり、内定が取れないままビザの期限を迎え帰国した。とはいえ、マリは中国全土の日本語スピーチ大会で入賞したこともあるほど日本語堪能で、学生時代は日本人駐在員との交流も多かった。豊かな自然環境で育ったモンゴル族だからか、おっとりとしていて、日本人にとっても付き合いやすい。インバウンドの盛り上がりで人材不足に陥っている日本のホテルや旅館に外国人従業員を紹介する人材エージェントが彼女に目を付け、中国への帰国後もインターネットで日本企業と面接ができるよう取り計らった。

そうしてマリは今年初め、ある地方の日本旅館の面接に臨んだ。数日後、彼女から「内定をもらえました。4月に日本にまた行けます」と報告が入ったときは、彼女の実力と人柄ならと驚かなかったが、次の言葉に不安がよぎった。

「(学生時代のクラスメートの)王さんも一緒に面接を受けて、合格しました。一緒に行きます」
「え?王さんって?」
「北京で就職したのですが、会社辞めたいからって。だから誘いました」
「そう……」

王さんは日本アニメが好きだったような気もするが、成績は目立たず、日本人との接触も少なかった気がする。大丈夫かな……。

嫌な予感は的中した。先月中旬、マリから「内定は取り消されました」と連絡が入ったのだ。彼女の説明はこんな感じだった。

「王さんは、ビザのこととか住む場所とか、色々な希望を旅館に言って、旅館の人も聞いてくれました。けれど一昨日、やっぱり気が変わったから、日本に行かないと断りました。それで旅館の人はすごく怒って、私のことも信用できないって……」

日本の新卒採用は、基本的には10月に内定式を行いそこで入社を承諾したら、翌4月の入社はよほどのことがない限り保証される。内定式後の内定辞退も、内定取り消しも、重大な信義違反だ。

中国社会はそんな長いスパンで物事を考えない。大学生たちは4年生になって学校の授業が減ると、インターンを探して働き、双方が合意すればそのまま就職する。日本のように一斉に就職活動が始まるわけでもなく(そもそも企業が足並みをそろえない)、インターン先で就職しない人は、卒業前後にぱらぱらと仕事探しを始める。大企業と中小企業でも初任給に大きな差がない日本と違い、中国では新卒でも給料に2倍、3倍の開きがあるから、条件を落としていけば、職にありつくことはできる。

そもそも、中国の大学生は新卒で入社した会社に長く勤めるという意識もないから、日本人学生ほど企業研究も熱心にしないし、「合わなければ辞めればいいや」と考えている。実際、卒業後1年したら半分は離職しているし、会社が倒産して放り出されることも珍しくない。中国は、転職によってポジションと収入を上げていく。収入が増えている限り、仕事を辞めたり、職を転々とすることは、マイナスにはならない。要するに、中国では、新卒の人材採用にかけるコストが非常に低い。