ダルデンヌ兄弟『午後8時の訪問者』は、ポピュリズムに対するアンチテーゼ

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名匠ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌが描く、ヌ召發覆少女イ了爐鬚瓩阿襯劵紂璽泪鵝Ε汽好撻鵐后惴畍紕源の訪問者』。

『ロゼッタ』『ある子供』でカンヌ国際映画祭パルムドールを2度受賞、また7作品連続でカンヌ国際映画祭コンペティション部門選出という異例の快挙を成し遂げている、ベルギー出身のジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ兄弟。どんな時代でも精力的に作品を発表し続ける、名実ともに現在の映画界を代表する巨匠である。

ある日の夜、診療時間をとっくに過ぎた午後8時に鳴ったドアベルに、若き女医のジェニーは応じなかった。その翌日、診療所近くで身元不明の少女の遺体が見つかり、その少女は診療所のモニターに映っていた少女だったことが判明する。救えたかもしれない命を見過ごしてしまったジェニー。彼女は、「あのときあの扉を開けていたら、少女を救えていたかもしれない」という罪悪感にとらわれ、必死に少女の身元を突き止めようと奔走する。

ダルデンヌ兄弟はこれまでも、少年犯罪、育児放棄、貧困など、深刻な社会問題をベースにしながら、人間の本質に鋭く切り込んできた。本作では、女医ジェニーの葛藤の物語を通じ、人が抱える矛盾、執着心、あるは無関心をジリジリとあぶり出した。


(C) LES FILMS DU FLEUVE - ARCHIPEL 35 - SAVAGE FILM - FRANCE 2 CINÉMA - VOO et Be tv - RTBF (Télévision belge)

-主人公の女医ジェニーを、フランスの若手実力派アデル・エネルが演じています。彼女をキャスティングした理由とは?

リュック:アデルとは、あるレセプションで偶然出会ったんだよ。舞台の上の彼女を見て、とても無垢でイノセントな印象を受けたんだ。彼女の存在自体に信頼が置けるようなイメージが湧いたので、ジェニー役にいいなと思ったんだ。

-アデルは「ダルデンヌ兄弟と仕事ができるなんて夢に思ってなかった」と話していましたが、俳優たちからそのような羨望の眼差しを受けるのはどんな感じなのでしょう?

ジャン=ピエール:ラ・フォンテーヌの寓話『カラスとキツネ』を知っているかい? カラスが美味しいそうなものをクチバシに加えていると、キツネがカラスをおだててその食べ物をクチバシから落とすという話。つまり、その手の話には気をつけないとってことさ(笑)。

冗談はさておき、アデルとはとても良い関係が築けて、とても実りある共同作業ができたよ。芸術的な面でも人間的な面でもね。

-映画でしばしば描かれる医師という人物像は、プライドが高く高慢、もしくは情にあふれた英雄的な人物として描かれることが多いですよね。ジェニーはそういったステレオタイプではありませんが、主人公を医師という職業に設定した理由とは?

ジャン=ピエール:この映画の企画を考える前から、医者の物語を描きたいとは思っていたんだ。普通は医者というのは命を守る、つまりセ瓏イ魃鵑兇韻訖祐屬世茲諭そこで、ト發魍けなかったために誰かが命を落としてしまったイ箸い設定を作ることで、この作品で描きたい重要なポイントを浮き彫りにできると思ったんだ。例えば靴屋や建築家よりも、医者ならイ△了、扉を開ければ命を助けられたイ閥く思うんじゃないだろうか。それによって医者というステレオタイプも崩せると思ったんだ。

医師という職業は学校の先生みたいな、どこか天命を受けて目指すような職業だと思うんだ。宗教性のない聖職者とでも言うのかな? お医者さんになら何でも話せるような側面もあるよね。それに医者というのは苦しんでいるときに必要な存在だから、子供が母親を呼ぶときにも似ている。実際どうかは別として、お金のためにやるような仕事ではない。


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ジェニーが聴診器に耳を当てるシーンが何度か描かれるけど、医者というのは人のゼイ砲覆襪戮存在。彼らは患者の体の調子が悪いところを注意深く聞くことによって、その人の内面を知る。そうやって人の声に耳を傾けて、その人物を探っていくんだ。この物語でも、ジェニーが人の心をナ垢イ海箸如¬召發覆少女への道筋が見えてくるという描き方をしている。

シナリオを書く時も、知り合いの女医に何度も電話して詳細を調査したよ。撮影現場にも来てもらって、アデルの医者としての所作が正しいかどうかも見てもらった。アデルは撮影前にも彼女のところに修行に行っていたしね。それくらいリアリティにはこだわったんだ。

-「あのとき、もしもあの扉を開けていたら」という物語ですが、お二人にも「あのとき、ああしていれば」みたいな経験があったのでしょうか?

リュック:そうだね、後悔したくなるようなことって人間誰しも経験あるよね。この映画のような死に結びつく事態は、これまでの僕の人生にはなかったけどね。だから、何かそういう経験があってこの映画のシナリオを書いたというわけじゃないんだよ。

-今作では、移民という社会問題を織り交ぜながらも個人の葛藤にフォーカスし、スリリングにドラマチックに物語を描き出していますよね。そういった手法がお二人の作品の魅力だと思います。

リュック:世界的に見ても、移民問題は日に日に大きくなっていってるよね。グローバル化が進み、今は誰でもインターネットを使える時代。ネットを覗けば、自分のいる場所よりもっと素晴らしい世界が見える。ましてや自分の国で戦争が起こっていたら、より安全な場所、より良い生活を望むのは人間として普通の感情だよね。実際、外の世界に出て行けば生活は豊かになるし自由もある。

ただ、今の社会はどこまで移民の人たちを受け入れることができるのか。ヨーロッパでも失業者は多いし、経済的不況は続いている。だから人々は外国の人たちが自国に流れ込んでくることを恐れている。それをうまく利用するポピュリズム的な政治も行われている。複雑な状況なんだ。

だからと言って、そういった問題に目を閉じるのはどうだろう。そこに対して無関心、何も感じないというのは間違っている。この物語の主人公ジェニーのように、ト發鯤弔犬討い燭ために誰かが死んでしまったァ△修ΔいΔ海箸起きた時に、何らかの責任を感じるというのは人間らしいこと。それがこの映画の重要なポイントになっていると思う。

社会が移民問題をどう解決していくか、それは政治が決めていくべきもの。だからこの映画では、政治ではなく個々人の気持ちを描いているんだ。移民に対して抱く恐れや反感や憎しみ、あるいは人々の無関心を巧みに利用するポピュリズム、それに対するアンチテーゼを唱える映画だよ。

アメリカだけじゃなく、ヨーロッパでもポピュリズムが台頭している。アメリカほど国民の不安を煽ってはいないけどね。他人に対する憎しみ、侮辱、そういった嫌な感情を助長させるような政策を、アメリカのトランプ大統領はやっている。本来は人々を平和の方向に導く、そのために諸外国と交渉していくのが国家のリーダーの役目だけど、彼は全く逆のことをやってるよね。それは恐ろしいことだよ。これは世界的大惨事を生む可能性がある。アメリカ国民がそういった風潮に反論してくれることを願うばかりだね。

ジャン=ピエール:僕も全く同感だ。


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-兄弟で共作を始めて40年は経ちますね。精力的に映画製作を続けるための原動力、インスピレーションはどこから得ているのですか?

ジャン=ピエール: 映画を作り続けることで、自然ともっとやりたいと思うようになった感じかな。作業としてこなしていくうちに、具体的に仕事として続けていきたいと思うようになったんだよ。何かの映画を見て、突然映画を作りたくなったわけじゃなくてね。映画製作なら二人でできる仕事だし、もし映画作りをやめたら二人で何か一緒にやるのは無理だからね(笑)。

Jean-Pierre Dardenne/Luc Dardenne
ジャン=ピエール・ダルデンヌ/リュック・ダルデンヌ 兄のジャン=ピエールは1951年、弟のリュックは 1954 年にベルギーのリエージュ近郊で生まれる。ジャン=ピエールは舞台演出家を目指してブリュッセルへ移り、そこで演劇界、映画界で活躍していたアルマン・ガッティと出会う。その後、兄弟はガッティの下で暮らすようになり、芸術や政治の面で多大な影響を受け、75 年にはドキュメンタリー製作会社「Derives」を設立する。86 年、ルネ・カリスキーの戯曲を脚色した初の長編劇映画『ファルシュ』を監督し、その後『イゴールの約束』でカンヌ国際映画祭国際芸術映画評論連盟賞をはじめ、多くの賞を獲得。続く『ロゼッタ』ではカンヌ国際映画祭で最高賞にあたるパルムドール大賞と主演女優賞を受賞、さらに02 年の『息子のまなざし』でもカンヌ国際映画祭で主演男優賞とエキュメニック賞特別賞をW受賞した。その後も『ある子供』『ロルナの祈り』『少年と自転車』『サンドラの週末』と精力的に作品を発表し続けている。

『午後8時の訪問者』
監督・脚本:ジャン=ピエール・ダルデンヌ、リュック・ダルデンヌ
キャスト:アデル・エネル、オリヴィエ・ボノー、ジェレミー・レニエ、オリヴィエ・グルメ
(C) LES FILMS DU FLEUVE - ARCHIPEL 35 - SAVAGE FILM - FRANCE 2 CINÉMA - VOO et Be tv - RTBF (Télévision belge)
http://www.bitters.co.jp/pm8/
4月8日(土) ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー。