身長を10センチ上回った手の長さ 特異な武器で“PKストッパー”としてファンを魅了

「普通助っ人を呼ぶなら、みんなFWかMFを期待する。だから僕はGKでも違いを見せられることを証明したかったんだ」――シジマール

 54歳のシジマールが今季からGKコーチを務めるJ3の藤枝MYFCで、3月31日にJリーグ選手登録されたというニュースが飛び込んできた。清水エスパルスでプレーしていた1995年に33歳で引退しているから、22年ぶりの現役復帰ということになる。

 往年のファンなら覚えているだろうが、シジマールはJリーグ草創期に「スパイダーマン」の愛称で親しまれた人気GKだった。U-20ブラジル代表として、レオナルド(元鹿島アントラーズなど)やドゥンガ(元ジュビロ磐田など)らと一緒にプレーをしていた実力者だったので、さすがに当時の日本では圧倒的なパフォーマンスを見せつけた。ブラジル国内では次期セレソンの正GK候補として、95〜97年にセレッソ大阪で活躍したジルマールと盛んに比較されたそうである。

 183僂GKとしては小柄だが、手を伸ばすと身長を10センチも上回る。とにかくクモのように長い腕でPKストッパーとしても名を挙げた。だが闘志満々なスタイルが、血気盛んな浦和サポーターを挑発してしまったこともある。

「ゴール裏のサポーターが、PKを獲得しただけですっかり喜んでいた。だからまだ僕がいるぞ、とアピールしたつもりだったんだけど……」

 結局、浦和サポーターが乱入してきたので、シジマールはそれをなだめるためにスタンドに向かって土下座をする。

 日本に来て年配の方から教わったんだ。本当に悪いことをしたと思った時は、そうするのが礼儀だってね」

7歳からGK一筋 愛情があれば「身長のハンディだって補える」

 指導者に転身してからも、熱血ぶりが目を引いた。

「日本代表の弱点がGKだと思われるのが、本当に嫌なんだ。昔はブラジルでも、優れたGKが育たないと言われてきた。でも最近ではトップレベルのGKが出てきている。大切なのは、GK専門のコーチが若年層からしっかりと指導をすることだよ」

 シジマールは続けた。

「何より大切なのは、GKというポジションに愛情を持てるかだ。毎日とてもハードなトレーニングに取り組まなければならないからね。逆にそのトレーニングに歓びを見出せれば、プレーの質は培っていける。身長のハンディだって補える。日本にもテクニックの高いGKはたくさんいるんだ。近い将来、国際的にも通用する選手が出てくるはずだよ」

 7歳から大好きなGK一筋。「そんなブラジル人は滅多にいないよ」と笑みを湛えていた。

(文中敬称略)

加部究●文 text by Kiwamu Kabe

◇加部究(かべ・きわむ)

1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(ともにカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。