韓国大統領候補の文在寅氏(YONHAP NEWS/アフロ)

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 韓国前大統領の朴槿恵(パク・クネ)容疑者の罷免に伴う5月の大統領選に向け、最大野党「共に民主党」は3日、大統領の公認候補に文在寅(ムン・ジェイン)前代表を選出。文氏がこの余勢を駆って、そのまま本選を勝利して大統領に就任すれば、厳しい対日姿勢が売りだけに、日本にとっては悪夢となる。また北朝鮮との融和政策を強調しており、日米にとって安全保障上、極めて憂慮すべき事態が現実化する可能性が強い。

 一方、中道系の野党第2党「国民の党」も4日、公認候補に安哲秀(アン・チョルス)前共同代表を選んだ。今回の大統領選では朴氏の逮捕による保守系政党は振るわず、文氏1強の構図が強まるなか、「反文」勢力の軸として安氏の支持率が急上昇。両氏の一騎打ちを想定した最近の世論調査によると、「接戦」もしくは「安氏がわずかに優勢」との結果も報じられている。

 このようななかで、前回の2012年の大統領選同様、カギを握るのは若者の動向とみられているが、既存の政治家としてのイメージが強い文氏よりも、「韓国のビル・ゲイツ」との異名で、清新なイメージが強い安氏に若者層が肩入れするとの見方も出ており、選挙戦は終盤までもつれ込むことも予想される。

 文氏は選出後の演説で「不公正や腐敗など、国民を失望させたあらゆる旧弊を完全に清算する」と述べるなど、朴政権からの政策転換を声高に主張した。文氏は友人による国政介入疑惑によって韓国が揺れ動くなかで、反朴の姿勢を鮮明にして、韓国で2代9年続いた保守政権批判の風に乗り、支持を集めた。

●2有力候補、外交姿勢は対照的

 文氏は最大野党の大統領候補に公認されたことで、いまや「最も次期大統領に近い人物」とみなされているが、その政治姿勢は極めて革新的だ。

 そのひとつが対北朝鮮外交で、「金正恩労働党委員長は北朝鮮の指導者であり、対話の相手として認めなければならない」「当選したらまず平壌に行く」などと公言してはばからず、対北融和的な路線をとる。

 かりに、文氏が大統領に就任すれば、米軍の最新鋭迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」の配備も白紙に戻る可能性も出てくる。そうなれば、トランプ大統領の対北対決姿勢と対立するだけに、米韓関係が緊張することも考えられる。日米韓3国の安全保障体制が崩れ、北東アジア情勢が混乱することは必至だ。

 日本にとって、最も懸念されるのは文氏が慰安婦問題について日韓合意の見直しを求めていることなど、反日路線を強調していることだ。実はそれが、文氏の高い支持率の大きな要因でもあるだけに、「文大統領」の誕生は日本にとっては悪夢となる。

 一方の安氏はというと、財閥改革など経済政策は文氏同様に革新寄りで、北朝鮮政策も「南北対話の再開が必要」との立場をとっている。しかし、その一方で、金正恩氏の異母兄、金正男氏殺害事件を受け、北朝鮮への制裁の強化を主張するとともに、米軍のTHAAD配備についても「米韓合意を尊重しなければならない」と強調している。日韓関係について「友好協力への決意を盛った1998年の日韓共同宣言に戻らなければならない」と主張しており、外交・安全保障政策は極めて現実的だ。

 昨年4月の総選挙で、新党を躍進に導いたのは安氏の人気の高さの現れといわれており、若者層の支持は文氏よりも強いとみられるだけに、革新支持層のうち「反文」勢力をまとめて、保守層の票も取り込めば、安氏の大統領選勝利もありうるとの最近の世論調査の結果も伝えられている。

 こうみてくると、過激な変革主義者とのイメージが強い文氏よりも、現実論者の安氏のほうが、日本や米国にとっては好ましい候補といえるが、朴槿恵元大統領の負の遺産が大統領選にどれだけ影響するのかが勝負の分け目となりそうだ。
(文=相馬勝/ジャーナリスト)