「上昇志向女子」のウォッチリスト

さて前回書いた「ワキ汗」の女性。彼女の素晴らしい上昇ぶりを今も密かにウォッチしている私は、「上昇志向女子」が嫌いじゃありません。ていうか、むしろかなり好き。私の中にはウォッチリストがあり、常時数名が登録されています。こう書くと、ああいやらしいな、他人事として観察してるんだな、どうせ「友達にはなれないけど」という発想なんでしょと誤解されたりしますが、そうではありません。私のほうはぜひ一緒にお酒でも飲む関係になりたいのですが、彼女たちのほうが、縁も所縁もうまみもない私に付き合ってくれるほど暇ではありません。

ウォッチだけってそれって映画見てるのと同じじゃん、という話で、今回ネタにしたいのは『作家、本当のJ.T.リロイ』という作品です。J.T.リロイってご存知ない方も多いかもしれませんが、'96年のデビュー作『サラ、神に背いた少年』という作品が世界的なベストセラーになった当時十代の美少年作家です。その内容は「娼婦である母親に、女装した幼い男娼として客を取らされていた」という"自身の経験"を書いたすごーくショッキングなものだったのですが――これを書いたJ.T.リロイが、実はパッとしない30代女性だったことが'01年に発覚してしまったのです。

「30代のオバさんが書いた妄想小説じゃ売れない」という判断があったのかなかったのか、彼女は自分の書いた完全なフィクションを「美少年作家が書いた自伝」というさらなるキャッチーなフィクションで包み、殺到する取材が避けられなくなると、完全プロデュースした義理の妹に影武者を演じさせ、5年間も事実を隠し続けたのです。

能力・努力・気力・体力を、フル稼働してまで欲しいもの

有名になりたい、お金持ちになりたい、すごいと思われたい、チヤホヤされたい、といった素朴な「上」への憧れは、若気の至り期には誰にでもあるものです。かくいう私だって例外ではありませんが、大人になり楽しいだけじゃないその実態を知るようになる、そういう人たちの能力・努力・気力・体力のフル稼働ぶりを見るにつけ、「自分にはムリ」というのもわかってくるものです。それは自分がフル稼働すれば上昇できるかどうかという問題のみならず、自分がフル稼働したいかどうかという問題でもあります。

例えばこのローラさんの状況を、ちょっと想像してみましょう。小説を書き、小説を書いた人物も作り上げ、影武者を仕立て、嘘がバレるかもと常にひやひやで、その子がボロを出さないようほぼつきっきりで、誰にも本当のことを話せず……ってこう書いてるだけで史上最高にスーパー面倒くさい、今日は一日毛布にくるまってゴロゴロとか、日常を忘れてのんびり温泉旅行とか、美味しいカフェで一人ぼーっとするとか、そういう時間全然ないわけで、これが全部事実であることのほうが、ほんとにほんとにマジで?という気持ちにさせられます。つまりは、そうまでして何かを手に入れたい人の気持ちが、実のところ私にはさっぱりわからず、だからこそ、その人を突き動かすものが何なのか知りたくて、ついウォッチしてしまうのです。

以前、私のウォッチリストにいた一人で、"枕営業"をしているという、周囲から極めて悪い評判の女子がいました。いまどき"枕営業"を求める男がいて、それに応じる女がいるという前時代性に驚きつつも、私はふと思いました。その手法の是非は別にして、彼女がそうまでして欲しいものはなんだろう、と。もしかしたら心の中に何かしらの欠落があるのかもしれない、とも。

でもその欠落をどうしても埋めたいからこそ、社会の常識や倫理さえ吹っ飛ばせる強さが生まれるなら、それはそれで、ちょっとうらやましかったりもするなあ。

『作家、本当のJ.T.リロイ』

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