三浦大知『HIT』

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・「男性パフォーマー第三極」の充実

 ひと月ほど前の話になるが、3月22日にリリースされた三浦大知の1年6カ月ぶりのアルバム『HIT』がオリコンチャート初登場4位を獲得。リリース前後には多数のメディアに出演し、従来のファン層のみならず多くの音楽ファンの間で話題を呼んだ。作品の詳細は先日当サイトにアップした記事に譲るが(http://realsound.jp/2017/03/post-11785.html)、この先さらにたくさんの人に届いてほしい意欲作である。

 三浦大知『HIT』のリリースから遡ること1週間、3月15日に発表されたのがw-inds.『INVISIBLE』。こちらも発売直後のオリコンチャートで初登場4位にランクインした。2014年のアルバム『Timeless』あたりからその音楽性がじわじわと評判を広げていた彼らだったが、今作の先行シングル曲「We Don’t Need To Talk Anymore」の海外のポップソングに引けを取らないクオリティによっていよいよその実力が多くの音楽ファンに「見つかった」感がある。『INVISIBLE』にも「Complicated」「CAMOUFLAGE」など「We Don’t Need To Talk Anymore」と同様の心地よい浮遊感を持ったダンスナンバーが複数並んでおり、「日本のポップミュージックはガラパゴス化している」なんて話はどこ吹く風といった感じの作品になっている。

 「We Don’t Need To Talk Anymore」のクオリティがネット上で話題になり始めた際、昨今のインディー界隈における注目株として名前が上がることの多いyahyelとDATSで活躍する杉本亘が「w-indsと一緒になんかやりたい…」(原文ママhttps://twitter.com/monjoe_/status/820547845346512896)と反応する一幕があった。w-inds.の活動がシーンの枠を越えて認知されつつあることをわかりやすく示すエピソードだが、こういった「越境」という観点から並べて挙げたいのが1月に新作『OLIVE』をリリースしたSKY-HIである。AAAのメンバー・日高光啓として活躍するのと並行してヒップホップシーンに確かなポジションを築いてきた彼は、今ではロックフェスでも支持を集めるような独特の動きを見せている。『OLIVE』も最近のアメリカのR&Bやヒップホップに見られるゴスペル的なムードを自分の問題意識とうまくリンクさせた深みのあるアルバムで、アッパーな「アドベンチャー」から大きな愛と肯定を歌う「クロノグラフ」「ナナイロホリデー」まで、自身が語る通り一本の映画として機能するような作品に仕上がっている。

 三浦大知、w-inds.、SKY-HI。それぞれが自身の資質と向き合った素晴らしいアルバムを今年の第1四半期に発表したが、ジャニーズ事務所所属でもなければLDHのグループでもない男性パフォーマーの作品が音楽ファンの間でこのようにまとまった形で注目を集めたことはこれまであまりなかったように思う。海外の音楽とのつながりを意識しながらユニークな作品を自ら作り上げる「第三極」とも言うべきシーンが生まれたのは、日本のポップミュージックの層をより分厚いものにする喜ばしい動きである。SKY-HIがw-inds.の橘慶太の作品に参加していたり、三浦大知とw-inds.が同じ事務所に所属していたりと、何かと交流のあるこの3組。先日SKY-HIと橘慶太は再びの共作をツイッターで匂わせていたが(https://twitter.com/SkyHidaka/status/834434378360975360)、脂の乗り切った今だからこそできるコラボを楽しみにしたいところである。

・ジャニーズとの相違点と共通点

 このタイミングで注目を集めることになった3組だが、彼らのキャリアはすでに長年にわたっている。三浦大知がFolderとして9歳の頃に活動を始めたのは1997年、ソロデビューを果たしたのが2005年。この年にはSKY-HIが所属するAAAもデビューしている。また、w-inds.がデビューシングル『Forever Memories』をリリースしたのが2001年ということで、それぞれ最低でも10年以上の活動歴があることがわかる。

 この3組は、これまでの活動の中でいわゆる「アイドル」的な見られ方を程度の差はあれされてきた部分がある。「音楽に対しての向き合い方が本気ではない」といった認識を持たれやすい場所を出自としながらも各々が音楽的な知見を深めていき、今では周囲のミュージシャンたちが一目置かざるを得ないような存在感を発揮するようになった。「見られること」「楽しませること」において一日の長がある彼らが純音楽家としてのパースペクティブを獲得したことで、マニアックさと間口の広さが同居するユニークな感触の表現が次々に生み出されている。「男性アイドル」としての「若さ」「フレッシュさ」といった部分が徐々に後退していく中でミュージシャンとしての実力をつけていっているこの3組の年齢の重ね方は非常にバランスが良い。

 ところで、日本において「若さ」「フレッシュさ」を魅力とする「男性アイドル」の代表格がジャニーズ事務所のグループであることに異論をはさむ向きはないだろう。彼らは十分なトレーニングが施されていない状態からステージに上がり、不特定多数の視線にさらされる。その時点ではスキル面で未成熟な部分も当然あるが、ファンはそんな少年たちが経験を積んで育っていくというプロセス自体を楽しんでいる。

 そういったハイコンテクストな表現がいわば日本における男性パフォーマーの基準点になっている状況から考えると、本稿で取り上げている3組のユニークさが際立ってくる。もちろん彼らの背景にもキャラクターとしての成長ストーリーがあるし、そこに魅力を感じているファンも多数存在するはずである。ただ、海外の音楽と共振する作品を発表する彼らが本来志向しているのは、そういった文脈に規定されないスキルや音楽性に立脚したエンターテインメントなのではないだろうか。これまで「シーンの追い風」といったものに頼らずに実力を磨いてきた彼らからは「ハイコンテクストな表現では勝負にならない」「一目でそのすごさがわかる作品やパフォーマンスを提供しなければならない」という姿勢を強く感じる。

 一方で、「アイドル的人気に支えられた少年が大人になる中で表現の幅を広げていく」という世界観は、ジャニーズの面々が時間をかけて構築してきたものでもある。「若い男としてちやほやされて終わり」ではなく、ナチュラルに年を重ねながら男性も含めた幅広い層の支持を獲得する。そんな時代を最初に呼び込んだのが90年代半ば以降のSMAPであり、今では30代〜40代のメンバーのみで構成されているグループが若い頃とは異なる魅力を放ちながら活躍することも当たり前になっている。また、例えば堂本剛が自身の音楽観を独自に突き詰めているように、年の重ね方にも多様性が担保されている。

 前述の通り、三浦大知、w-inds.、SKY-HIの戦い方は、ジャニーズ事務所のグループとは異なる部分が多い。ただ、芸能と音楽をまたにかける男性パフォーマーが長く活動できる状況を率先して整備してきたのはジャニーズ事務所の先達であるというのもまた事実である。多くの男性アイドルグループが耕してきた土壌の上で、ジャニーズとは異なる力学で支持を集める存在が複数登場してきているのは非常に興味深い傾向である。

・「若さ」の壁を乗り越えて

 男性アイドルが長く活動を続けるモデルをジャニーズのグループが多数示している一方で、ブームが起こってから日の浅い昨今の女性アイドルには「どうやって年を重ねていくか」という問いに対する先行事例がいまだ少ない。昨年6月に当連載においてアップした女性アイドルのキャリアに関する記事(http://realsound.jp/2016/06/post-7889.html)で触れた通りPerfumeや前田敦子といった存在がアイドルというものの定義を更新していく役割を今後担っていくはずだが、彼女たちの直近の足取りを概観すると、自立した存在でありつつも周囲の表現者との化学反応をより高度なものにしていくという形での成長を遂げているような印象がある。今回取り上げた男性パフォーマー3組がミュージシャンとしての自分らしさを追求しながらキャリアを形成しようとしている一方で、女性アイドルの年の重ね方には「自分らしさの追求」だけでなく「調和」という要素が加わってくるという対比も(少ないサンプルでの比較ではあるものの)面白い。

 この先ますますの高齢化が進む日本の社会において、「若さに頼らずに生き生きと年を重ねていくにはどうすればいいか」というテーマがさらに重要性を増すのは間違いない。昨年話題になったドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)では石田ゆり子演じる百合が若さだけに価値を見出す姿勢のことを「呪い」と表現し、多くの人の価値観を揺さぶった。アイドルと呼ばれる存在が男女ともにそれぞれのやり方で活動を継続しようと模索している今のポップシーンの状況は、今後「呪い」と対峙せざるを得ない日本のあり方を先取りしているとも言えるかもしれない。若い層とそこを通り過ぎた層の切磋琢磨によって優れたアウトプットが多数生まれる環境がより盤石なものになることを願うとともに、その試行錯誤が音楽シーンのみの話にとどまらず「呪い」にとらわれた人たちに対する何らかの処方箋を提供してくれることを期待したい。(文=レジー)