「ユーザーが望む表現」で記事を書く 感性型AIの可能性

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社会のいたるところで人工知能が活用されはじめている。大規模製造業の現場における製造工程管理、新薬開発、弁護士・税理士、および人事業務の一部代替など、すでに実用化されつつある応用例は枚挙にいとまがない。

それら人工知能を注意深く見て行くと、ひとつの共通点が浮かび上がる。いずれも、人間の「理性」を再現したものであるということだ。

世界的に有名なグーグルディープマインドの囲碁AI「alphaGo」やIBMの「ワトソン」も例にもれない。前者は、人間のトップ棋士を凌ぐ演算を瞬時に行い、盤面上の未来を見通そうとする。後者は、人間の言語や質問を理解し、事前に収集・インプットされた膨大なデータの中から最適な答えを導き出す。

主に人間の脳でいうところの前頭葉の働きを模倣して、理性を再現しようと開発されたそれら人工知能は、「問題解決型AI」とも呼ばれている。問題解決型AIは、人間が到底かなわない速度で資料やデータを読み込み、過去事例や経験を踏まえて、論理的に人間の判断を支援する。表現が正しいかどうかは定かではないが、非常に「客観的」かつ「即物的」な人工知能である。

一方、近年では人間の精神的な側面を支援する人工知能、すなわち「感性型AI」の研究が世界各国で進められている。

日本ですでに有名なのは、小説を書くAIプロジェクト「きまぐれ人工知能プロジェクト作家ですのよ」だろう。プロジェクトを牽引する、公立はこだて未来大学・松原仁教授は言う。

「問題解決型AIは、人間の理性を再現したもの。さまざまなシーンで、理性はとても役に立ちます。多くの人は、理性を働かせてビジネスしたり、生活したりしますよね。そう考えると、人工知能で理性を再現することを優先するのは必然です。ただこの先、人工知能がロボットに搭載されて人間と付き合うようになる。そうすると、ロボットが感情を持つかどうかは別として、人間の感情を理解することが必要になってきます。人間の機嫌がいいのか悪いのか理解できなければ付き合えない。今回の小説プロジェクトは、そういうロボットと人間の感性が交わる時代の”象徴”として提起しました」
 
松原教授によれば、「小説AIはまだまだ発展段階」にあるそうだが、最終的には読み手個々人が好む作風の小説を生みだすことを目標にしているという。言い換えれば、「問題解決型AI」とは異なり、人工知能がいかに人間の「主観」もしくは「個人的趣向」により添えるかに、研究の焦点を当てていることになる。

感性型AIとは銘打っていないものの、韓国でも似たような研究が進んでいる。ソウル大学イ・ジュンファン博士らが開発をてがける人工知能「ロボット記者」がそれだ。

現在、海外各国の大手メディアでは、人工知能が自動で原稿を作成してくれる「ロボットジャーナリズム」をウェブ版などで試験的に導入しはじめているが、イ博士の研究もそれらの類似研究のひとつと言うことができる。イ博士が目標に掲げるのは、ユーザーの感情や状況を理解し、個人化された情報を瞬時に作成・提供できる人工知能を開発することだ。

「情報の個人化(パーソナライズ)が、今後はとても重要だと考えています」とイ博士は言う。

「地震情報にしても、速報性だけではなく、個人化がネックになる。地震が起きた地域では安全を確保するために多くの情報が必要となりますが、他の場所に住む人にとってはそこまで必要ない。証券記事も同様です。新聞などでは大企業の株の話題がよく掲載されます。該当する株を持っている人にとっては重要な記事になりますが、その株を持っていない人にとってはあまり必要な情報ではありません。むしろ、必要な情報はほかにあります」

イ博士らは現在、地震速報や証券ニュースの作成を手がける人工知能を開発する傍ら、個人化されたスポーツニュースを配信する研究も行っている。すでに実用段階にまで入ったとされるその人工知能の機能は、以下のようなものだ。

例えば、読者がある特定の野球チームのファンだったとしよう。同じ事実でも、ニュースによっては「9回裏、万塁逆転ホームランで勝利!」「9回裏、万塁ホームランでまさかの逆転負け!」と論調が異なる場合がある。ただ可能であれば、読者としては好きなチームの立場に立った論調の記事を読みたくなるはずだ。イ博士らの人工知能は、そういう個人の感情に根差したコンテンツ作成に活用される。

「我々が開発している人工知能は、カスタマイズによって、各ユーザーが重要だと思う部分を追加したり、個人が望む表現で記事を作成します。つまり、読み手の立場で記事が変わるのです。もちろん、ファクトを土台にしますが、受け手によって十人十色の情報を生みだすことができる」

精神に寄り添う感性型AIの開発は、少しずつ、だが確実に前に進みはじめている。人間の個々人の感性を理解しつつ、その感性を刺激する創作物を生みだす人工知能が実際に現れた時、人間社会はどう変化を遂げて行くのか。興味の尽きないテーマだ。