美術家の視点で映画の魅力を語った会田誠氏

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 「グッバイ、レーニン!」のボルフガング・ベッカー監督と主演のダニエル・ブリュールが12年ぶりにタッグを組んだ新作「僕とカミンスキーの旅」の試写会イベントが4月6日都内であり、美術家の会田誠氏が作品を語った。

 映画は、かつて時代の寵児だった画家、カミンスキーの過去を暴いて一発当てようとたくらむ無名の美術評論家ゼバスティアンと盲目の老画家の交流を描いたロードムービー。

 会田氏は現在、1980年代後半の美術予備校を舞台にした小説を執筆中とのことで「日本にとって現代美術は何かということを書いている時にこの作品を見て、全体の枠組みがよく、とても上手に作っていると思った」「美術、特に絵画という人類の大きな文化とされているものは目が見えない人にとっては価値がないもの。だから、画家を盲目という設定にした原作者は相当頭がよいと思う」と物語の設定や構成を称賛。

 そして、「原作者と監督が美術の世界をわかっているので、エンディングも含めて、物語全体に近代絵画、美術への愛が溢れているのが感じられると同時に、意地悪な作り方をしているのも明らか。6カ所くらい、だいぶ皮肉な感じで美術の現場を描いている。一番わかりやすいのが、オープニングのちゃらいパーティ」と、現代美術界に生きる当事者ならではの視点で解説した。

 さらに、劇中で20世紀以降の絵画と写真について言及するセリフなどを挙げ、「娯楽的な映画でもあるので、もちろんそれほど深く掘り下げられてはいないけれど、一絵描きとして、ビンビンとくるところがあった。絵画の肝をわかっていると感じた」と美術を題材とした本作の優れたポイントを語る。その一方で、「ほぼ完璧な映画だけれど、唯一の突っ込みどころは、カミンスキーが地下室で晩年ひっそり描いた絵」といい、「ビジュアルで表現する映画の残酷さを感じた。小説だとぼんやり書けるけれど」と現役の画家として、劇中に登場する絵画に対して率直な感想を述べた。

 また、カミンスキーに近いと思う実在のアーティストを「一人挙げるならバルテュス」とし、「19世紀ヨーロッパの貴族出身で、ヨーロッパ近代文明の残り火を持ちながら20世紀にも生き、おもしろい絵を描いた。明らかにその当時の古くさい描き方だけれど、シーラカンス的な生きた化石のようだと、20世紀の文化の中心になったアメリカが持ち上げた、ヨーロッパのプライドの亡霊みたいな感じがある」と持論を展開。最後に、印象深い場面として、カミンスキーが若き日に愛した女性と対面するシーンを挙げ「チャップリンの娘さん(ジェラルディン・チャップリン)の人選がぐっときた。今はおばあさんだけれど、昔は魅力的だっただろうという感じと、最後のシーンのギャップ。僕の好きなコーエン兄弟の『ファーゴ』や、三島由紀夫の『豊饒の海』の『天人五衰』のラストを思わせる」と感慨深げに語った。

 「僕とカミンスキーの旅」は4月29日から、東京・YEBISU GARDEN CINEMAほか全国で公開。