国際社会の相次ぐ制裁で苦境に陥っている北朝鮮にとって、自国労働者の海外派遣事業は、外貨稼ぎの貴重な柱だ。国連の北朝鮮人権報告書によると、20カ国以上に派遣された10万人を超える労働者が稼ぎ出す外貨は、年間23億ドル(約2540億3000万円)に達する。

ところが、労働者の派遣を海外企業から要請されても、実際に派遣されるまでには少なくとも半年を要する。審査には複数の機関が関わっていて、円滑に処理が行われないためだ。

北朝鮮情報筋が、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)に語ったところによると、労働者の海外派遣は次のような流れとなっている。

たとえば中国の場合、現地に滞在している北朝鮮の貿易関係者が、人手を求めている中国企業に営業をかける。相手が興味を持てば、作業内容、必要な人員数、賃金について話し合い、大体の合意に至れば北朝鮮本国に報告する。

次に、北朝鮮から担当の公務員がやってくるが、細かい要求をしてくるため、交渉はすんなりいかない。一度は合意に至っても、あれこれとケチを付けて合意内容の修正を要求することも少なくなく、最終的な合意に至るまでは1ヶ月以上かかることも多い。

その後、派遣する労働者を募集するのだが、保衛局(秘密警察)の審査が厳しく、最長で2ヶ月かかる。パスポートや出国ビザを申請して書類が揃うまではさらに1ヶ月以上がかかる。さらに、労働者を集めて教育を行うのに1ヶ月かかる。

世界各国は、海外企業を誘致するため行政手続の簡素化を図っているが、北朝鮮にはそのようなマインドが存在しないようだ。

このように時間が浪費させる最大の理由は、担当者の責任回避にある。担当者は「労働者が脱北すれば責任を負う」という書類に署名をしなければならない。実際に問題が起きれば、担当者は厳しい批判にさらされ、革命化(地方への追放)などの処分を受け、今まで享受してきた特権をすべて失ってしまう。仕事を下手に進めるより、波風を立てないことを望む極端な事なかれ主義のため、審査業務を先送りし続けるという。

実際に労働者が派遣された後も、担当者は現地現場に様々な要求を突きつけてくる。例えば、金正男(キム・ジョンナム)氏殺害事件のニュースを労働者に知られないように、宿舎では朝鮮中央テレビしか見られないように施設を改造してほしい、と言ったものだ。

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こんな面倒なことをしてまでも中国企業が北朝鮮労働者を呼び寄せるのは、厳しい監視に置かれるため離職率が極端に低く、賃金が安いからだ。