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米国オークリッジ国立研究所(ORNL)の研究チームは、グラフェンナノリボン(微小なリボン状のグラフェン)の新たな生成手法を開発した。新手法では、金属基板を使用せずにグラフェンナノリボンを生成できるため、金属の影響を受けずにグラフェンナノリボン本来の電子的特性を引き出すことができるという。半導体デバイスなどへのグラフェンの応用可能性が拡大すると期待される。研究論文は、科学誌「Nature Communications」に掲載された。

二次元シート状の炭素材料であるグラフェンは、電子移動度が極めて高く、軽量で強靭であるなど優れた物性をもっている。しかし、グラフェンのバンドギャップはゼロであるため、電圧をかけると金属同様に電流が流れ続けてしまい、シリコンなどの半導体と違って電流のオン/オフ制御ができないという問題がある。このため、そのままの状態では、グラフェンを電子デバイス用の材料として使うのは難しい。

トランジスタなど電子デバイス向けにグラフェンを使う場合には、まずグラフェンにバンドギャップを与える必要がある。これにはいくつかの方法があるが、代表的なものとしては、シート状のグラフェンを微細なリボン状のグラフェンナノリボンに変えてやる方法がある。

グラフェンナノリボンでは、電子の閉じ込め効果などが働くことによってバンドギャップが形成される。リボンの幅を狭くすると、より大きなバンドギャップを得ることができる。また、グラフェンナノリボンの端部における原子構造も電子的特性に大きく影響する。端部構造(切り口の形状)がジグザグ型のグラフェンナノリボンは金属的な特性をもつ。一方、アームチェア型と呼ばれる構造の場合は、金属的にも半導体的にもなるとされ、どちらになるかはリボンの幅によって決まると考えられている。

したがって、望ましいバンドギャップをもつ半導体型グラフェンナノリボンを得るには、端部の構造制御とリボンの幅の制御を同時に精密に行う必要がある。形状制御しながらグラフェンナノリボンを生成するには、通常、金属基板の上で触媒を使って化学反応を進める方法がとられる。しかし、金属基板はグラフェンナノリボンの電子特性に影響を与え、バンドギャップ形成を抑制するという副作用がある。

研究チームは今回、この問題を解消するため、金属基板を使わずに形状を精密制御したグラフェンナノリボンを生成する新手法の開発に取り組んだ。

走査トンネル顕微鏡(STM)を用いて電子(マイナス電荷)または正孔(プラス電荷)を注入し、それらがグラフェンナノリボンの生成反応のトリガーになる様子を調べた。その結果、反応のトリガーとなっているのが、実は正孔だけであることが判明したという。

研究チームは、この発見を利用して、グラフェンナノリボンの前駆体である高分子鎖に沿ってSTMの探針先端を動かし、生成反応を起こす場所を精密に決めて正孔注入するという手法を開発。この手法によって、幅1nm未満(炭素原子7個分)でアームチェア型の端部構造をもったグラフェンナノリボンを生成することに成功した。

今後の研究課題としては、今回の手法を用いて異なる種類の前駆体分子を組み合わせたヘテロ接合を形成し、その機能を調べることなどが挙げられている。また、この手法で作製したグラフェンナノリボン中で電子が散乱せずに移動できる距離を測定し、他の手法で作られたグラフェンナノリボンと比較する研究も行いたいとしている。

理論上、グラフェン中では、電子または正孔が有効質量をもたない準粒子(ディラックフェルミオン)として振る舞い、毎秒106m、すなわち光速の1/300程度という超高速(フェルミ速度)で移動できるようになる。将来的に、こうしたグラフェン本来の性質を抑制せずに電子デバイスとして利用できるようになれば、室温での電気抵抗が実質ゼロであるようなまったく新しいデバイスが実現する可能性もある。

(荒井聡)