菅田将暉がソロ歌手デビュー。お上手でも魅力がない原因は

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 先日、本田翼との熱愛が報じられた俳優の菅田将暉ですが、仕事も絶好調。映画、ドラマ、CMと引っ張りだこで、今度は歌手としてソロデビューも果たすとのこと。

 auのCMソングでオンエアされている「見たこともない景色」のリリースが6月7日に決まり、話題になっています。前回は桐谷健太の「海の声」でブームになったauの音楽シリーズですが、さて今回はどうでしょう。

⇒【YouTube】はコチラ 菅田将暉 『見たこともない景色』Short Ver. https://youtu.be/hHM5VJQ5NRg

 曲はのんびりしていた「海の声」とうって変わって、疾走感あふれるバンドサウンド。歌詞もかなりアツい。<かわしたわけない約束 守ることのために走る>なんて、連帯保証人になってくれそうな勢いです。CMで演じる“鬼ちゃん”ではなく、菅田将暉本人のキャラに寄せたのでしょうか。

◆菅田・高畑は上手なだけ、桐谷・長澤のほうがチャーミング

 肝心の歌は、お上手なのです。けれども、積極的に“これいいよ!”と押したくなるのとは違って、ひとまず歌い切った事実に対して“がんばったね”と労うしかないような……。

 桐谷健太よりは正確なように聞こえます。しかし、伝わってくるのは楽曲の魅力ではなく、“こんなこともできる”菅田将暉のプロモーション。その点で、「海の声」とは対極だと感じるのです。

※菅田将暉は「グリーンボーイズ」のメンバーとして2017年1月にCDデビュー

 これは高畑充希にも言えることで、“この人は歌っている自分が好きなだけなんじゃないか”と思わせてしまう。長澤まさみのように、曲やシチュエーションによって声のトーンを変えようともしない。それはやはり音楽そのものに無頓着だからで、菅田将暉の歌と共通している点でしょう。残念ながら、チャーミングではないのです。

 では、この“私デキます”みたいなやる気が歌に表れてしまう原因は、一体どこにあるのでしょう? 昭和の大作曲家・浜口庫之助が面白いことを書いていました。

<才能というものは、気をつけないと、人から反感を持たれたり、うらまれたりするものだ。刀みたいなもので、しょっちゅうベロベロ出して歩くものじゃない。いい刀は鞘に納めておくものだ。>
(『ハマクラの音楽いろいろ』 著・浜口庫之助 立東舎文庫 p.145)

◆本職じゃないけど、素晴らしい歌い手2人

 この言葉が真理だと思わせてくれる、本職でない歌い手を2人ご紹介しましょう。まずイギリスのスーパーモデル、カレン・エルソン。映画『アリスのままで』で流れた「If I Had a Boat」(テキサス出身のソングライター、ライル・ラヴェットの曲)のカバーも鮮烈でしたが、自作曲も相当なもの。

 言葉少ななピアノとアコースティックギターが心地よいフォーク調の新曲「Distant Shore」を聴くと、やろうと思えば歌い上げられるだけの地力を持ちながら、決して易きに流されない我慢強さを感じます。

 ここでも、やはり大切なのは歌が曲の一部であることなのですね。細やかな発音のひとつひとつにも音楽が宿っていることを気付かせてくれる。だから簡単なコードの繰り返しでも、飽きないのです。

 もう一人は、映画『ハリー・ポッター』で魔法学校の校長を演じた、アイルランド出身の俳優、リチャード・ハリス(故人、享年72)。彼の歌う「MacArthur Park」(アメリカのソングライター、ジミー・ウェッブの作曲)は、本職のシンガーでも逃げ出したくなるほどの複雑な構成と、壮大なメロディの幅を持つ曲です。

 ハリスに専門的な音楽の知識はありませんでした。ただ酔っぱらって、アイルランドのパブソングばかり歌っていたといいます。それでもポップス史上に燦然と輝く“組曲”を最初に歌い、それが今も超えられない壁としてそびえ立っている。

 リチャード・ハリスの「MacArthur Park」を聴くと、才能という言葉の脆さに気付くのです。

 だから、“上手だね”と言われているうちは、まだ歌にすらなっていないのではないだろうか。続々と歌手デビューする若手俳優たちに、そんなことを思うのでした。

<TEXT/音楽批評・石黒隆之>