Security guards take a break as a man (L) sleeps during the second plenary session of the National People's Congress, China's legislature, at the Great Hall of the People in Beijing on March 8, 2017. (c)


 自分が話す。相手の話を聞く。

 あなたは部下との会話のスタンスとして、どちらを優先しがちだろうか。

 人は、自分の気持ちや感情を分かってもらいたい、自分の考えや意見を分かってもらいたい、何かを伝えたいといった欲求を持っている。そして、会話をすることによってそういった欲求を満たすための機会を得る。

 その欲求に余裕のある人は、相手にその機会を譲ることができ、自ら聞く側に回ることができる。しかし、抑えきれないほどにその欲求が強い人、その欲求に関して欲求不満の状態にある人は、その機会を相手に譲る余裕はなく、自分が話すことを優先しようとする。

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奪うか譲るかで成長に大きな差

 会話をする際には、人はこういった欲求を抱いており、その欲求を満たす機会を相手から奪う人、あるいは相手に譲ることができる人がいる。上司がいずれのタイプかによって、部下のパフォーマンスや成長の可能性は大きく変わる。

 私は公認会計士、心理カウンセラーとして経営コンサルティングの仕事をしている。この仕事を通じて経営やビジネスの現場を見る中で、聞く力を持ったリーダーの存在の重要性をつくづく感じる。

 組織のメンバーたちは、先に述べた欲求を持っている。そして、人は欲求が満たされると、エネルギーやモチベーションが上がる。

 そのため、組織のメンバーの話を聞き、こういった欲求を満たすことができる人がリーダーだと、その組織のメンバーのエネルギーやモチベーションは上がっていく。実際、私はそういった事例をいくつも見てきた。

 部下と2人で飲みに行って、じっくり部下の話を聞く。いろいろな部下に対してそういった関わり方をしている取締役の方がいる。

 普段、飲む機会がないような部下を飲みに誘うと、部下は委縮して構える。そんな時はまず自分の弱みを見せるような話から始める。会社では厳格な雰囲気の上司かもしれないが、趣味のゴルフではひどいスコアで皆にからかわれている。

 家に帰れば奥さんが恐くて戦々恐々としている。若い頃には仕事でこんな失敗をして、上司にこっぴどく叱られた。

 そんな話をすると、部下も親近感を感じ、ふっと打ち解けた雰囲気になる。それから、「仕事はどうですか?」と投げかける。そこから部下の話を共感とともに丁寧に聞く。話のタイミングを見て質問し、部下の話を深掘りしていく。

 すると徐々に部下の話は熱を帯び、仕事の話だけではなく、プライベートのこと、学生時代の思い出、家族のこと、両親のことまで話してくれるようになる。そうやって部下のこれまでの人生や今置かれている環境についての理解が深まるにつれ、次第に部下の話に感情移入し、職場の上司と部下の関係から人間と人間の関係で話を聴けるようになる。

 そんなふうに部下の話を聞くことで、感動することもあるし、勇気をもらうこともある。そして、上司としてこの部下をもっと応援したいと思えるようになる。

 10歳ほど歳が下の部下と飲みに行っても、そうやって盛り上がると2次会、3次会まで行くこともある。こうやって飲みに行っては部下の話をじっくり聞く。そうすることで、部下との距離は縮まるため、褒める時は褒め、叱る時は叱るということがスムーズにできるようになる。

 そして、部下のパフォーマンスは上がっていく。言うまでもなくこの取締役の方の人望は厚い。そして、この方の管轄するチームの業績は数年連続トップだという。

部下に対して人間としての関心を持つ

 こういった関わりをするうえで欠かせないのが、部下に対して1人の人間として関心を持つことである。どんな人間にもその背景にはこれまで生きてきた様々な物語が存在する。その物語を共有することで相手に対して関心を持てるようになる。

 関心を持てると自然と共感しながら話を聞くことができる。こういった話の聞き方が上司と部下の信頼関係を生み、それがチームの業績にも大きく影響していく。

 こんな話の聞き方をしてくれる上司はそう多くはいないかもしれない。しかし、ここに部下の積極性を引き出し、組織の生産性を上げるためのカギがある。

 部下との会話においては上司の方が多く話しがちである。中には部下の話に聞く耳を持たず、一方的にずっと話す上司もいる。日中の職場のみならず、夜の居酒屋でもその調子だと部下はたまったものではない。

 そういった上司はなぜ部下の話に耳を傾けることができないのか。その原因の1つとして、1人の人間として部下に関心を持っていないことが考えられる。

 部下自身に関心を持っていないため、その部下の話にも関心を持てない。そのため、ついつい部下の話を軽んじ、自分が話すことを優先してしまう。

 それから、冒頭に述べた自分の気持ちや感情を分かってもらいたい、自分の考えや意見を分かってもらいたい、何かを伝えたいといった欲求が過剰に強いことも原因の1つである。

 いつも話が長くなる、話し出したら止まらないという人は特にこの傾向が強い。また、自分の話は部下のためになる、部下は興味津々に聞いてくれているという思い込みが強いことも原因として考えられる。

 部下のためを思うなら、部下の話を聞く姿勢を持ったうえで、部下のためになる話をすべきであるが、部下の話を聞く姿勢を持つことなく、一方的に自分が話すような上司の話は、部下は内心では素直に聞き入れようとは思わないだろう。

 また、部下が緊張し、委縮して話さないため、仕方なく上司の側が話さざるを得ないということもあるかもしれない。そういった場合は、先の営業部長のように自分の弱い部分をあえて見せるなど、親近感が持てる雰囲気作りをすることも必要となる。

 「うちの部下は指示待ち人間ばかりで、困っているんです」。そういった悩みを抱える上司には、部下の話を軽んじ、ろくに聞こうともせず、自分の考えが正しいという思い込みのもと、その考えを押しつける傾向がある。

指示待ち人間を作っているのは誰だ

 部下が自分の頭で考え、自分の意見を上司に伝えても、まともに話を聞いてもらえず、上司の考えを押しつけられる。これを繰り返されると部下はどうなるだろうか。

 自分の頭で考え、自分の意見を伝えることをやめ、言われたことだけを言われた通りにやろうとするようになる。つまり、指示待ち人間に変化していく。

 そんな部下の状況を見て、「うちの部下は指示待ち人間ばかりだ」と嘆く。その状況は滑稽にすら思えるが、こういう状況に陥っている上司は少なくない。

 経営の神様と言われた松下幸之助氏は、30万人を超える従業員を抱えるまでに会社を成長させた。会社の成長は人の成長なくしてはあり得ない。これだけの人を育て上げてきた松下幸之助氏は「衆知を集める」というポリシーの下、とにかく部下の話をよく聞いたという。

 経営の判断を誤らないためには自分の思い込みや執着を排除しなければならない。そのためには部下に意見を求め、その意見を素直な気持ちで真剣に聞く。そうすれば良い知恵が集まり、良い判断ができる。こういった姿勢を経営のポリシーとしてきた。

 社長から意見を求められ、自分の意見を社長が素直な気持ちで真剣に聞いてくれると部下はどのような気持ちになるだろうか。そういった話の聞き方をしてくれた社長に信頼を覚えるとともに、意見を言って良かった、少しでも経営に携わることができた、という満足感が得られるだろう。

 そして、経営の役に立てるよう、自らの意見を自らの頭で考え、それを社長に伝えることに責任感を覚えるようになるだろう。そういった関わりが部下の自発的な行動を促し、成長を促進させる。

 部下に発破をかけ、檄を飛ばしているのに生産性が上がらない。そんな悩みを抱えるのであれば、生産性を上げるためにやるべきは、自分が話すことよりも部下の話を聞くことを優先させることなのかもしれない。

筆者:藤田 耕司