久保(写真)の活躍など、ポジティブな材料があった3月のW杯予選。まだまだクリアすべき課題は多々あるが、代表チームとして前進していることは感じられた。 写真:小倉直樹(サッカーダイジェスト写真部)

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 3月28日に行なわれたロシア・ワールドカップ・アジア最終予選、日本はタイを4-0で下し、得失点差でグループリーグ首位に浮上。本大会出場の道が、ようやく拓けてきた。
 
 しかし、直近のUAE戦(23日に行なわれて2-0で勝利)、タイ戦と、チームの仕上がりについては「停滞」という評価が然るべきだろう。昨年10月のオーストラリア戦のほうが、戦術的な精度は明らかに高かった。
 
 もっとも、キャプテンのMF長谷部誠(フランクフルト)が不在のなか、完封勝利を収めたことは、上々の結果だったとも言える。
 
 そのなかで、リオ五輪世代のFW、久保裕也(ヘント)は目覚ましい台頭を見せている。
 
 UAE、タイ戦と連続ゴールを挙げたが、瞠目(どうもく)すべきは、タイ戦で先制点を演出した時のボールコントロールだろう。クロスを放つまでの一連の動きは、圧巻だった。原口元気(ヘルタ・ベルリン)に続いて、“ハリルの申し子”が誕生した感がある。
 
 では、現体制で世界の強豪と渡り合えるのか?
 
 戦術的な積み上げはあるし、ようやく若手も頭角を現わしつつあるが、積極的には肯(がえ)んじない。
 
「世界をイメージしたスカウティングやタクティクスの想定が必要になる」
 
 かつてアルベルト・ザッケローニ監督はそう語り、アジアでは無敵の盟主となり、コンフェデレーションズカップでは強豪相手に可能性を示したが、ブラジル・ワールドカップでは敗北している。
 
 現状に甘んじるべきではない。
 
 ヴァイッド・ハリルホジッチの戦いは、基本的にリアクションである。相手の攻撃が前提で、いかに受け身をとるか――。能動的なプレーをもっと積み上げるべきだが、それはさておき、ここまでのリアクション戦術を分析するだけでも、粗は見える。
 
 ハリル戦術では、攻撃の選手も守備での消耗が激しい。その証拠に、タイ戦で八面六臂だった久保も、後半は疲労から明らかに動きが落ちていた。原口も守備に追われる時間が長く、攻撃での余力が足りなかった。
 
 サイドFWはサイドを封鎖し、(侵入した)相手を挟んで潰し、逆にカウンターでは推進力を出さねばならない。トランジッション(攻守の切り替え)の起点となることが要求され、絶え間なく動き回って相手に挑む体力も求められる。
 ハリルジャパンが採っているのは、フィジカルに根ざした戦術スタイルと言えるだろう。しかし、W杯で連戦をフルタイムで戦うのは、困難である。必然的に、主力だけでなく、(競争力も上げる)スペアの選手が欠かせない。
 
 その点、タイ戦では疲れの見えた久保に代わって本田圭佑(ミラン)を投入後、チームは活性化した。また、香川真司(ドルトムント)の代わりに、清武弘嗣(セレッソ大阪)が入ったことで、同じく攻撃は活溌になった。3点目が入って、相手の勢いが落ちたこともあるだろうが、交代が奏功した。
 
 こうして、戦力を厚くしていくべきだろう。
 
 一方で、戦術の多様性も鍵になってくる。
 
 UAE戦では、主流の4-2-1-3(4-2-3-1とも言える)ではなく、4-3-3(あるいは4-1-4-1)というシステムを用い、ここでは今野泰幸(ガンバ大阪)が躍動。長谷部不在のなか、戦術的なバリエーションの広がりを見せている。
 
 これが世界で通用するかは別にして、戦いの柔軟性は欠かせない。ブラジルW杯では「自分らしさ」に固執し、墓穴を掘ることになった。
 
 4-4-2を採用して、サイドを供給役にするような戦い方も持ち込むべきだろう。その場合、日本には齋藤学(横浜F・マリノス)、乾貴士(エイバル)のような異彩を放つアタッカーがいる。
 
 ストライカー不足といわれるが、岡崎慎司(レスター)は世界標準だし、大迫勇也(ケルン)、武藤嘉紀(マインツ)、小林悠(川崎フロンターレ)、大久保嘉人(FC東京)、豊田陽平(サガン鳥栖)、金崎夢生(鹿島アントラーズ)ら、FW陣はバラエティーに溢れている。
 
 サイドからボールを2トップで叩く、そういうオプションも探るべきだろう。
 
 世界と戦うハリルジャパンは、まだまだ途上にある。
 
文:小宮 良之
 
【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『おれは最後に笑う』(東邦出版)など多数の書籍を出版しており、2016年2月にはヘスス・スアレス氏との共著『「戦術」への挑戦状 フットボールなで斬り論』(東邦出版)を上梓した。