フィリピン・マニラで行われた「Digong's Day for Women」の式典で演説するロドリゴ・ドゥテルテ大統領(2017年4月4日撮影)。(c)AFP=時事/AFPBB News

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【AFP=時事】独裁政権の打倒から30年が経過したフィリピンで、ロドリゴ・ドゥテルテ(Rodrigo Duterte)大統領が、民主制が正すことができなかったすべての問題の解決方法として再び独裁政治への回帰を示唆している。

 最近の一連の演説でドゥテルテ大統領は、麻薬や犯罪、そして「テロが誘発する無政府状態」から人口1億人のフィリピンを救うには、戒厳令が必要と繰り返し述べている。1986年に「人民革命(People Power Revolution)」で倒された独裁者フェルナンド・マルコス(Ferdinand Marcos)を思わせるこうした主張により、30年前の革命以降に徐々に再建されてきた民主制度を厳しく検証せざるを得なくなっている。

 首都マニラ(Manila)のデ・ラサール大学(De La Salle University)学長で、同国を代表する人権派弁護士の一人であるホセ・マヌエル・ディオクノ(Jose Manuel Diokno)氏は「現在の状況は過去30年間で最も独裁的な統治形態に近いと思う。今起きていることと、以前(マルコス独裁下で)起きたことには多くの類似点がある」と語る。

 その類似点の一つは恐怖感の醸成だ。ドゥテルテ大統領の主要政策で、就任後9か月の間に数千人が殺害され論争となっている「麻薬戦争」もその一端となっている。

 故マルコス元大統領は独裁支配を正当化するために共産主義の脅威をかざした。ドゥテルテ大統領は麻薬と犯罪の脅威を説いて同じことをしているとディオクノ氏は言う。警察や正体不明の自警団に殺害された人々の家族や親族は報復を恐れて訴え出ることができず、その一方で批判する者は脅迫される。

 にもかかかわらず、民主主義に挑戦を突き付けているドナルド・トランプ(Donald Trump)米大統領や世界の他のポピュリスト的指導者と同様、ドゥテルテ氏も堅固な支持基盤を背景に政権を運営している。フィリピン国民の多くがドゥテルテ大統領の麻薬戦争を支持し、アジアの中で貧富の格差が絶大な国の一つであるこの国の腐敗しきった政治制度を激変させるために同氏が必要な強権的指導者だとみなしているのだ。

■フィリピンにとっての「ストレステスト」

 ドゥテルテ大統領は改憲によって連邦制に移行し、フィリピンの民主制を根本から再編しようとしている。同氏は首都マニラを腐敗したエリートが巣くう「帝国マニラ」と表現し、その不正に終止符を打つ方法として改憲を推進しようとしている。これもトランプ米大統領が、首都ワシントン(Washington D.C.)を「底さらいすべき沼」にたとえているのと同様だ。

 ドゥテルテ大統領に批判的な反対派は、現在1期6年に限定されている大統領任期が改憲によって変更され、独裁的支配を固定させるのではないかと恐れている。

 さらにドゥテルテ大統領は、軍と警察を合体させて反対派弾圧の先鋒となったマルコス独裁下の「警察軍」や、大統領の命令により令状なしで治安部隊に捜索・逮捕を許可する同じくマルコス時代の制度の復活を叫んでいる。そして令状なし逮捕に言及した際には、はっきりと「マルコス氏のように」と言っている。

 マニラのアテネオ大学(Ateneo University)の学長ロナルド・メンドーサ(Ronald Mendoza)氏は、ドゥテルテ大統領の独裁的な統治スタイルはフィリピンの民主制にとって「ストレステスト」となり、それによって、まだ若い民主主義の弱点があぶり出されると指摘する。同氏が弱点とみなすのは、議会と警察だ。両者ともドゥテルテ政権下で脆弱さを露呈している。

 ただし同氏はこのテストは、強固な制度がプレッシャーに耐え得ることの証明にもなり、ポジティブな結果が得られるだろうと主張する。メンドーサ氏はポジティブな面の例として、ドゥテルテ氏が戒厳令をちらつかせた際に、国軍が声明でその必要はないと応じたことを挙げた。また軍は、警察とともに麻薬戦争の最前線に立つよう求めたドゥテルテ氏の再三の要求もはねつけている。

 さらにメンドーサ氏は独立性が保障されている中央銀行を、ディオクノ氏はメディアを、民主主義の重要な防波堤として挙げた。メンドーサ氏は「私たちは数十年前よりも、ずっと強い立場にある」と述べた。
【翻訳編集】AFPBB News