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最大10メートルの高さから、水面に飛び込む。正しいフォームで高得点を叩きだすには、技術と同様にメンタルコントロールが重要だ。13歳、中学2年生になりたての金戸凛の表情はあどけない。それでいて自らの流儀を明確に口にする。「反省は、試合の後ですればいいんです」「7割でOK」「目の前の日々を積み重ね、東京五輪へ」。今年2月、国際大会派遣選手選考会の3m飛び板飛び込みでリオ五輪代表選手を破り優勝。急成長株として東京五輪出場に名乗りを上げた。そんな彼女が放つ、ポジティブ思考維持法とは?

撮影 岸本勉 中村博之(PICSPORT) 取材・文 田坂友暁(SpoDit)



○試合を楽しむことを学んで急成長



||今年2月、国際大会派遣選手選考会の3m飛び板飛び込みでリオデジャネイロ五輪代表の板橋美波選手(JSS宝塚)を破って初優勝。演技時はどんな心境でした?

3m飛板飛び込みの前日の高飛び込みで、こうしたらこうなる、という感覚的なことがちょっと分かってきたので、それを意識しながら、楽しみながら試合に臨めました。

||分かってきた、とは?

試合でマイナスのことばかり考えてしまうと、演技もマイナスになっていきますので、試合中はある程度緊張感は持ちながら、楽しんだり、良いことだけを考えたりすると、演技も良くなる、という感じです。

||マイナス思考をプラスに持っていくのは難しいでしょう。

ひとつ演技が終わったら、すぐに次の演技のことを考えます。演技を振り返るのは、試合が全部終わった後に反省をすれば良いので、試合中は目の前の1本に集中するようにするんです。

||中学生になってから一気に大会で結果が出始めましたね。

前に比べて筋肉もつきましたし、そのおかげで(飛板飛び込みで使う)板も以前より踏めるようになってきました。なので、飛んだときに高さが出て、その分安定した演技ができるようになったんじゃないかと思います。



○「飛び込み一家」に育って



||お祖父さんとお祖母さん、お父さん、お母さんも飛び込みの五輪選手ですし、兄弟も全員がこの競技をしています。金戸選手が飛び込み競技を始めたのは自然なことですよね。

本格的に始めたのは小学校1年生です。でもその前からプールに連れて行ってもらっているときに、隅のほうで泳いだり遊んだりはしていました。お父さんとお母さんが飛び込みをやっていなかったら、自分は飛び込みをやっていなかったと思いますし、始めたきっかけもお兄ちゃんやお姉ちゃんが飛び込みを先にやっていたから、というのもあります。それに演技のことなどは、お父さんもお母さんも選手でしたから、自分がどうすれば良いかなど、選手目線ですごく分かりやすく教えてくれます。家族全員で同じ競技をやっている、というのは、すごく贅沢なことだと思います。

||今年の4月で中学2年生になりますが、中学校生活は楽しいですか?

楽しいです。学校に行けないことも多いんですが、久しぶりに行ったときは、友達が出迎えてくれるし仲良くしてくれるので、とても楽しいです。

||練習をしていないときは、何をしているときがいちばん好きですか?

結構おしゃべりが好きなので、その時間がいちばん楽しいです。学校でも、友達とおしゃべりしているときが楽しいですし、家ではお兄ちゃんと良くおしゃべりしています。



○水しぶきを上げない“ノースプラッシュ” 水切れの感覚がカギを握る



||普段は、どういうところで調子の良し悪しを判断するのでしょうか?

調子が悪いときは、身体が全然動かなかったり重たかったりして、回転がうまくいかなかったり入水が決まらなかったり……。悪いときは、いろいろあります。逆に調子が良いときは、それらが完璧まではいきませんが、だいたい7割くらいできていれば調子が良いのかな、と思います。

||水しぶきを上げない入水をするときの感覚を『水切れ』と言いますよね。表現が難しいと思いますが、その『水切れ』の感覚とは?

水が切れないとき、というのはすごく分かるんです。入水した瞬間に止まるというか、ドン、ドン、みたいな感じで、ちょっと止まる感じがあるんです。タイミングが合わないというか、身体にもすごいダメージがきます。でも、水が切れたとき、というのは、シュッときれいに一気に入水できるんです。

||飛んでいるときは、目を開けているんですか?

はい、回転しているときは開けていて、入水する瞬間に目をつぶります。景色は回転が速いのではっきり見えないですけど。



○先のことよりも今の練習が大切



||シニアの全国大会で優勝したことで、以前から目標と話していた2020年の東京五輪に向けた見方や考え方、五輪に対するとらえ方などは変わりましたか?

そんなに毎日、五輪に向けて、ということはあまり考えていません。それよりも、日々そのときの練習をしっかり頑張ることがいちばん将来につながることだと思っています。先のことよりも、五輪に出るまでにもっと大切なことがあると思うので、今を大切に練習しています。

||最後に今年の目標を。

今年は、飛び込みのグランプリシリーズという大会にはじめて出場するんですが、まずはそこで頑張って結果を残すこと。それから、9月に行われる飛び込みの日本選手権で、もう一度板橋美波選手に勝てるように頑張ります。あとは、高飛び込み(10m)にも挑戦しているんですけど、まだ演技が安定していないので、安定した演技ができる種目を増やせるように頑張っていきたいと思います。

<プロフィール>
金戸凛 かねと・りん
(日出小学校・セントラルスポーツ)

2003年7月18日生まれ、東京都出身。祖父と祖母はローマ・東京五輪の水泳・飛び込み代表選手。父(現コーチ)の恵太さん、母の幸さん(旧姓元渕)はともに同種目でソウル・バルセロナ・アトランタ五輪の3大会に出場。さらに姉の華、兄の快も全国で活躍する「飛び込み一家」に育つ。中学1年生になった2016年、全国中学の3m飛び板飛び込み、高飛び込みの2冠を果たすなど、同年代では敵なしの強さを誇る。2017年2月、国際大会派遣選手選考会では、リオデジャネイロ五輪代表の板橋美波選手(JSS宝塚)を3m飛び板飛び込みで破り、シニア全国大会での初優勝を果たした。2020年東京五輪はもちろんのこと、その後の飛び込み界を支える逸材として注目を集める。