トヨタ社長らを輩出、米名門バブソン大が学生に聞く「3つの質問」

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「アントレプレナーシップ教育部門」の全米一に23年連続輝いているバブソン大学。現学長のケリー・ヒーリーにゲームチェンジのための起業家精神について聞いた。

トヨタ自動車社長の豊田章男、イオン社長の岡田元也、佐藤製薬社長の佐藤誠一、村田機械会長の村田純一、スパークス・グループ社長の阿部修平─、日本を代表する経営者らを輩出したアメリカ東部ボストン郊外にあるバブソン大学は、大学院を合わせても学生数約3100人という小規模な大学だ。

「USニューズ・アンド・ワールドレポート」の全米大学評価では、23年にわたって「アントレプレナーシップ(起業家精神)教育部門」トップを独占し続けている名門である。

そのバブソン大で13年から学長を務めているヒーリー氏は、元マサチューセッツ州副知事という異色の経歴の持ち主だ。100年近い歴史を誇る同大で初の女性学長である彼女に、アントレプレナーシップ教育の極意、いま求められる起業家像について聞いた。

─バブソンはほかの大学と何が違うのか。

かつては、アントレプレナーシップとは生まれもったもので、誰かに教えられるものではないと考えられていました。そうした概念に挑戦し、体系的にアントレプレナーシップ教育を実施してきたのがバブソンです。いまでこそアントレプレナーシップを教える大学はほかにも存在しますが、20年前には画期的なことでした。

私たちの特徴のひとつは、単に「教える」だけでなく、実践的な教育を行っていることです。例えば、1年次に学生はみな、グループで実際に会社を起業し、運営する。そうした経験が2年生以降の授業でも生きてくるのです。

現在、卒業生は世界114カ国に存在し、緊密なネットワークを形成しています。また、起業する分野も薬品や繊維、金融からITまで、ハイテクからローテク分野まで多岐にわたっている点も特徴といえるかもしれません。最近も、若い卒業生が、安全性の高い原子力エネルギーの企業を立ち上げたばかりです。



─起業家として大切なことは何だと思われますか。

バブソンでは、3つの「P」で表される「トリプル・ボトムライン」(3つの要点=英国の著名コンサルタント、ジョン・エルキントンが1990年代に提唱した考え方)を重視しています。その3つとは、「人」(People)、「環境」(Planet)、「利益」(Profit)です。

起業によって「利益」のみを追求するのではなく、社員を含めた「人」、地球の「環境」にも配慮していく。「人」や「環境」と「利益」は相反する概念のようにも思えますが、バブソンの学生たちは矛盾を感じていないようです。

以前の起業家には、まず「利益」を上げた後で社会的な貢献に努める傾向が強かった。でも、最近は違います。バブソンの卒業生を見ても、3つを同時に求めるようになってきている。

─起業家のマインドセットが変化しているのでしょうか。

「起業家」といえば、かつては「金もうけ」が目的というイメージでした。しかし現代の起業家は、むしろ「世界を変えること」に関心が強い。つまり、起業は世界を変えるための手段だと考えているのです。

社会の認識も変わってきました。ひと昔前は、ひとりの大物起業家が現れ、多くの雇用を生み出してくれることが期待されていた。中小企業の影響力など軽視していたのです。しかしいま、注目を集めているのはスモール・ビジネスです。規模は小さくても成長力を秘めた企業はたくさんある。そうした企業にわずかな情報や知識、資金さえ提供すれば大きな見返りがあると、社会そして政府もやっと気づいたのです。

一方、スキルセットという点でも大きく環境が変化しました。IT技術の発達によって、さまざまなツールが使えるようになった。情報の入手も格段に容易になりましたし、女性が家事をこなしながら自宅で起業するようなこともできる時代です。

─世界を変えるゲーム・チェンジャーになるための重要なポイントを3つ挙げてください。

質問の答えになるかどうかわかりませんが、バブソンでは極めてシンプルなアプローチを取っています。

学生に対してまず、「あなたは何者なのか?」「あなたは何ができるのか?」「誰があなたを助けてくれるのか?」という3つの質問を投げかけるのです。その答えを見つけることが、起業への第一歩につながっていく。起業家として成功するためには、まず第一歩を踏み出さなくてはなりませんからね。

最初から詳細なビジネスプランがあって、その通りに物事を進められる人など、私たちは求めていない。そんな人は逆に失敗することが目に見えています。それよりもまず、自分自身を理解することが大切なのです。そうすれば、必ず第一歩を踏み出すことができる。

─確かに、3つの質問なら誰でも見つかりそうです。

第一歩を踏み出すときの自信をもつことが重要です。さらに言えば、私たちは失敗することを前提に置き、学生に接しています。失敗を通じて学ぶことの大切さを教えているのです。

バブソンには、失敗についてオープンに語れる雰囲気があります。失敗を認め、それについてみなで話し合う。1年次に体験する起業でも、会社が利益を上げたかどうかで評価は決まりません。起業体験を通じ、何を学んだかが問われる。つまり、成功か失敗かよりも、学生が「何を学んだのか」ということを重視しているのです。アメリカでも、高校までは「正しい回答」をしたかどうかで学生の成績が決まります。しかしバブソンでは、きちんと学んでいるかどうかで評価する。

─「失敗」こそが重要だということですか。

失敗は人生の一部ですからね。ポジティブに受け止め、将来に生かしていくことこそ大切なのです。

失敗の重要性は、起業家に限らず言えることです。私自身にも、政治家として選挙に敗れた経験が何度もあります。だけど落選を経てよりよい候補者、政治家になれたと確信している。バブソンの創設者であるロジャー・バブソンは「成功も失敗も永遠のものではない」という言葉を残していますが、まさにその通りだと思います。

ケリー・ヒーリー◎バブソン大学学長。ダブリン大学トリニティ・カレッジ政治法学博士号取得。30年近くに渡る米国及び国外での研究機関、政府機関、人道支援の活動で知られる。2003年〜07年、第70代マサチューセッツ州知事ミット・ロムニーの元で州副知事を務める。バブソン大学は、同州ウェルズリー市に1919年に起業家ロジャー・バブソンによって設立されたビジネス専攻に特化した教育機関。13年より、女性初の学長を務める。