6戦4発と当たっているアラン(右)。攻撃陣が挙げた虎の子のリードをしっかり守り切る逞しさが、今季の東京Vにはある。写真:佐藤明(サッカーダイジェスト写真部)

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 ついに、東京ヴェルディがJ2リーグの首位を奪取した。
 
 6節のファジアーノ岡山戦を1-0でモノにし、これで5戦連続の完封勝利。褒められたチームパフォーマンスばかりではないが、スペイン人のミゲル・アンヘル・ロティーナ監督のもと、変革を進めながら手堅くポイントを積み重ねている。
 
 はたして、ここまでのスタートダッシュを予見した者がいただろうか。昨季は18位と低迷し、J3に降格した最下位のギラヴァンツ北九州とのポイント差はわずかに5だ。オフに橋本英郎、永田充、内田達也、梶川諒大など複数の即戦力を獲得したが、チーム作りはほぼイチからの構築で、始動直後から新指揮官の細かすぎる戦術指示に戸惑う選手が続出。産みの苦しみは相当なものになると思われた。
 
 ところがどうだ。ロティーナ式の代名詞であるソリッドな守備は瞬く間に浸透し、若き新生ヴェルディは申し分ない結果を残している。6試合を戦って5勝1敗。得点「9」にはさすがに物足りなさを感じるが、失点は驚きの「1」。その堅守に引っ張られてアタッカー陣の切れと積極性が増しており、チームは、急加速的に成長曲線を描いている。
 
 この躍進の火付け役となったのが、ほかでもない、ゼネラルマネジャー(GM)の竹本一彦氏だ。
 
 読売クラブ時代の1980年代から若年層の指導にあたり、女子チーム(現在の日テレ・ベレーザ)の発足にも尽力。ベレーザでは86年から11年に渡って監督を務めた。その後はガンバ大阪(99〜2004年)、柏レイソル(05〜14年)でコーチや暫定監督、強化責任者などを歴任し、14年の9月に古巣ヴェルディへ帰還。そしてその3か月後、現職のGMに就任した。現在61歳で、奥方はなでしこジャパンの監督、高倉麻子さんだ。
 
 筆者がガンバ担当だった頃、試合終了直後にいつも内緒でゲーム解析をしてくれた。その「竹本ゼミ」はホーム万博での楽しみのひとつだった。分析が緻密で、説明が上手く、そしてユーモアがある。昔と変わらないダンディーな語り口調で、ヴェルディ改革の舞台裏を明かしてくれた。

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 竹本GMがヴェルディに戻ってきた2014年9月、チームは残留争いの只中にいた。すでに移籍マーケットは閉じられており、選手補強は叶わない。新たな指導陣とともに現有戦力でいかに難局を乗り切るか。そのことだけに注力したという。
 
「自分の知っているヴェルディは、つねにJ1で優勝争いをしている上位チームだったけど、戻ってみればJ2での戦い、しかもJ3への降格阻止という状況でね。新しいスタッフや自信を失なっていたチームに新しい風を吹かすにはどうしたらいいか。ベテランの中後(雅喜)や平本(一樹)の再生であったり、若手の気持ちを整理させて、前を向かせるためにどう導いていくか。そういったところに力を尽くしました。ほとんどスタッフの感覚ですよね」
 
 そのシーズン、チームは辛くも残留を果たしたが、2015年は8位、2016年は18位と、J1昇格の悲願は遠のくばかり。そして、GMは決断を下した。新たなスタイルの構築を睨んだ政権交代と、即戦力の積極補強による、チームの大々的な刷新だ。
 
「冨樫(剛一)体制でJ1昇格を狙っていたんですが、内容と結果が困難な状況だったんで、クラブとしては次の一手を考えなきゃいけない。2020年の東京オリンピックに向けても、東京のクラブとしてJ1に昇格したいという強い気持ちがあります。ではどういう監督像、指導内容やスタイルがヴェルディに合っているのか。国内外を問わず、人選を進めていました。南米やブラジルの血を引いてきたヴェルディだけど、海外ならスペインでも面白い。日本のサッカーに近いですから。そんなことを考えていた矢先、たまたまタイミング良くあちらから話が来たんですよ」
 
 始まりは、ロティーナ自身の売り込みだった。日本サッカー界での仕事に魅力を感じ、フリーの身だった59歳が、熱心にラブコールを送ってきたのだ。驚いたことにその時点で、スペイン人指揮官は2016年シーズン後半のヴェルディのゲームをすべてチェックしていたという。
 
 すぐさまコンタクトを取った竹本GMは「会ってみて人間的に素晴らしく、野心を持っている方だと分かった」と感銘を受け、羽生英之社長ら上層部と話し合い、「よし、ここで舵を切ろう」と即決した。
 
 ちなみに今冬の選手補強について、ロティーナの意見は反映されていないという。
 
「監督探しと補強は同時進行でしたからね。昨シーズンの終盤にチームを分析したとき、どこが弱点かをよくよく考えた。ボランチにセンターバック、キーパー。いずれも補強が必要だと。そのなかで、ヴェルディらしさを持った選手を獲りたい。ゲームが読めて、テクニックが高く、そこに経験があればなおいい。補強自体はじつにスムーズに進みましたね。ロティーナはヴェルディのサッカーもこちらの考えもよく理解してくれていました」
 
 始動してまもなくは、難解な練習メニューと事細かな指示を選手たちが消化できず、暗中模索の印象を拭えなかったが、沖縄キャンプでみっちり鍛えられ、テストマッチをこなしながら形を整えていった。「監督と選手の相性がことのほか良かった」と、GMは目を細める。
 
「課題だった守備の強度がそうとう高まった。トレーニング、つまりは試合への準備というところでしっかりポイントを得て、改善されたということ。選手個々のポジショニングなり戦術的な約束事が浸透してきた。いや、させたと言ったほうが正しいですね」
 
 チーム内にはピリっとした空気があるという。以前はそれほどでもなかった激しい定位置争いもまた、チームを突き動かす原動力となっている。
 
「ベテランから若手まで、練習では平等にチャンスが与えられている。ポジションを巡る争いは本当に厳しくなったし、しっかり練習で実力を示した選手が試合に出れるわけです。選手層は確実に厚くなってますよ」
 
 ただ、現在首位だからといって、昇格が保証されたわけではない。2012年シーズンにも一度は首位に立ちながら、最終的には7位に沈み、宿願は果たせなかった。これからもチームとしての上積みは不可欠だ。
 
「誰が出てもクオリティーが下がらない、さらなる守備の構築が求められるでしょう。で、攻撃面。正直言って、失点につながる判断ミスをなくすのを第一にしてきたのもあって、言ってみれば無謀なアタックは仕掛けてない。今後は、奪ったボールをどうやって攻撃につなぐか。その質を磨いていけるか。これからの2〜3か月でどこまでチームとして成長できるかが鍵ですね」
 
 8年ぶりのJ1昇格へ邁進する新生ヴェルディ。最後に「夏の補強はあるのか?」と竹本GMに訊くと、そこは、やんわり煙に巻かれた。
 
「いまいる選手に頑張ってもらうのが一番。ただ、チームはつねに成長しなきゃいけないものだからね」
 
取材・文:川原崇(サッカーダイジェストWeb編集部)