資産家はお金があるのにローンを組んで不動産を買うことがある(写真はイメージ)


 このところ資産運用の世界で、大きなパラダイムシフトが起こりつつある。長年続いた低金利の時代が終わり、金利上昇が本格化するのではないかとの見方が台頭してきているのだ。

 もしこの転換が本物だった場合、個人の資産運用は抜本的な見直しを迫られることになる。金利が上昇し、インフレが進む局面において、銀行預金に依存し過ぎることはリスク要因となる

 そこで今回から3回にわたって、新しい時代を迎えつつある個人の資産運用と、すべてのカギを握る「金利」の動向について論じていきたい。

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資産家はなぜわざわざローンを組んで不動産を買うのか

 多くの人は「金利」について普段、あまり注意を払っていないかもしれない。銀行の定期預金にお金を預ける時に「こんなに利子が少ないのか」と嘆いたり、逆に住宅ローンを組む際にパンフレットの表示を気にするくらいだろう。

 だが資産運用の世界において「金利」ほど重要な指標はない。金利が持つ力をどれだけ活用できるのかで、長期的な資産形成のレベルは天と地ほど変わってくるのだ。その代表的な例が住宅ローンである。

 普通に考えれば、住宅ローンを組むのはお金がないからである。家を買えるだけの現金を持っていないので、銀行からお金を借りて家を買うという理屈である。

 もちろん、この話はほとんどの人にとってウソではない。現金でポンと家を買える人はそうそういないので、現実問題として銀行からお金を借りなければ、家を買うことはできないだろう。

 だが世の中には、家を買うことができる現金を持っているにもかかわらず、わざわざローンを組んで家を買う人がいる。こうした人はたいていが資産家である。当然のことだが、ローンを組めば金融機関に金利を支払わなければならない。絶対的な支出という意味では確実に損してしまう。

 では資産家は、なぜ現金を持っているのに、時としてわざわざローンを組んでまで不動産を買うのだろうか?

 その理由は、資産家は金利が持つ意味を熟知しており、それを活用してさらに資産を増やそうと戦略的に考えているからである。

 家の購入も立派な投資行為の1つと見なすことができるので、これが成功するかどうかは、購入時とその後の不動産価格の推移に大きく左右される。安いところで買うというのは投資の鉄則であり、それは不動産も同じである。

 価格が破格に安くなった時が最大の投資チャンスということになるわけだが、そのようなチャンスはそうそうやってこないと多くの人は考えている。だが実際はそうでもなく、10年に1回程度は大きなチャンスに巡り会うことができる。最近では2003年前後と2010年前後にこうした局面が見られた。

不動産を購入する最大のチャンスはいつ?

 日本の不動産価格はバブル経済の頂点だった1991年をピークに下落が続いており、現在は当時の半分以下の水準となっている。だが不良債権問題がピークに達した2003年前後、市況は特に悪化し、価格を考えずに投げ売りする物件が急増した。リーマンンショック後も同様で、この時期に不動産を取得すればかなりの利回りが実現できた。

 こうしたチャンスを資産家は決して見逃さないのだが、彼等はなぜそのタイミングが市況の底だと判断できたのだろうか。もちろん経験や勘による部分も大きいが、それだけが理由ではない。資産家の多くは金利について非常に敏感であり、それゆえに市場の動向をより正確に把握できている可能性が高い。

 2002年から2003年にかけて、それまで平均すると1.5%程度だった長期金利が一気に0.5%まで下がった。これは金利のメカニズムをよく知っている人にとっては強力なサインとなる。市場が底を打った可能性が高く、かつ金利が大きく下がったことで資金調達のコストも低下する。このようなタイミングでは、思い切って銀行からローンを引っ張り、積極的に投資した方が得策なのだ

 その後、不動産価格は急上昇し、高値で売却できた人は短期間で極めて大きな資産を作ることに成功した。リーマンンショック崩壊後も同様である。2009年4月には1.4%程度だった長期金利が2010年8月には1%を切る水準まで低下している。この時も、後になってみればアベノミクス相場における最大の買い場となっていた。

 この話を聞いて「その後、日本はさらに低金利になったではないか」との感想を持った人がいるなら、残念ながら金利との付き合い方はまだまだである。確かに日本では量的緩和策によって意図的に金利を低くする政策が行われたので、金利の絶対値はさらに下がった。

 しかし、投資の成否は金利だけで決まるものではなく、取得コストと金利を総合したものが最終的な投資コストになる。人為的に金利が引き下げられた後のタイミングでは、すでに取得コストが上がっており、トータルの採算は悪化していた可能性が高い。

金利は市場参加者の心理的な「時間軸」と関係している

 詳しくは第2回以降で解説するが、金利というものは市場参加者が持つ心理的な「時間軸」と密接に関係している。この部分を理解できるかどうかが投資を成功させるカギとなる。

金利が高いということは、今後、物価が上がると多くの人が予想していることを意味している。物価が上がっている時は好景気であることも多いので、景気拡大を予想していると解釈することもできるだろう。

 逆に金利が下がっている時は、多くの人が今後は物価が下がり、景気が縮小すると考えていることになる

 ではある時期、これまでとは大きく乖離して金利が急低下した場合に、どう考えればよいのだろうか。現実の景気や物価というのは、数日で変化するようなものではなく、半年や1年という時間をかけて状況が変わっていくものである。

 それにもかかわらず、ごく短い期間に大幅に金利が下がったということは、市場参加者の心理が急激に悪化したことを意味している。すべてのケースにあてはまるわけではないが、このような時は、市場が底を打つサインとなることが多い。2003年や2010年の金利低下局面はまさにこうしたタイミングだった。

 多くの人は、株価や不動産価格など、資産価格の推移しか見ていない。このため、価格が継続して下落していると、この先もっと下がるのではないかと考えてしまい、安く買えるチャンスを認識できなくなってしまう。逆に、まだまだ下がる可能性があるにもかかわらず、安易に飛びついてしまい、含み損を抱えてしまうということもあるだろう。

 もちろん金利動向を分析したからといって、将来の動きを確実に予想できるわけではない。だが金利の動きを知っているのと知っていないのとでは、判断に大きな差が出てくる。

金利を知っていればバブル市場を売り抜けられた

 もう1つの例をあげてみよう。

 1980年代後半のバブル経済崩壊前夜、市場参加者の誰もが株価の上昇を信じて疑わなかったといわれているが、金利はそうではないことを如実に示していた。

 1987年に4%台だった長期金利は上昇を続け、1990年には9%に達する勢いになったが、これは従来トレンドから見ると相当に乖離した水準だった。株価は一旦上昇相場が始まると青天井で上昇が続くことがあるが、金利はハイパーインフレにでもならない限り上限が決まってくる。このため、株式や不動産よりもピークを把握しやすいという特徴がある。

 実際、金利が急騰したこのタイミングが株価のピークであり、ここで株式から債券に乗り換えた投資家はごくわずかだが存在する。彼等は周囲がバブル崩壊に苦しむ中、年利9%という驚異的な利回りを長期間にわたって享受することができた。

 リーマンショク直前も同様である。米国の長期金利は基本的には長期的な下落トレンドだったが、株や不動産価格が暴落する直前の2年間はトレンドを乖離した金利上昇が見られた。金利の動向に注意を払っていれば、リーマンンショックもある程度は予想できたことになる

 金利というのは将来見通しを示したものだという話は、具体的にはこのようなことを意味している。

 このあたりについては、2月に上梓した『最強のお金運用術』(SBクリエイティブ)で詳しく解説しているので、参照していただきたい。

 次回は、そもそも金利というものがなぜ発生するのかという少々、根源的な部分について議論を進めていく。これが理解できるようになると市場の見方が大きく変わってくるはずだ。さらにその次の回では、100年単位の金利の動きを分析し、今後の市場動向について考えてみたい。

(次回は4月7日に掲載します)

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筆者:加谷 珪一