カルロス・ゴーン氏(ロイター/アフロ)

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 日産自動車が、資本提携した三菱自動車工業の完全支配に乗り出している。ルノー・日産連合トップであるカルロス・ゴーン氏をはじめ、日産から5人が三菱自の取締役に就任したのに続いて、4月にも新たに日産の人材を三菱自の執行役員クラスに派遣。本部長クラスにも日産出身者が相次いで就任している。しかも三菱自は執行役員数を3割減となる27人に削減された。三菱自プロパーからは「子会社扱いされている」と落胆する声が広がっている。

 燃費測定での不正が発覚して経営危機に陥った三菱自を支援するため、日産は電光石火で資本提携を決め、昨年10月に払い込みを完了して三菱自を傘下に収めた。この時、日産のゴーン社長(現会長)は、日産との資本提携後の退任を表明していた三菱自の益子修会長兼社長を強く慰留し、これは「三菱自は三菱自のままで、日産の子会社になるものではないという三菱自の社員に向けたメッセージ」(ゴーン氏)と述べていた。

 しかし、三菱自の社員は短期間に裏切られることになる。日産は燃費不正問題を起こした開発部門を立て直すため、まず日産で長年にわたって開発部門を率いてきた山下光彦氏が開発担当副社長に就任。資本提携後にゴーン氏が三菱自の会長、トレバーマン・チーフ・パフォーマンス・オフィサー(CPO)が最高執行責任者(COO)に就任した。さらに日産の川口均専務執行役員(チーフ・サステナビリティ・オフィサー)、軽部博常務執行役員(経理部門担当)も三菱自の取締役に就任した。日産から三菱自に派遣される幹部は、この程度までは予想されていた。

 ただ、今春に一気に占領軍が派遣されることになった。日産で新興国市場向けブランドのダットサンを担当していたヴァンサン・コベCVP、開発を担当していた藤本直也CVPが常務執行役員、カルティエ・ギョーム氏が常務執行役員、日産で購買を担当していた辻谷隆英VPが執行役員にそれぞれ就任した。

 しかも、前述のとおり三菱自は意思決定を迅速化するため、執行役員数を従来より3割減らして27人とする。このうち、25%となる7人が日産出身だ。

 これ以外にも理事・経営戦略本部アクセラレーション室長、理事・TCS本部長のほか、EV・パワートレイン技術開発本部や調達管理本部の部長クラスといった幹部クラスに日産出身者を相次いで派遣している。

●不満のマグマ

 日産は表向き三菱自との連携を強化するため、執行役員や部長などを相互に派遣するとしていた。三菱自から日産に幹部が派遣されるのは、小糸栄偉知グローバルアフターセールス本部GAS事業企画部長のみで、インドネシア日産の社長に就任する。しかし、小糸氏は三菱商事出身で、三菱自には出向していた。しかもインドネシア日産の社長に就任する前に三菱商事に戻ってからの派遣となる。

 三菱自のプロパー社員がルノー日産・三菱自グループで活用されていないことや、執行役員数が減らされて出世のハードルが上がったことに三菱自の社員には、不満が高まっている。そもそも三菱自には、燃費不正問題の発覚で弱っていたとはいえ、業績面で大きな影響を受けていたのは販売台数全体の1割程度しかない日本だけ。三菱自はとくにアジアに強く、業績も燃費不正関連の処理費用を除けば順調で、特段に日産出身者のほうが優秀というわけではない。また、三菱自の社員にも「三菱財閥」としてのプライドもある。

「パートナーシップによりグループは継続的に大きなシナジーが創出される」(ゴーン氏)とする日産の思惑に反して三菱自社員には不満のマグマが溜まり続けており、今後、グループ連携に深刻な影を落とす可能性がある。
(文=河村靖史/ジャーナリスト)