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●TVアニメの現場をデジタル化
ここ数年、アニメーション制作の現場にデジタル化の波が押し寄せている。様々なメリットがうたわれるデジタル作画だが、一方で大きく制作環境が変わることへの戸惑いの声もある。

実際にデジタル化することで、制作の現場に何が起きるのか。「正解するカド」などを制作する東映アニメーションから、3名のメインスタッフがACTF(アニメーション・クリエイティブ・テクノロジー・フォーラム)のセッションに登壇した。現場のリアルな声をレポートする。

○「正解するカド」の現場はどうデジタル化されているのか

「正解するカド」は東映アニメーションが制作するアニメ作品だ。メインキャラはCGで描かれているが、全編フルCDではなく、デジタル作画も取り入れて制作されている。ACTF2017のセッションでは同作品に携わっている3名のメインスタッフが登壇し、作品制作におけるデジタル作画のメリットなどについて語られた。

「正解するカド」の制作では、絵コンテから撮影まで紙出しを行うことなく、デジタルで制作されている。独自の作画運営用のアプリケーションを作成し、制作の回収作業をなくしたことで、タップの付替えや原画のコピーなど事務作業を大幅に削減できたという。よって、回収業務における車両の利用もほぼしていないとのことだ。

さらに、現在はデジタルタイムシートを開発中で、遠隔地で原画マンとデジタルでスムーズにやり取りできるツールも独自で試験運用中という。

同社の社内制作部ではシナリオから絵コンテ、原画までは紙を使用し、動画から仕上げ、撮影、編集といった後半の作業をデジタル化している。動画と仕上げで使用しているソフトは、動画は「スタイロス」、仕上げは「ペイントマン」。これにより、東映アニメーションフィリピンでは月に約6万枚の動画を生産することが可能になっている。

一方のデジタル映像部では、「正解するカド」の制作において、シナリオ・絵コンテ・原画も含むすべての行程をデジタル化。TVシリーズでの運用を実践中だ。

同作の監督を務める渡辺正樹氏は、22インチの液晶タブレットを作業マシンとして使用している。実は最初は13インチのものを使用しており、絵コンテ段階ではそれでもまったく問題はなかった。ただ、演出段階では画面サイズが小さくやりづらかったため、大きな液晶タブレットに変更したのだという。

また、演出のチェックや全体の把握など、様々な要素を見なければならないため、モニターは大きいに越したことはないのだとか。

次に作画監督の作業環境だが、やはりワコムの22インチと13インチの液晶タブレットを使用している。原画については13インチでも作業可能というが、最近登場した16インチの方が望ましいというのが現場の声だ。

なぜなら16インチあると、ディスプレイ内に「設定」画面を置くスペースができるから、とりょーちも氏。逆に22インチまで大きくなると、机を占有される欠点があり、モバイル性との兼ね合いで16インチのバランスがベストなのだ。

●独自ツールを活用したデジタル制作
○「ドローデータマネージャー」を活用した制作進行デモ

ここからは「正解するカド」の本編カットの制作事例について具体的な解説が行われた。

使用するのは東映アニメーションが独自に開発したツール「ドローデータマネージャー」。アニメーターがオーダーされた番号順に作業し、データを移送することで、制作が関与しないデータ管理を実現している。

では実際にどんな流れで作業が進むのか。

「正解するカド」は2Dと3Dのハイブリッドカットが多用されている作品だ。まずは3Dの当たりレイアウトが入り、コンテ撮に音を重ねたら、それをベースに3Dのレイアウトを作成する。この時点では2Dのための当たりはモブのように描かれている。

レイアウトチェック後は、PSDデータを出力し、これが作業開始素材となる。画面内に入っている矢印は光源の指示だ。演出の指示に合わせて光源を決め、これに合わせて影の入れ方が決まる。光源に合わせて背景の作業も進めていく。

ここでソフトをクリスタ(CLIP STUDIO)に移行する。紙なら動きのチェックに線撮やクイックアクションレコーダーが必要になるが、デジタルであればタイムラインで動きがチェックできるため、そうした工程が必要ない。

渡辺監督によると、「デジタル化としたといっても、やっていることはあまり変わっていない」という。デジタルが便利なのは、「作画が描いてきた芝居が正しいかそうでないか、チェックを動きで見られること」や「コピー機を使わずに簡単に拡大縮小してチェックできる」こと、「コピーペーストや特定の場所だけ変形をかけられる」などで、逆に不便なのは「タイムラインのタイミングと紙のタイムシートを別々に直さないといけないところ」とのことだ。

演出という立場ではどうだろうか。りょーちも氏によると、「紙の場合はカット袋に入っているものが真実だが、デジタルの場合はPSDのデータで完結できず、別の紙を見ないとわからないため視認性が低い」ことや、「レイヤーが非表示のまま再生したりすると、その部分の修正を見落としてしまう可能性もある」などの弱点もあるという。

ただし、「指示や動作がすぐチェックできること」や、「チェック時にレイヤーの非表示や透明度で視認性を上げられる」というメリットも感じているそうだ。

○デジタル化でアニメ制作の何が変わるのか

東映アニメーションでは、自社開発したツールも制作で使用している。前述した「Draw Data Maneger」(ドローデータマネージャー)だ。

これは作画、演出、制作と作品をつなぐツールで、データフォルダをカット袋に見立て、ツール上でやりとりできるようにしたもの。作業のログがすべて取られており、進捗が秒単位で記録されている。集計表として個人の進捗状況や日報の管理も行えるという。

いわば、東映アニメーションのサーバを介して、ネットワーク越しにバトンを渡すようにして制作を進めるイメージだ。社内の作画スタッフや演出、監督のチェックなどはすべてサーバ上で行い、制作進行も社内ツールを使ってデータの移動を行う。

社外の作画スタッフやフィリピンスタジオのスタッフも、東映アニメーションサーバにデータの自動アップロード・ダウンロードすることで、遠隔地でも滞りなく作業が進行できるというわけだ。

同社では現在、デジタルタイムシートを開発中とのことで、りょーちも氏も「タイムシートがデジタル化すれば、より作業がシームレスになる」と期待を寄せている。

ただし、工程ごとに使用するアプリケーションが異なると、引き継げない情報が増えてしまう。そこで、共通フォーマットを独自開発することで各ソフト間をデータが行き来できるよう開発中だという。このデジタルタイムシートについては、渡辺監督も「もっと早く使いたかった」と運用前ながら絶賛していた。

結局のところ、デジタルを制作に取り入れたことで何が変わったのか。同社スタッフへのアンケート調査では、作業スピードは意外と"変わらない"という返答が多かったとのことで、紙に比べて高密度に描ける分、クオリティが上がるというメリットを感じつつも、一方でスピードは遅くなるという意見も出たという。ただし、大半のスタッフが今後もデジタル作画を続けていきたいと答えている。

作業の内容や流れが大きく変わることへの不満がありながらも、デジタル化による計り知れないメリットも実感しているというのが現場のリアルな感触なのかもしれない。

○『正解するカド』

2017年4月より、 TOKYO MX・MBS・BSフジにて放送開始(公式Webサイトはこちら)
[放送]
TOKYO MX1 : 4月7日より毎週金曜22時30分〜
MBS : 4月11日より毎週火曜深夜3時00分〜
BSフジ : 4月11日より毎週火曜24時00分〜
[配信]
Amazon プライム・ビデオ 4月6日より 見放題独占配信(第0話 独占配信 / 第1話 先行配信) 第2話以降:毎週金曜 TOKYO MXでの放送後 配信予定

(c) TOEI ANIMATION,KINOSHITA GROUP,TOEI

(山田井ユウキ)