空想委員会

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 前作『ダウトの行進』からおよそ1年2カ月ぶり、空想委員会の2ndアルバム『デフォルメの青写真』が4月5日にリリースされる。「デフォルメ」とはフランス語で、“対象を変形させて表現する”という意味。バンドのボーカリスト、三浦隆一のフィルターを通ってデフォルメされた世界が歌詞となり、それを受け取った聴き手もまた、各々のフィルターを通して自分の世界に投影させる。本作は、そんなデフォルメをするための「設計図=青写真」となる作品なのだ。

 この生きづらい世の中で、それでも日々を精一杯生きる人たちにエールを贈る楽曲と、ひたすら自己の内面へと深く潜り込んでいくシリアスな楽曲。それらが混在し、これまで以上に聴き手の心を深くえぐってくる。こうした領域まで歌詞の世界が進化したのは、三浦の中で一体何が起きたからなのだろうか。前回のインタビューと同様に、メンバー全員へインタビュー。途中、恋バナ的なトピックへと脱線しつつも、3人は真摯に答えてくれた。(黒田隆憲)

「キーワードとなる言葉の力が強くなければ成り立たない」(三浦隆一)

ーー今作は、歌詞が一歩踏み込んだものになってきている気がしました。

三浦隆一(以下、三浦):多分、先行シングル『ビジョン』くらいから変化してきているかもしれないですね。この曲はタイアップ(アニメ『遊☆戯☆王ARC-V』のエンディングテーマ)だったから、お題をもらって曲を作るっていうのを初めてやったんです。そこで引き出しが一つ増えて、それでまた自分の歌いたいことに戻ってきたのは大きいと思います。あと、ライブ会場に来る男子が、なんだか僕にそっくりで。「イケてないんだろうな」って思う人が多かったんですよ(笑)。そういう子たちが聴いて、ちょっと奮起するような、メッセージ性のある歌詞を書こうという気持ちもあったと思います。

ーーほんと、僕自身も非常に刺さるところが多くて。三浦さんのパーソナルな部分がかなり反映されているのかなと思ったのですが。

三浦:今作には、ツアー中に書いていた歌詞と、ツアーがひと段落してから書いた歌詞が混在しているんです。ツアー中の曲は、外向きの歌詞というか、さっき言ったように会場にいるみんなに向けて書いている歌詞が多くて。ツアー後の歌詞は、自分の内面にどれだけ深く潜れるか? みたいな歌詞になっていきました。曲でいうと、「何者」「恋とは贅沢品」「通行人『R』」「罪と罰」あたりですね。

ーーその辺りは非常にシリアスな内容ですよね。

三浦:あ、確かに。今回、言葉選びはすごく考えたんですよ。前は「こうして、こうして、〜」みたいな流れを歌詞で説明していることが多かったんですけど、今回は曲の中にキーワードをトン、トン、トンって置いていって、その隙間を埋めるのは聴く人次第っていう風にしたんです。それを効果的にするためには、キーワードとなる言葉の力が強くなければ成り立たない。そこはかなり意識したので、それがシリアスさに繋がっているのかもしれません。

ーー最後、〈助けて〉っていう歌詞でアルバムが終わるんですよね。

三浦:はい。「助けて」って、いつも思っていますね(笑)。この「罪と罰」を作ったのは、レコーディングの最後の方で。去年はライブをメチャメチャ頑張ったんですけど、そのせいで声が出なくなった時期があったんですよ。特に野音の時がひどかった。バンドにとって、一番大事な時期に声が出なくなるなんて……。「こんなに頑張ったのに、神様この扱いはひどいじゃないか!」って思っていました。僕、悪いことがあるといつも「バチが当たったんだ」って思うんですよ。

ーー子供の頃から?

三浦:そう。「この扱いは、一体なんの罰なんだろう?」って。でも思い浮かばないから、これはもう、生まれてきたこと自体が罪なのかも……とか。

佐々木直也(以下、佐々木):うわ、ヤバ!  

ーー太宰治じゃないですか(笑)。でも、歌詞にすることで、ちょっと落ち着くってことはあります?

三浦:あります。歌詞にして歌うことで、その感情を「手放す」ことができるので。かなり音楽には助けられていますね。

ーーこの歌詞は、SNSのことを歌ってもいるのかなと思ったんです。〈過ちの先 報い受ける仕組みの中 四六時中見られ〉〈許されない罪 許されない過去 許されない現在(いま)許されない未来〉って、今、誰かが失言しないか、叩く機会を虎視眈々と狙っているTwitterみたいじゃないですか。

三浦:あ、そういう見方があるのか。いや、完全にこれは神様と僕のことで。ずっと(神様に)監視されているみたいな。悪いことしたら、バチが当たるよ?みたいな。そういう意識で僕は生活しているので……。SNSと言われたのは初めてだな。でも面白いですね。いただきます、それ(笑)。

ーー(笑)。他に何か具体的なエピソードはありますか?

三浦:「何者」の歌詞は、今年の正月に八戸の実家に帰ったんですけど、その時に書きました。高校時代の「卒業したらどうなっていくんだろうな」っていう不安を思い出したんですよね。

ーー「何者」は、どこかに帰属していることの絶対的な安心感と、そこから解放される自由、その引き換えとしての恐怖が描かれていて。

三浦:そうなんですよ。僕ら脱サラも経験していますし、会社から出るときの不安とか、未だに思い出しますね。

ーー「恋とは贅沢品」の歌詞も、共感する人多いんじゃないですか?

三浦:多いですね(笑)。

ーー〈恋してるってどんなんだっけ? 思い出せなくなった なくても生きていけるけれど ちょっと寂しい〉と歌っていますが、どうなんですか最近は?

佐々木:飲み会みたいになってきた!

岡田典之(以下、岡田):毎年「結婚する」というのを目標に掲げてはいるよね?(笑)

三浦:相手もいないのにね(笑)。でも、色恋沙汰があるような場に、積極的に出向かないと、何も始まらないなっていうのは大いに反省するところですね。たとえ眠かろうが(笑)、呼ばれたら行かなきゃダメなんだなという意識はあります。こないだスタッフに「最近、三浦くん恋愛興味ないでしょ? ダメだよ仕事ばっかりしてたら」って怒られました(笑)。

「自分たちの好き勝手な道を歩いていった方がいいんじゃないか」(岡田典之)

ーー(笑)。「通行人『R』」の歌詞は、どんなところから生まれたのでしょうか。

三浦:これは、現状僕が思っていることですね。なんか、周りのバンドマンを見てても、「この人、主役だよな」って思うと同時に、「俺は主役にはなれないな」って(笑)。二人がどう思っているか分からないですけど、僕は、ボーカリストとして真ん中に立っていながら、世の中的に見たら「脇役だな」っていつも感じています。

ーーそれって、どこにもカテゴライズされないバンドだからっていうのもあるんですかね。

岡田:ちょっとメインどころに憧れて「そっちへ行きたいぜ」ってなった時期もあったんですけど、なんか最近は「そこじゃないな」とも思ってて。そんなことを考えるよりも、自分たちの好き勝手な道を歩いていった方がいいんじゃないかなって。そういう考えに変わっていきましたね。

佐々木:主役の人たちって、とにかく人気者じゃん?(笑) 『ドラゴンボール』でいったら孫悟空。『ONE PIECE』でいったらルフィ。けど、そこじゃなくて「アーロンやウソップが好き」みたいな。けどウソップって、あんなに弱音しか吐かないやつだけど、あいつにしかできないこともあって。なんか、そういう位置に僕らはいるのかなと思います。

ーーサウンド的には、前回はシンセを大々的に導入するなどバンドサウンド以外の要素がたくさん入っていましたが、今作はまた「ギターバンド」というフォーマットに立ち返ったような印象があります。

三浦:確かに、そう言われてみるとそうですね。岡田くんが作った「私が雪を待つ理由」と「何者」に生のストリングスを入れたり、「恋とは贅沢品」でピアノを入れたりしていますが、基本的にはバンドサウンドが中心となっている曲が多い。

佐々木:僕が作った「キラーチューンキラー」は、ちょっと重い曲を作りたいなと思って出来た曲です。ギターのみでアレンジを組み立てていこうという意識はさほどなかったんですけど、結果的にシンプルな音像になりました。

ーーストリングスはかなり大々的にフィーチャーしていますよね?

佐々木:「私が雪を待つ理由」は、最初は普通にバンドアレンジのみだったんですけど、後から両A面シングルの表題の1曲になることが決まって。「だとすると、このままでは少し弱いかな?」と思っていた時に、エンジニアさんから「ストリングス入れてみるのはどう?」というアイデアをもらって。バンドにストリングスというのは僕らにはなかった発想だったから、「面白そう!」ってなって入れさせてもらいました(笑)。より歌詞の世界観が広がりましたね。

ーーそういえば岡田さんは前回のインタビューで、オーケストラのコンサートをよく見に行っていたと言ってました。

岡田:あ、そうなんです。特にクラシックが好きというわけではなく、以前からストリングスが大好きで。何故かというと、バイオリンとかの音ってその音色から出る景色がある気がするんです。僕はそういう視覚的なイメージを重視しながら曲を作ることが多いんですよ。なんかちょっと切ないけど、背中を押されるような曲っていうか。それにはバンドサウンドにストリングスを掛け合わせたかったんですよね。デモの段階で簡単なストリングスのフレーズを入れて、最終的にはプロの方にストリングスアレンジをしてもらいました。

ーーストリングスのフレーズで、何か参考にしたり意識したりしたバンドは?

岡田:星野源さん。そこまで寄せてはいないですけど、インスピレーションは受けましたね。

ーー星野源は意外ですね。あと、今回も「Sigh-instrumental-」というインスト曲が入っています。これはどのように作りましたか? 

佐々木:前作『ダウトの行進』を作り終えて、次のインストどうしようかなと考えた時に、前回は自分たちの演奏したフレーズをサンプリングするなど、色んな音をちりばめて作っていったんですけど、今回はアコギメインのインストにしたいなと思って。そこだけまず決めてから作っていきました。蓋を開けてみたら、アコギなのにエレキで弾きそうなリフばっかりっていう(笑)。でも、なんかそれがこの曲の特徴になったのかなって思います。いつもライブの前のSEを意識して作っているんですけど、今回はそこもあまり関係なく作ってみましたね。

ーーちなみに「通行人『R』」の、和風なテイストはどんなところからインスパイアされましたか?

岡田:インスパイアというか、無意識に作ると僕はそういう和風なテイストになるらしく。それもエンジニアさんから教えてもらったんですけど、音の重ね方とか、基本4度ハモリが好きで多用してるんですけど、そうすると和っぽくなるというのを今回で学んだから、次はもっと意識的に和風テイストを出していこうかなと思っています。

ーー「スタートシグナル」の、〈間違ってるやり方なんだと最初に決めちゃう癖辞めたい〉という歌詞は、空想委員会の決意声明にも取れます。

三浦:これはもう、完全に自分に向けて歌っていますね。先のことを考え過ぎてしまって、前に踏み出せないことの多い人生だったので。でも、「やらなかった後悔」をちょっとそろそろ何とかしようよ、と思って書いた歌詞です。なんか、土俵に上がる前に終わっちゃうって、自分の中で一番嫌なところなんですよ。そこをもっと変えたいですね。「失敗したらしたで、その時考えればいい」と思えるところまでいきたいという願いを込めて作りました。

「新しい流れを作りたい」(佐々木直也)

ーーそれは、空想委員会というバンドについても同じように思いますか?

三浦:思います。アマチュアのときからそうなんですけど、「真っ向勝負をしないできたバンド」なんですよ。「負けるとわかっているなら、戦わずにいよう」みたいな。でも今なら勝負しても、割といいところまでいけるんじゃないか? という気持ちがあるので、今年は何かやりたいです。

ーー具体的には、どうしていったらいいと思いますか?

三浦:僕らのやっていることが、主役のところにくるような、そういう仕掛けをしたくて。よく話しているのは、主役のバンド達が何バンドかいて、そこと違うところに僕らがいて。やっぱり「脇役」なんだけど、本当にかっこいいのはどっちなの? というところでひっくり返したいんです。僕らのやることは変わらないんだけど、歌詞の内容とかサウンド面で、こっちの方がカッコいいっていうふうに思わせたい。そのためには僕らがもっと、作品としていいものを残し、それが伝わるようにしなければと思っています。特に今年はそれをちゃんとやりたい。

ーー今、「フェスバンド」なるジャンルもあって、フェスで盛り上げるための要素を意図的に入れているバンドもいますが、それだと本末転倒というか。フェスでこそ、今まで空想委員会を知らなかった人たちに気づいてもらいたいですよね。数あるフェスバンドとは全く違うことをやっているのだから。

三浦:昔は僕らも、「フェスで盛り上がらないと話にならない」と思って、フェスバンド的なアレンジを取り入れた曲も多かったんですけど、最近は逆に、「こっちがムーブメントを作り変えるから」っていうくらいの気持ちでいますね。

ーー頼もしいです。フェスという場じゃなくてもいいのかもしれないですね。

佐々木:確かに。ロックバンドとばかりじゃなくて、例えばアイドルと一緒にやったり、オーケストラと共演したり。今までやったことのない場所にも積極的に出向いていって、新しい流れを作れたらいいなと。

三浦:こないだ岡崎市中央総合体育館で、『ENERGY FES.〜繋がる未来 世界の子供達へ〜』という、東儀秀樹さんや加藤登紀子さんが出るフェスに呼ばれたんですよ。やっぱり新鮮でしたね。

佐々木:いつものやり方では通用しないし、反省点も多かったんですけど、でも「どうやったらみんな聴いてくれるんだろう?」って考えながらメニューを組み立てていくのは楽しかったし、可能性を感じました。

ーー前回のインタビューで、「こういう気分のときは、空想委員会を聴く以外にないよね」と言われるバンドになりたいとおっしゃっていました。今作は、どんな気分の時に聴いてほしいアルバムになりましたか?

三浦:僕らの音楽を好きになってくれる人って、やっぱり強くないんですよね。この世の中に生き辛さを感じながら、それでも「生きていかなきゃ」と思っている人たち……。そういう弱い人たちが、「あ、俺と同じこと考えてるわ、この人」って思ってくれたり、「もうちょっと頑張ってみよう」って思ってくれたら嬉しいですね。音楽でギリギリ救われているみたいな人に響いてほしい。そういう意味では、リア充〜パリピの人たちが聴く音楽じゃないのかも。本当は弱いのにリア充・パリピを装っている人たちなら刺さると思います。

岡田:いるいる! ホストとかでもたまにいるもんね。「お前、絶対そっち側の人じゃないだろ?」みたいな人が、髪の毛ツンツンにしてたり。

ーーそういう人って今、結構多いみたいですよ。周りに合わせてギャルっぽい格好をしてても、本当はすごく内向的で、家では本ばっかり読んでる子とか。

佐々木:そうなんですよね。僕らのライブでも、ギャルっぽい格好の子がいるんですよ。

三浦:友達や恋人の前では強がって見せてるけど、本当は弱いっていうことか。じゃあ、そういう子達を集めてライブがやりたいね。それがきっかけとなり、リア充〜パリピの人たちにも空想委員会の音楽が広まれば、僕らも脇役から主役にひっくり返ることができるかもしれない。

岡田:そういう人たちが、僕らのライブ会場を埋め尽くして、みんな泣いてる光景を是非観てみたいよね! 俺、感激して泣いちゃうかも(笑)。
(取材・文=黒田隆憲)