『ブランケット・ブルームの星型乗車券』吉田 篤弘 幻冬舎

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 「一粒で二度おいしい」とは、グ○コアーモンドキャラメルのキャッチフレーズだが(老舗の森永キャラメルや新興勢力のヴェルタースオリジナルなどに押され気味という印象があるけれども、がんばっていただきたい)、『ブランケット・ブルームの星形乗車券』についても当てはまると思う。なぜなら本書は、〈ブランケット・シティ〉に住む27歳のライターであるブランケット・ブルームが書いた"コラム"集、という設定で書かれた"物語"であるからだ。コラムも物語も好きな人間にとっては、まさに一挙両得。

 いや、もしかしたら「三度おいしい」かも。装幀やイラストがおしゃれで、あたかも"画集"のような趣もあるのだ(クラフト・エヴィング商會が手がける本はどれもそうだが)。文末にはしゃれたおまけも付いており、楽しいしかけに満ちた本になっている。

 「星型乗車券」とは、〈ブランケット・シティ〉の主な交通手段である環状鉄道の〈ブランケット・ドミノ・ライン〉上の10の駅に由来する。ブランケット・ブルームくんがコラムでとりあげる街のあれこれは、この10の駅を回って集めた話題だ。が、「ひとつ、ふたつ、と順番に下車してゆくのはどうも面白くありません」というのがブルームくんの心情。そこで彼が編み出したのが「まずは『1、3、5、7、9』の順で下車し、次は『2、4、6、8、10』の順で下車」するという「ひとつ飛びに駅をおりる」独自の方法だったのだ。ひと回りするたびにおりる駅をマーキングし、その5つの点を線で結んでいくと、そこに浮かび上がるのは大きな星印。奇数駅コースと偶数駅コースで向きの異なるふたつの星印が出現するというわけ。もっとも、「彼のコラムはいつも新聞の片隅に埋もれていて」、「彼の意図した星型にはまだ誰も気づいてい」ない状態ではあるけれども。

 例えばある日のブルームくんは〈ブランケット・シティ〉が「世界一火事の少ない街」である理由を紹介してみせ、またある日のコラムでは新品の踏み台を購入したことによって明かされた謎を披露する。さりげない日常風景のスケッチと思わせて、実は計算された架空の世界が描かれているのだ。絶妙なバランスの上に成り立った、コラムであり物語でもある文章を読むのは心地よい。できることなら、縮刷版〈デイリー・ブランケット〉紙をもっと読みたいと思う。

 クラフト・エヴィング商會は吉田浩美・篤弘夫妻によるユニット名である。著作の執筆と、装幀を中心としたデザイン・ワークを主として活動。もともとは装幀のチャーミングさにひかれてクラフト・エヴィング商會のファンになったのだが(「この本の装幀いいなあ。クラフト・エヴィング商會って書いてある。あれ、この前素敵だと思った本にもこの名前が載ってなかったっけ?」)、最近は篤弘さんの小粋な文章とセットだとなおうれしいと思うようになった。ぜひご夫婦円満で(鳳啓介・京唄子の例などもあるとはいえ)、これからもたくさんの作品を生み出していただきたい。

(松井ゆかり)