Aマッチウィーク明けのペスカーラ戦でも出番なし。本田のミランでの状況はまったく変わっていない。写真:Alberto LINGRIA

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 4月2日のペスカーラ戦(セリエA30節)の後半、本田圭佑がウォーミングアップを始めたのを見て、「奇跡が起こった」と思った人もいただろう。ミランは最下位のチーム相手に苦戦し、1-1のまま時間ばかりが過ぎていた。
 
 もしこのまま試合がドローで終わってしまえば、ヨーロッパカップ出場権(4、5位)という目標がまた遠のいてしまう。膠着状態に揺さぶりをかけるために、指揮官のヴィンチェンツォ・モンテッラが久しぶりに本田というカードを切ってみようという気になっても、不思議ではなかったかもしれない。
 
 しかし、それは空しい願望にすぎなかった。モンテッラはまず最初に、カルロス・バッカに代えてジャンルカ・ラパドゥーラを投入(58分)。次にホセ・ソサとマヌエル・ロカテッリ(70分)、最後にマティアス・フェルナンデスとユライ・クツカ(77分)を交代させた。
 
 結局、本田はまたもや出番なし。怪我でベンチからも外れた1試合を挟んでセリエAで13戦連続のプレータイムなしだ。90分間チームメイトたちのありえないような酷いプレーを、またベンチからただ眺めるだけで終わってしまった。
 
 残念ではあるが、まあこれまでにも何度も見てきた風景である。ただ問題なのは、この苦境が今やそれがミランだけに留まらず、日本代表にも影響してきていることだ。
 
 すでに前回(昨年11月)のAマッチウィークにも、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督は本田のミランでのあり方を問題にしていた。すべてのナショナルチーム指揮官と同様に彼もまた、選手を選ぶ時はクラブチームでの出来不出来を大きな基準としている。だから代表候補選手たちが、クラブでプレーしていないとなれば頭痛が絶えないだろう。
 
 もちろん本田は日本代表の魂であり、シンボルでもあるから、普通の選手と同じ基準は当てはまらないかもしれない。しかしこれほど長いことミランでプレーをしていないとなれば、さすがに影響は避けられない。長いこと試合で真剣勝負を戦っていないのだ。どんな一流の選手でさえもプレーのリズムや勘を失ってしまう。
 
 3月の2試合(UAE戦とタイ戦)も本田は途中出場で、いずれも大きなインパクトを残せなかったと聞く。当然の結果だろう。
 とにかく今シーズンの状況を見れば、本田は契約満了を迎える6月30日でミランと袖を分かつべきなのは明白だ。
 
 ただ一つだけ不確定な要素があった。ミランのオーナー交代問題だ。シルビオ・ベルルスコーニから中国資本へのクラブ株式売却交渉は、昨夏から何度も延期を繰り返してきたが、4月14日にはついにクロージング(最終手続き)を迎えると見られている。これまでの経緯を考えれば、「たぶん」と言わざるをえないが……。
 
「ミランのオーナーが中国人に変われば、本田の処遇も変わるのではないか?」
 
 そう考える者はたしかにいる。“チャイナ・ミラン”が誕生すれば、クラブは中国を含む極東へのマーケティング戦略を推進するはずで、アジア人選手で屈指の知名度を誇る本田はたしかに有益な存在になりうる。
 
 そうなると話は、2014年1月に本田がミランに移籍して来たばかりの頃と同じ地点に立ち戻る。ミランが本田に求めているのは、サッカー選手としてだけではなく、アジア地域に対する広告塔としての役目もあるのではないか――ということだ。
 
 3月下旬には買収先が『シノ・ヨーロッパ・スポーツ』から『ロッソネーリ・スポーツ・インベストメント・ルックス』というオフシェア企業に代わるなど、中国資本の正体が不明慮なこともあり、これまで誰もそれを大々的には話題にしてこなかった。その一方で新オーナーは「本田とは契約を更新しない」と明言してもいなかったのだ。