<"火山の冬"を人為的につくりだし、地球温暖化を緩和しようという気候工学(ジオエンジニアリング)が注目を集めているが、屋外実験がはじめて行われる>

"火山の冬"とは、大規模な火山噴火によって二酸化硫黄ガスが成層圏に達し、これと水とが反応してできた雲が太陽光を遮ることで、地表と下層大気の温度が低下する現象のこと。ハワイ大学マノア校の研究チームによると、1991年6月にフィリピンのピナトゥボ山で発生した大規模噴火では約1,700万トンの二酸化硫黄が成層圏に流れ込み、1992年から1993年にかけて地球全体の平均気温がおよそ0.4度下がったという。

では、このような現象を人為的につくりだし、地球の気温を下げることで、地球温暖化を緩和することができないだろうか。気候システムを人為的・工学的に操作しようという『気候工学(ジオエンジニアリング)』が注目を集めるなか、米ハーバード大学工学・応用科学部(SEAS)のデビッド・キース教授を中心とする研究チームは、その実現可能性とリスクを探るべく、いよいよ屋外実験に着手する。

研究チームは、2014年11月、英学術論文誌『フィロソフィカル・トランザクションズ』において、気球を活用した屋外実験について初めて提案。化学物質を成層圏へ人工的に注入し、太陽入射光を減らす『太陽放射管理(SRM)』の手法は、地球温暖化の緩和策として期待される一方、成層圏で生成される硫酸がオゾン層を破壊するなど、様々なリスクを秘めている。そこで、室内実験では把握しきれない現象などを解明するべく、制御された環境下での屋外実験が必要であると説いていた。

さらに、2016年11月には、硫酸ではなく、石灰石の主要成分であるカルサイトを注入することで、オゾン層を修復しながら、地球を冷却できることを発見。カルサイトは、光を反射し、地球の温度を下げると同時に、大気中の硫酸や硝酸、塩酸を中和することで、オゾンの減少を防ぐことができるという。


研究チームは、これまでの実績をもとに、新たな一歩を踏み出そうとしている。キース教授は、2017年3月、ワシントンD.C.で開催された研究フォーラムにおいて、アリゾナ州の気球開発会社「ワールド・ビュー・エンタープライズ」と提携し、屋外実験に向けた高高度気球の設計に着手したことを発表した。2022年までに小規模な散布実験を2回実施する方針で、1回目は水を、2回目には炭酸カルシウムを、それぞれ成層圏に注入し、微粒子の動きや大気中の他の化合物との反応などを測定する計画だ。


ワールド・ビュー・エンタープライズのThe Stratollite

もちろん、地球温暖化の防止には、温室効果ガス排出量の削減こそ不可欠。英気象庁の傘下にあるハドレー気候予測研究センターは「成層圏への化学物質の注入は、アフリカのサヘル地域に深刻な干ばつをもたらすおそれがある」と警告している。


『気候工学(ジオエンジニアリング)』や、その技術のひとつである『太陽放射管理(SRM)』が、どのような作用を有し、私たちの地球にどのような影響を及ぼすのかを解明することに一定の意義を認めつつも、現時点では、地球温暖化防止における補完的手段として『太陽放射管理(SRM)』を位置づけるべきなのかもしれない。

松岡由希子