降り注ぐ陽光をきらめかせ、2度掲げたふたつのトロフィーは彼にとって3度目の、そして実に11年ぶりの「サンシャイン・ダブル」の勲章であった――。


全豪オープンに続き、シーズン序盤のマスターズも次々と制したフェデラー カリフォルニア州のインディアンウェルズと、フロリダ州のマイアミで行なわれるマスターズ2大会を制することを、北米の人々はある種の誇りと敬意を込めて「サンシャイン・ダブル」と呼ぶ。まばゆい太陽が輝くふたつの地で、すでに18のグランドスラムタイトルを誇る35歳のロジャー・フェデラー(スイス)は、他の選手を畏怖(いふ)させる超攻撃型のプレースタイルを引っ提げ、「王の帰還」を思わせる頂点奪回を成したのだった。

 フェデラーが最後にインディアンウェルズとマイアミ・マスターズを制したのは、”ひと昔”以上の歳月をさかのぼる2006年のことである。その前年にも同じ栄冠を手にした彼は、まさに最強の時を謳歌していた。

 しかし2007年には、ノバク・ジョコビッチ(セルビア)が19歳にしてマイアミ初戴冠。そのジョコビッチの背にピタリと鼻先をつけるように追走するアンディ・マリー(イギリス)も、2009年に同大会を制する。若く、野心に燃え、さらにはフェデラーという圧倒的な王者を倒すためにカウンターを主体とした精密機械のごときプレースタイルを確立した新世代を指し、当時のフェデラーは「僕は”モンスター”を生み出してしまったのかもしれない……」とうなだれたこともあった。

 そのフェデラーが35歳を迎えた今、ふたたび、テニス界を席巻している。

 昨年2月にはひざの手術を受け、7月以降はリハビリとトレーニングに徹するためすべてのスケジュールをキャンセルした彼は、以前よりもさらにショットバリエーションを増やし、果敢にネットを取る速攻型のテニスに磨きをかけて、今年1月にコートに復帰。いきなり全豪オープンを制して多くの人々のノスタルジックな感動を喚起したが、それが一過性の輝きではないことを、彼は今回の「サンシャイン・ダブル」で証明した。

 今季のフェデラーの、ここまでの戦績は19勝1敗。これは、2006年以来の好スタートである。

 果たしてテニス界の「時計の針」は、巻き戻されたのか――?

 いや、決してそうではないだろう。

 インディアンウェルズの決勝でフェデラーに敗れたスタン・ワウリンカ(スイス)は、表彰式のスピーチで声を詰まらせ、涙を流した。その後に設けられた会見の席で、彼は「とてもつらい敗戦だった」ことを認めたうえで、こう続けている。

「35歳の彼がこのレベルのプレーをしていることは、もうすぐ32歳になる僕に希望を与えてくれている。ロジャーは史上最高の選手だ。

 僕たちはみんな、彼に負けることにある意味で慣れている。でも、僕は彼に勝ったこともある。その試合を振り返り、何がうまくいっていたのか……そして今回は何がダメで、何を改善できるかを確認していく。

 彼のプレーのリズムは、とても速い。それが、僕のテニスを狂わせる。だが、彼との対戦は僕にとって、いつだってチャレンジなんだ」

 そのインディアンウェルズ決勝から約2週間後。マイアミ・オープン準決勝でフェデラーと対戦した21歳のニック・キリオス(オーストラリア)は、相手にすべての声援が向けられ、自らには不条理とも思えるブーイングが容赦なく浴びせられるなか、6-7、7-6、6-7の大接戦の末に敗れた。試合中、荒ぶる感情を必死に制御し続けた「悪童」と呼ばれる次代の旗手は、敗北と同時にすべての怒りを吐き出すようにラケットを叩きつけ、会見では焦点の定まらぬ目のまま椅子に腰を沈めていた。

「もう少しだった……。自分には勝機があった。もう少し彼にプレッシャーをかけられていれば……」

 悄然としながら胸のうちをポツリポツリと吐き出す敗者は、フェデラーの強さも素直に称賛する。

「彼のサーブから最初のショットにつなげる展開は、ツアーのなかでもダントツにすばらしい。僕は『ビッグ4』全員と戦ったし、他のほとんどのトッププレーヤーとも戦ってきた。それでも、彼の速攻に対応するのは本当に難しい。リターンしたと思った次の瞬間には、ウイナーを奪われる。自分のリズムが掴めない。彼は最強の選手だ」

 そして、マイアミの決勝で3-6、4-6で敗れたラファエル・ナダル(スペイン)は、終始険しい表情を崩さずに言った。

「彼のようなすばらしい選手が自信を持ち、高いレベルのパフォーマンスをしてきたら、勝つのは難しい。でも……僕は”運”というものをそんなに信じてはいないが、第1セットのいくつかのポイントでは運に恵まれていなかった。今日は『彼の日』だった。それでも今日の試合は、スコアよりもはるかに接戦だった」

 以前からのライバルや盟友に、台頭する若手たち……。彼らはみなフェデラーに敗れ、失意を味わい、そして「史上最強」の高みを知ったうえで、再戦の日の勝利を誓った。頂点を狙うすべての選手たちにとって、フェデラーは今なおテニスという競技の天井を押し上げ、標的であり続ける存在だ。

 では、フェデラー自身は、何を見ているのだろうか? 背を追われる彼にとって、この競技に存在するすべての栄光と記録を手にしたように見える彼にとって、まだ追うべき標的は存在するのだろうか?

 誰もが抱くその疑問には、フェデラーの次の言葉が、おそらくはひとつの解を示している。

「勝っているときは、すべてが金色に輝き、美しい。特に、試合でスーパーショットを決めたときは最高の気分になれる。僕はいつも、創造性あふれるショットを打とうとしている。すべてのポイントを、自分で決めようと努めている。その結果、いいことが起こると信じてね。

 最近では、バックハンドで以前よりも早くボールを捕らえ、ベースラインからより多くのウイナーが決められるようになった。それがね、楽しいんだ」

 少年のように顔を輝かせ、キャリア通算91のツアータイトルを誇る「史上最高の選手」は、テニスが上達する楽しみを、勝利を追う喜びを、嬉々として語っていた。

 フェデラーのコートへの情熱が枯れることは、どうやら当分はなさそうだ。彼にとってテニスは今でも、まだ見ぬ未知の輝きを秘めた「無限の宝石箱」なのだから――。

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