北朝鮮の内部資料を国外に持ち出そうとしていた女性が、当局に逮捕される事件が起きた。

両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋によると、最近、道内の普天(ポチョン)郡の国境付近で、職業総同盟が発行した政治学習用の内部資料数冊を、中国側にいる何者かに手渡そうとしていた女性が国境警備隊に逮捕されてしまった。

女子大生を拷問

この資料は、当局が住民を対象に行っている政治講演会の講演提綱(レジュメ)と思われる。資料の具体的な内容は不明だが、逮捕されたのは咸鏡南道(ハムギョンナムド)洪原(ホンウォン)郡在住の女性。彼女は、国境警備隊の隊員にワイロを掴ませ、協力する約束を取り付けた上で資料を中国側に手渡そうとした。しかし、この隊員が密告したため、逮捕されてしまう。隊員にとっては、私腹を肥やし、実績も上げられて一石二鳥となった形だ。

金正恩党委員長は、国外へ情報が流出することや国内に情報が流入することを、体制を揺るがす不安材料と見て、極めてナーバスになっている。大々的な取り締まりを行う指示を繰り返し出しているが、今回のように内部資料が海外に持ち出される事例が後を絶たない。

資料だけでなく、口コミでの情報漏洩にも神経を尖らせている。ここ数年の北朝鮮では、スマートフォンのユーザーが拡大しているが、LINEやカカオトークなどのコミュニケーションアプリに対しても警戒を強めている。韓国と携帯通話しただけで、女性が見せしめで処刑されたケースすらある。

相次ぐ情報漏洩に業を煮やした朝鮮労働党の組織指導部は、取り締まる側の秘密警察・国家保衛省(以下、保衛省)にさえ、大々的な検閲(監査)を行っており、多くの幹部が更迭されている。

そして、北朝鮮の住民にとって甚だ迷惑なことだが、保衛省の幹部たちはクビにされまいと、厳しい検閲を行い、必死に実績をあげようとしている。当局は、4月15日の太陽節(金日成主席の生誕記念日)までに検閲を終えるとしており、保衛省の幹部は、休日返上で住民の逮捕に血眼になっている。

保衛員にとって、適当な罪をでっち上げて逮捕することなど朝飯前だ。さらに、「隣人の動向を報告すれば、後日何かあったときに見逃してやる」と言って、住民間の相互監視を煽っている。もともと保衛省は拷問を伴った恐喝さえ厭わない残虐な治安機関だ。保身のために、罪なき人々が次から次へと逮捕される状況に、あちこちから非難の声が上がっている。

つい最近も、生活必需品と食品を中国に密輸出していた商人がスパイ容疑で逮捕されるという事件が起きた。これも一連の摘発キャンペーンを受けた密告によるものだと住民に知れ渡り、「いつ誰に密告されるわからない」という不信感が住民の間に漂っているという。

そうでなくても、住民たちは厳しい検閲に加えて連日の政治行事への動員で「毎日がつらい」とこぼしている。5月になれば、都市住民が農村に動員される「田植え戦闘」が始まるが、そのほうが今よりまだマシだろうとの声が上がるほどだ。

気になるのは、逮捕された女性のその後だが、間違いなくただではすまないだろう。金正恩体制になってから、北朝鮮の治安機関、とりわけ保衛省はあらゆる情報の流出入に対して厳しく対処しており、時には拷問も厭わない。韓流ビデオのファイルを保有していたという容疑だけで女子大生に過酷な拷問を加えるほどだ。

(参考記事:北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは…

件の女性は逮捕された理由が理由だけに、この女子大生以上に悲惨な末路がまっているだろう。