トクホのランダム化比較試験

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 先日、通勤電車の中吊り広告で「トクホの大嘘」という週刊誌の見出しを目にしました。トクホ(特定保健用食品)は本当に効果がないのでしょうか?

 いきなりですが、結論から言えば、効果はあります。

 なお、筆者はこの週刊誌記事が虚偽・捏造だと糾弾したいわけではありません。また、トクホを製造・販売している企業のちょうちん持ちをしているわけでもありません。「効果がある」と断言しましたが、その言葉の意味について正確に理解をしておく必要があります。今回は、「トクホに効果はある」の真の意味について考えてみます。

●トクホの有効性:検証方法は医薬品と同じ!

 製造・販売しようとするトクホ製品に「効果がある」ということを立証するためには、ランダム化比較試験によって有効性を検証することが求められます。これは、医薬品の効果を立証する方法と同じです。

 トクホのランダム化比較試験を図にすると次のようになります。

 補足すると、試験食品は製造・販売しようとするトクホ製品と同じものを用いる必要があります。また、比較として対照製品を摂取してもらう必要があり、これは見た目や味などは同じでも関与成分(=効果を発揮する有効成分)が含まれていない食品、いわゆるプラセボになります。

 たとえば、脂質代謝に関わる総コレステロール値に対して、トクホがどのように影響するのかを調べるランダム化比較試験では、下の図に示すような結果が得られています。

「*」のマークが付いている箇所が試験食品(トクホ)と対照食品(プラセボ)との間に統計的に差が確認された、つまりトクホの効果が立証されたということになります。

 グラフを見て気がついた人がいるかもしれませんが、プラセボを摂取している群でも総コレステロール値が低下しています。一般的に、このような臨床試験をおこなうと、参加者は「臨床試験に参加している」という意識から食生活や運動習慣に気を配ったりしてしまい、その結果、プラセボ群であっても総コレステロール値などの検査値が改善することがあります。これを専門用語でホーソン効果といいます。また、皆さんもご存じかと思われるプラセボ効果も無視できません。そのため、重要になってくるのが、試験食品(トクホ)と対照食品(プラセボ)との差、つまりトクホにプラセボを上回るような効果があるのかどうかになってきます。

 消費者庁がトクホとして許可するためには、その製品を用いたランダム化比較試験によって有効性が立証されなければなりません。ですから、世の中に流通しているトクホは、原則としてランダム化比較試験によって効果があることが証明されていることになります(「原則として」と書いたのは、トクホの制度が始まった当初は厳密にランダム化比較試験が義務づけられていなかったためです)。

●ただし、トクホの効果は限定的

 ここで、この臨床試験の内容について「PICO(ピコ)」で整理してみます。「PICO」とは、臨床上の疑問を定式化するときに用いられるものです。また、臨床試験の内容を整理し理解するためにも使われます。それぞれのアルファベットの意味は次の通りです。

(1) P(Patients): 誰に?
(2)I(Intervention):何をすると?
(3)C(Comparison):何と比較して?
(4)O(Outcome):どうなるか?

 先ほど、例として挙げたトクホの臨床試験の内容をPICOにあてはめてみます。

(1)P: 総コレステロール値が少し高めの人が
(注意:「脂質異常症」といった病気の人は対象外)

(2)I:トクホを毎日利用すると
(注意:臨床試験と同じ「適切な摂取量」が重要。たくさん摂取すればよいわけではない。また、臨床試験と同じ「適切な摂取期間」が必要。1回摂取すれば効果があるわけではない) 
    
(3)C:プラセボと比較して

(4)O:総コレステロール値が「わずか」に下がる

「注意」と書かれたところに気をつけていただきたいのですが、トクホの効果は、あくまで臨床試験と同じような対象者が同じ使い方をして得られるものです。つまり、利用方法が臨床研究と異なった場合、期待される効果が得られるかどうかは、まったくわかりません。

 ただ、誤解しないでほしいのですが、トクホを否定しているわけではありません。冒頭で述べた通り、トクホには効果があります。しかし、その「効果があります」の意味するところは、「限られた条件の人が、臨床試験と同じ方法で利用したときに、比較的おだやかな効果を得られる可能性がある」ということになります。

●トクホに込められた、もう一つの目的

 実は、トクホが目指すところは、その製品のみで血液検査の結果を改善するということではありません。

 トクホのもう一つの重要な目的として、偏った食生活が病気につながることを知らせ、バランスの取れた食生活が健康の維持・増進には重要であることを国民に伝えることがあります。そして、トクホは不摂生をしている人が生活習慣を変える行動変容を起こすきっかけとしての役割を担っています。

 トクホの製品ラベルには「食生活は、主食、主菜、副菜を基本に、食事のバランスを」という文言が必ず記載されています。もし、コンビニなどでトクホを見かけたときは手にとって確認してみてください。

 これらのことを念頭に、トクホと上手に向き合ってみてもらえたらと思います。
(文=大野智/医師、大阪大学大学院医学系研究科統合医療学寄付講座准教授)