北海道日本ハムファイターズの栗山英樹監督(Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

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●栗山監督のプレイヤー・ファースト

 日本代表の小久保ジャパンが予想以上の快進撃を見せ、盛り上がりを見せたWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)の余韻も冷めやらぬなか、今年もプロ野球の長いシーズンが開幕した。

 昨年、最大11.5ゲーム差をつけられてからの奇跡の逆転劇を起こした北海道日本ハムファイターズの栗山英樹監督が、球団史上初となる2年連続日本一を実現できるか、また今年も大谷翔平選手の二刀流での起用法をはじめ、どのような采配を振るかが注目される。

 栗山監督といえば、大谷の「1番・投手」での二刀流起用や、守護神である増井浩俊投手のシーズン途中からの先発転向など、これまでのプロ野球の常識を覆す大胆な起用法を繰り出す名将といったイメージが強い。しかしそれ以上に着目すべきは、新しいリーダーシップのあり方だ。栗山監督のリーダーシップは、プロ野球の世界にとどまらず、成果責任を厳しく問われるようになってきたビジネスの世界にとっても良き手本となるものだ。

 その栗山監督らしいリーダーシップの哲学は、昨年のリーグ優勝や日本一に輝いたときの優勝監督インタビューの場でも端的に表れている。

「ここまでがんばってきた選手たちが勝ちたくて勝ちたくて、ものすごく緊張しているのがこっちにも伝わってきました。とにかく、なんでもいいから早く勝たせてあげたいと思って見ていましたが、本当に良くやってくれました。」(16年9月28日・リーグ優勝)

「選手たちはリーグ優勝のときも言いましたが、苦しいシーズンから最後大きく離されながらも諦めない。1試合ごとに選手たちが成長している姿を実感できたので、選手たちをほめてあげてください」(同年10月29日・日本シリーズ優勝)

 このように栗山監督は日本ハムの監督に就任して以来、ぶれることなく、選手第一(プレイヤー・ファースト)で考え、選手を主役にし、監督はそれを支える裏方・サポーターという役に徹している。

 このプレイヤー・ファーストの思想は、決してインタビューのときだけのリップ・サービスではない。普段から相当な部分を選手に任せており、監督として言いたいことがあっても、できるだけ我慢して言わないようにしている。監督を支えているコーチに対しても、「チームのことはどうでもいいから、選手のためになるかならないかを判断基準にアドバイスをしよう」と伝えている。これは通常とは真逆の発想だ。監督の場合、どんなに選手が活躍したとしても、チームとしての結果を出せなければ解雇されてしまう。それでも栗山監督は、「勝ったら選手のおかげ、負けたら全部、俺のせいだから」(「週刊ベースボール」<ベースボールマガジン社/12年11月4日臨時増刊号>より)というように、選手を信じて覚悟を決めている。

 また、栗山監督はよく、「チームは小学校みたいなもの」と述べている。これは、選手の芽が伸びるまで我慢し、見守ることが肝心だということを意味している。プロ野球の監督は目の前の一試合一試合の結果が問われるが、それでも短期的な結果だけでなく、各選手のもつポテンシャルや内面と向き合うことで、不振でも信じて起用を続けている。

 かつて不動の4番バッターである中田翔選手がスランプに陥ったときも、「最後はオレが責任を取るから、お前は自分の潜在能力を目一杯発揮することだけを考えてほしい」「今日はがんばるぞ、一緒にがんばるぞ」と伝えて起用を続け、それが中田選手の「よっしゃ!監督のためにもやってやろう」という気持ちを引き出し、見事によりいっそうの結果を出すことにつながった。

●部下に尽くす、サーバントリーダーシップ

 栗山監督の「選手が中心であり、選手のために尽くすことが監督のリーダーシップ」という思想は、実は1970年代に米国のロバート・グリーンリーフ氏が提唱したサーバントリーダーシップに通じるものがある。サーバントリーダーシップでは、従来の「リーダーのために部下がいる」という発想を逆転させ、「部下を支えるためにリーダーは存在する」と考える。そこでは、上司は部下の自主性を最大限に尊重し、部下の成功や成長につながる行動を実践する。その結果として、上司と部下の間に信頼関係が育まれ、同じビジョンや目標を共有しながら各自が能動的に組織を導くようになり、組織としての目標達成が実現できると考えられている。

 上司を監督、部下を選手、組織をチームにそれぞれ置き換えてみると、栗山監督の選手への発言や行動は、まさにこのサーバントリーダーシップを体現しているといえる。

●これからの時代に必要なリーダーシップのあり方

 このサーバントリーダーシップ型のスタイルは、ビジネスの世界でも今後より一層有効になるだろう。

 第一に、現在の若年層(主に80年以降に生まれた世代)は、上司の指示・命令に従うよりも、自分の頭で考えて、主体的に行動することにより高いモチベーションを感じる傾向にある。また、さらに重要なことは、VUCA【註1】時代が進展するなか、上司よりも現場に近い部下が自分の頭で考え、行動するほうが適切な対応をスピーディーにできる可能性が高い。従来の指示・命令型リーダーシップの権化である軍隊組織(アメリカ海軍)でさえも、今では「上司の仕事は、部下が自分の可能性を最大限に発揮できるような環境を作り出すことだ。情報を上に集めるのではなく、情報がある現場に権限を下ろす」ことを強く奨励している。

 これらの現状を踏まえると、サーバントリーダーシップの思想はビジネスの世界にこそ求められるということがわかるはずだ。今年のペナントレースでは、栗山監督の采配だけでなく、インタビューでの発言に込められたリーダーシップの哲学に注目してみてはいかがだろうか。
(文=村澤典知/インテグレート執行役員、itgコンサルティング 執行役員)

【註1】VUCA :Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字をつなぎ合わせた造語で、現在の社会経済情勢がきわめて予測困難な状況に直面しているという時代認識を表す言葉。