村上清貴(むらかみ・きよたか)株式会社村上農園 代表取締役社長

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 村上農園は2017年、売上高100億円を目指す農業ベンチャーの勝ち組だ。しかし、国内は少子高齢化と同時に人口減少が進む。国内野菜市場は、生産額ベースで約2兆円といわれるが、今後、大幅な市場拡大は見込めないばかりか、縮小傾向にある。厳しい環境下で、成長戦略をいかに描くのか。

 村上農園社長の村上清貴氏は、2035年に売上高1000億円という高いビジョンを掲げる。国内における新市場創出と併せて、海外市場進出を進める。気候など自然環境はもちろん、食文化の大きく異なる海外市場への挑戦は、簡単ではない。いかにして海外へ打って出るのか。村上氏に成長戦略を聞いた。

●オランダの世界最先端企業と提携

片山修(以下、片山) 国内は人口減少が進むなか、農業ビジネスの成長戦略は、いまや海外展開なしに描けません。世界の農業に目を向けると、今、世界最先端の農業国といわれるのがオランダです。九州とほぼ同じ面積の国土の45%が農用地で農作物輸出額は米国に次ぐ世界2位。オランダをどう見ていますか。

村上清貴氏(以下、村上) オランダをたびたび訪問して感じるのは、農業に先端技術を応用し、世界最高水準の生産性を実現していることです。日本の農業が「遅れた産業」と捉えられがちなのに対し、オランダでは農業分野こそ最先端分野なんです。事実、センサーやロボットが多用されていますからね。

 オランダは、米国やオーストラリアのように広大な土地を利用した大規模農業には適しません。国土が狭いうえ、干拓地で土壌が悪い。寒冷で日照時間も短く、農業には悪条件がそろっている。しかし、オランダのすごいところは、デメリットを工夫して有利になるように変えてしまったことです。つまり、大規模化より植物工場やハウスを使うほうが得策だと気づき、実行している。

片山 オランダ同様、国土も耕作面積も狭い日本は、オランダを手本にできますね。日本の農業は国の保護を受けてきた結果、ビジネスの視点に欠けている。さらに、国内競争に終始し、海外に目を向けてこなかった。グローバル競争を勝ち抜いているオランダには、ベンチマークすべきモデルがありますね。

 村上農園は14年、「マイクロ・ベジタブル」と呼ばれる“ツマモノ野菜”を手掛ける、オランダのコッパート・クレス社と提携しました。狙いはなんですか。

村上 野菜のマーケットは、大きく2つあります。ひとつは家庭で消費されるもの。もうひとつは、外食・中食産業が使用する業務用食材で、規模はおおよそ半々です。当社はこれまで、主に家庭向けを扱ってきたので、業務用の分野を開拓したい。つまり、レストランや中食向けの商品を展開したい。ただし、生産ノウハウが十分にありませんので、世界最先端の会社と提携しようということで、コッパート・クレス社と提携しました。

 コッパート・クレス社とは、クロスライセンス契約を交わしています。彼らはオランダをはじめ欧州で、主に高級レストラン向けにさまざまなマイクロ・ベジタブルを生産販売しています。一方、B2Cビジネスのノウハウはない。そこで、互いのノウハウを提供し合うことにしたんです。

片山 提携後、ビジネスはうまく進んでいますか。

村上 14年に、山梨北杜生産センターで新商品の生産を開始する予定でしたが、雪害で生産センターが大きな被害を受け、計画が1年遅れました。今年1月から、「オイスターリーフ」という牡蠣の風味のする葉の出荷をスタートしています。今夏をめどに、一気に成長させる考えです。

片山 村上農園は、森の香りがする葉っぱとか、チョコレート味の葉っぱとか、変な葉っぱをたくさん研究されていますよね。まずはオイスターリーフで先陣を切るというわけですね。新市場創出を狙うわけですが、変わった味や色形をした葉っぱの市場は、拡大しますか。

村上 ええ、拡大します。ヨーロッパのトップから中級以上のレストランでは、今、伝統的な料理を抜け出し、フュージョン、すなわち融合した新しい料理を出すお店が増えています。これは世界的な潮流になりつつあり、日本もその流れのなかにある。

 たとえば、フランスの有名レストランは保守的でしたが、近年、スペインなどから新しいシェフが出てきて脚光を浴びています。赤、黄、紫など色合いの美しい食材を使い、盛り付けによってお皿をデザインしたり、新しい味や食感を求めている。コッパート・クレス社は、この流れに乗って成長しています。

片山 国内でも、レストランの料理の「インスタ映え」をはじめ、「美しく見せる」ことを重視する傾向は、確かに感じます。もともと、日本はシソや紅タデといったツマモノや季節の花で皿を飾る文化があります。コッパート・クレス社も日本のツマモノ野菜にヒントを得て、マイクロ・ベジタブルの市場を欧州で開拓しました。村上農園は紅タデにルーツを持つ会社です。可能性はありますね。

村上 そうですね。国内においても、和、洋、中すべてに使えるツマモノのような野菜を、B2Bで展開していきたい。世界中にそういう食材はたくさんありますので、それらをいかに利用するかです。コッパート・クレス社は、その点、多大なノウハウを持っている。われわれは、いわゆるタイムマシン経営のかたちで、彼らのノウハウを吸収して、日本のマーケットに供給していきます。

 現在、山梨北杜生産センターの約3分の1でオイスターリーフをはじめとする数種類の新商品を生産しています。今後は、レストランの現状や需要などを調査しながら、業務用の営業部隊を増やしていきます。オイスターリーフから始まるスペシャリテ事業を、20年に8億円にしたいですね。

●いかに海外展開するか

片山 人口減少社会にどう対応していきますか。

村上 現在2兆円の野菜の国内市場は、当面成長しません。ただし、1兆5000億円になったとしても、オリジナルの強みをもつ商品をしっかりと展開することで、売り上げ拡大を目指すのが国内ビジネスの方向です。

 一方で、海外に商品を売らないとそれ以上の成長は見込めない。国内と対照的に、世界人口は増加し、市場は拡大しますからね。ただし、海外市場へは1社で参入するつもりはない。現地の会社と組んで、われわれの生産ノウハウを提供するライセンス供与のビジネス、また、彼らからもわれわれにないノウハウを得るというかたちを考えています。

片山 コッパート・クレス社との提携が布石になりますね。

村上 その通りです。海外企業との提携は、モンゴルや中国、台湾などと話が進んでいますが、相手の国と企業があってのことなので、状況を見ながら進めていきます。
 
 海外企業との提携の橋頭保といえるのは、沖縄村上農園です。13年7月に沖縄で、沖縄物産企業連合と合弁会社をつくり、大宜味村に植物工場を構えて豆苗とスプラウトの生産を行ってきました。設置から2年8カ月を経た昨年2月から単月黒字化しています。これがひとつのモデルとなります。

 沖縄の食文化は本土と少し違い、特有の歴史や背景がある。そのなかで、豆苗、さらにスプラウトなど高成分野菜という新たな価値を示すことで、何ができるかを考えないといけません。

片山 沖縄は亜熱帯気候ですが、夏場は台風が多いし暑すぎて葉物野菜が育ちにくいのが悩みですよね。

村上 本州から夏野菜を送るのですが、船便は時間がかかって鮮度が落ちるし、空輸は高い。新鮮な葉物野菜を安価に食べるのは難しいんです。植物工場で豆苗を現地生産すれば、新鮮かつ安価で提供できます。

片山 熱帯気候の国と条件は似ているというわけですね。豆苗やスプラウトは定着しましたか。

村上 定着し始めたので、黒字に転換したと思っています。実際に沖縄の成功を見れば、海外の企業も納得します。

片山 海外展開は、将来的にはどんなビジネスモデルを考えていますか。

村上 簡単にいえば、ライセンス供与をしながらの世界展開を考えています。さらに先のことをいえば、世界中の工場を本社で一括管理するシステムをつくりたい。今後、広島の本社に「ワールドコントロールセンター」をつくる予定です。各国の拠点をネットワークで結び、モニターを見ながら栽培データや栽培状況をリアルタイムで共有し、問題点や改善点を話し合う会議などをできるようにしたい。

 もっというと、当社が蓄積した栽培ノウハウをAI(人工知能)化し、各国クライアントシステムの状況やニーズに応じて、当社サーバーから指示を出せるかたちにしたい。つまり、お客様に、AI化したノウハウをサービスとして提供するということです。この指示が非常に適切で、一度サービスを受けたお客様が「やみつき」になって、「契約をやめたくても止められないじゃないか」と言っていただけるような商売がいいですね(笑)。そういうビジネスモデルを展開できたらおもしろいなと思っています。

●家電のガラパゴス化に学ぶ

片山 農業ビジネスの海外展開は先例やベンチマーク先が少ない。日本企業の海外進出の歴史を見れば、製造業からは学ぶべきことがありそうですね。

村上 先日、仕事でペルーへ行きましたが、ほとんど日本の家電製品を見かけず、韓国、中国製品の勢いがすごい。アメリカも同じです。家電のガラパゴス化の教訓としては、国内で売れるものではなく、各国の市場に求められる商品を提供していかないといけないと思っています。スマートフォンにも学ばないといけない。プラットフォーマーが利益を確保し、アジアが下請けや組立工場となっています。

 われわれは、製造業が過去に歩んできた道から学び、その良さを取り入れつつ、問題点から学んで成長戦略を描いていかなくてはいけません。

片山 社員に世界を意識させることも重要ですね。

村上 16年から、世界一の栽培技術を目ざす「ワールド・ワン・プロジェクト」を開始しました。栽培段階を複数のステップに分け、その下にさらに複数のプロジェクトを設けて取り組んでいます。豆苗やかいわれ大根、スプラウトなど全商品について、全センターのメンバーがそれぞれのプロジェクトに入っています。

 栽培技術の向上は、従来は対症療法的な試みでしたが、「ワールド・ワン・プロジェクト」は、より根本的な取り組みです。いかに育てるかだけではなく、どの種(タネ)をどう使うかというレベルから取り組んでいる。

片山 具体的にはどういうことですか。

村上 たとえば豆苗は、豆苗という野菜ではなく、エンドウ豆の苗の集合体です。集合体が均一でないと商品としては失格です。「多少の長い短いは仕方ない」は通用しない。均一になる条件を揃えようということです。

 ひとつは、生育の均一な種をつくる。それでもばらつきは出ますから、次に生育の早い種のグループと遅い種のグループにわける。そうすればばらつきは小さくなります。種以外にも、環境制御の点からできるだけ同じインプットを与えられる機械や環境を考える。

 10年後には、「村上農園の商品は、どこをどう切っても金太郎飴のように同じ」という状態にするのが目標です。お客様に、「村上農園の商品は、なぜか知らないがいつも一緒」と思われる状況をつくりたい。

 そうすれば、ライセンス供与先が契約を解除したとき、当社のサービスなしでは豆苗の品質がバラついて、誰の目にも明らかな差が出てくるわけです。「村上農園との契約を止めたからかな」などと噂されたりして、やっぱり村上農園とやりたいと思っていただけるでしょう。

片山 おもしろい。新しい農業ビジネスのかたちですね。

村上 あとは、実現に向けてがんばります。
(構成=片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家)

【村上さんの素顔】
片山 ご自分の性格を一言でお願いします。

村上 しつこい。やれるまでやる。わがまま。人のいうことを聞かない、信じない。

片山 いいですね。

村上 社員に「人のいうことを信じるな」というと、それはあまりにひどいといわれるので、最近は「人のいうことを鵜呑みにするな」と、表現を変えています。

片山 行ってみたい場所はありますか。

村上 アフリカ大陸に行きたいです。南アフリカ、ジンバブエあたりですね。新しい野菜を探しに、未知の領域に行きたいのです。