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炭素原子が単層で広がる特殊な形状をした「グラフェン」は、半導体材料や触媒、蓄電端末などさまざまな分野での利用が期待されている物質です。このグラフェンの酸化膜を使って「海水を淡水化する薄膜」として利用できる可能性がイギリスの研究者によって示されています。

Tunable sieving of ions using graphene oxide membranes : Nature Nanotechnology : Nature Research

http://www.nature.com/nnano/journal/vaop/ncurrent/full/nnano.2017.21.html

Graphene-based sieve turns seawater into drinking water - BBC News

http://www.bbc.com/news/science-environment-39482342

単層のグラフェン自体を濾過膜として使おうとすると、六角形の穴が小さすぎるため水分子が通過できる小さな穴を均一に開けることが求められますが、これは技術的に困難です。そこで、マンチェスター大学のラウル・ネール教授らの研究チームは、グラフェンに酸素原子を組み込んだグラフェン酸化物を使って穴のサイズを大きくした上で、塩化ナトリウムなどの大きな分子は通れず、水分子のみが通れるように穴のサイズを調整する方法を研究しています。



一般的な塩(えん)は水に溶解すると水分子が周りを取り囲むように「殻」を作ります。この水分子でできた殻のおかげで、水分子単独では通過できるものの、水分子の殻に覆われた塩が通過できないサイズの穴を作り出せば、海水から塩を取り除けるというわけです。



ネール教授らが作るグラフェン酸化物で作った薄膜は、浸潤するとわずかに膨張するという特性があるとのこと。この薄膜をエポキシ樹脂でできた壁で挟み込むことで、グラフェン酸化物の膨張の程度を調整できるそうです。しかも、グラフェンを大量に生産する方法はまだ見つかっていないのに対して、このグラフェン酸化物は溶液から薄膜を簡単に作ることができるとのこと。グラフェンを安価に大量生産する方法はいまだに確立されていないため単層グラフェンは非常に高価ですが、ネール教授らの作るグラフェン酸化物は単層グラフェンに対して、大量生産技術が簡単であり材料コストの面でも利点があるとネール教授は考えています。

ネール教授によると、水分子の大きさに近い1ナノメートルの穴を持つ多孔質なグラフェン酸化物の薄膜を作れれば圧力をかけることで小さな水分子だけを移動させられるので、層状にして海水から水を取り出す濾過装置として利用できる可能性があるそうで、グラフェン酸化物を淡水化の濾過膜として使った場合の耐久性がマンチェスター大学で調査されています。

現在、海水の淡水化には一般的に樹脂材料でできた薄膜が使われています。海水淡水化装置として工業的に利用するためには、長い時間、海水に浸されても耐久性がある膜が求められます。また、汚れに対する耐性は装置内部の交換サイクルに影響し、海水淡水化装置の運用コストに関わるため重要な要素でもあります。



Pacific Northwest National Laboratoryのラム・デバナザン博士は、工業レベルで安価にグラフェンベースの酸化膜を製造するには研究すべきことは多いことは認めつつも、「薄膜の間隔を物理的にコントロールして水からイオンを選択的に分離するという方法は、淡水化のための安価な膜の合成に道を開くものです」と、マンチェスター大学の手法を高く評価しています。

国連は2025年までに世界人口の14%が水不足の危機に直面すると予想しています。また、急激な気候変動の影響で都市部でも水の供給不足が起こる可能性があり、近代国家と言えども海水の淡水化技術には大きな投資が必要です。淡水化技術では究極的には最小限のエネルギーで海水や排水から飲料水を生産することが求められており、グラフェン酸化物を使った薄膜に限らず、さまざまな技術が世界中の研究者によって研究・開発されています。