福田正博 フォーメーション進化論

 ロシアW杯アジア最終予選の後半戦が幕を開け、日本代表はアウェーでのUAE戦を2-0で勝利し、続くホームのタイ戦も4-0と快勝して2連勝を決めた。これで勝ち点は「16」となり、同じ勝ち点のサウジアラビアを得失点差で上回ってグループ首位に立った。


UAE、タイとの2連戦で2ゴール3アシストと活躍した久保裕也 今回の代表戦2試合は、直前のリーグ戦で長谷部誠が全治8週間から10週間という大ケガを負ったことで、キャプテン不在の影響が懸念されていた。だが、蓋を開けてみれば2試合で6得点、守備陣も無失点で乗り切り、W杯出場に向けて大きく前進した。

 この結果を呼び込むことができたのは、今野泰幸の存在が大きい。今シーズンのJリーグ開幕から、ガンバ大阪で高いパフォーマンスを発揮していた34歳は、2015年5月以来となる1年10カ月ぶりの代表招集。当初は「何ができるか分からない」と冗談まじりに言っていたが、短期間でハリルホジッチ監督の戦い方を理解し、実戦して見せた。

 長谷部の代わりに先発出場したUAE戦では、日本代表歴代10番目の出場数(88試合)を誇るベテランらしい経験値と、1対1の守備の強さやハードワークで攻守にわたって躍動した。今野自身も1ゴールを決め、日本代表の勝利の原動力になった。

 この試合で今野が起用されたポジションはインサイドハーフ。4-3-3の中盤で、ボランチの山口蛍の前で、香川と横並びに位置した。今野は持ち味の守備に比重を置き、まずはしっかりと前に向かって相手の攻撃を潰す。そしてボールを奪うなりパスを出して、その勢いに乗って相手ゴール前に攻め込んだことが、攻撃陣の活性化につながった。

 これまでの4-2-3-1ではなく、2人のインサイドハーフを置いて攻撃を組み立てたことで、「このポジションに今野ではなく清武を起用して、香川と組み合わせてもよかったのでは」という意見がある。確かに、攻撃力を特長とする清武と香川が共存できれば、ふたりの息の合ったパスワークからチャンスが生まれたかもしれない。

 だが、香川と清武をスタメンで使うことは、攻撃の比重が重くなる分、失点のリスクも高まる。勝ち点1差の中に4チームがひしめき、UAE戦に敗れるとW杯出場権争いで後れを取ることになる状況下で、その選択をすることがベストだったとは思えない。今野が中盤でしっかりと守備をし、相手の攻撃の芽を摘んだからこそ、UAE戦は2-0で勝利できたといえる。

 一方で、攻撃陣で抜群の働きを見せたのが23歳の久保裕也だ。代表初先発となった昨年11月のサウジアラビア戦は、試合中に負ったケガの影響もあって本領を発揮できずにピッチを去ったが、今回の2試合では2ゴール3アシスト。日本代表の全6得点のほぼすべてに絡む活躍で、今年1月末に移籍したベルギーリーグのヘントで7試合5ゴールを挙げる好調ぶりを代表でも示してくれた。

 彼のよさは、プレーの決断が速いことにある。ボールを受けてから、どういったプレーをするかに迷いがない。ゴールを狙える場所でボールを受けたら、最初の選択肢がシュートで、無理ならパス。サイドで受けたらクロス。そういったシンプルな考えが、彼のプレーからは伝わってくる。実際に、タイ戦後に本人に聞いてみたところ、「シンプルなプレーを心がけている」という答えが返ってきた。

 チームメイトも久保の次のプレーを予測しやすいため、フォローやサポートに動きやすいというメリットがある。クラブチームと違い、一緒に活動できる時間が限られる代表チームでは、久保のように新たに招集された選手が周囲と連携を深める時間は短い。そのため、久保がわかりやすいプレーをすることで周囲が動きやすくなり、チームにいい連動性が生まれた。

 代表歴の浅い選手は、シンプルに自分の持ち味を出すことが大切だ。日本の若い選手は、ソツなくこなそうとする傾向が強く、あれもこれもやろうとする。その結果、一番の持ち味を発揮できずに代表を去るケースが多い。

 だが、ソツなくこなすのはベテランや豊富な経験を持つ選手の役割であって、若い選手の最大の強みは、思いきりのよさや、「代表で成功したい」という野心がもたらす怖いもの知らずなプレーにある。久保のプレーはまさにそれだった。

 また、久保が代表でのチャンスをモノにしたことは、チームの年齢構成を考えても大きな意義がある。代表チームの主力となるべきなのは、26歳から28歳の選手。フィジカル、技術、経験が揃い、脂が乗っているこの年齢層の選手が6人前後を占め、ここにベテランと若手が2〜3人ずつが加わるのが理想的だ。ブラジルW杯優勝のドイツ代表などは、ある程度意図的にこの年齢構成にしている。実際、シュバインシュタイガーや神戸に移籍するポドルスキが31歳でドイツ代表を引退することで、次のW杯で主力となるべき若い選手たちが国際大会での過酷な戦いを経験できている。

 日本代表の場合、世代交代の遅れは長らく指摘されてきたことだが、代表のスタメンの座は実力で勝ち取るものであって、ただ若い選手を登用すればいいわけではない。先輩たちを上回る若手がなかなか出てこなかったが、昨年、W杯アジア最終予選を戦う中で「ロンドン世代」の原口元気や清武らが頭角を現し、ここにきてさらに下の「リオ世代」の久保が活躍したことで、ようやく日本代表の新陳代謝が活性化してきた。

 現在の日本代表で27歳前後のロンドン世代は原口や清武、大迫勇也、山口蛍、酒井高徳、酒井宏樹が主力になりつつある。30歳前後の北京世代である本田圭佑、岡崎慎司、長友佑都、吉田麻也、森重真人や、さらにその上の長谷部誠や今野泰幸といったベテランの力も健在だが、日本代表は理想的な年齢バランスに一歩近づいたといえる。

 今回の2連戦で23歳の久保が結果を残したことで、日本代表はさらに理想のバランスに近づくだろう。彼の活躍が、今回の代表戦でベンチを温めた植田直通や遠藤航らリオ世代の選手たちに刺激を与えたことは間違いない。

 現在の日本代表にとって、至上命題は6大会連続のW杯出場権を手にすることだが、それはあくまでも通過点。W杯でグループリーグを突破するには、チーム力をさらに上げなくてはならない。それを担うのは若い世代だ。3月ラウンドは久保の活躍が推進力となって2連勝となったが、W杯アジア予選の厳しい戦いはまだまだ続く。久保に続く新たな若手が現れることを期待している。

■サッカー代表記事一覧>>