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●天気予報に本気で取り組むIBM
日本IBMは「The Weather Campany Japan」を設立し、同社のコグニティブコンピューティングプラットフォーム「Watson」を活用した気象予測サービスを開始する。IBMと天気予報という、一見何の接点も持たないような要素の接点は何で、Watsonとの相性はどのようなものになるのだろうか。

○IBMが気象予測ビジネスに見せる「本気」

天気予報というと、一般人の視点ではニュース番組の途中に数分挟まる程度のもの、という印象が強いが、一方で農業・漁業や観光、運輸、アパレル、エンタテインメントなど、中長期の天候が大きく業績に関わってくる業種も多い。

世界初のデリバティブ取引(オプション取引)は、古代ギリシャの七賢人の一人・タレースに遡れるというが、タレースは天文学を駆使してオリーブの豊作を予知し、絞り機を買い占めておいて他の人に高く貸すことで大儲けしたという。このように、正確な気象予測は商業上の大きな武器になりうるのだ。

正確な気象予測には莫大な観測データが必要になるが、一部の気象予測ビジネスを展開する企業を除けば、IT業界の多くはこうしたデータを持っていない。現在ならスマートフォンなどを使って気温や気圧などのデータをリアルタイムに近いかたちで獲得することも可能だが、ユーザーとの接点が最も大きいと思われるFacebookやGoogleにしても、世界を網羅するには至っていない。

そこで米IBM本社は一昨年10月、気象予測会社「The Weather Company」を買収。世界最大規模の天候データを手に入れている。買収の目的はズバリ、自社サービスに正確な気象予測データを加えて提供するためだ。

日本でも、日本IBM内部に「The Weather Company Japan」としてアジア・パシフィック地域(APAC)の気象予報センターを設立。APAC全体の気象データを統括して解析と予報にあたる。この気象予報は日本の気象庁から正式に認可を受けてのサービスであり、気象予報士の資格を持ったメンバーが含まれており、24時間体制で解析を行っている。単にすでに実績のある企業を買収して任せるだけではなく、本気でこのビジネスに投資している、という印象だ。

●ワトソン事業部がなぜ統括?
○気象予測に人工知能はどこまで役に立つのか

気象予測は天候の観測データを元にするものの、最終的には予報士による勘や経験に頼る部分が多いシステムだ。もちろん、観測データを広く深く積み上げていけば予測精度が高まるはずなのだが、狭い地域の予測であっても、地球の裏側の海水温の上下までも考慮しなければならないとなると、人間の手に余るものがある。

近年急速に成長しつつある人工知能(AI)とディープラーニングなどの新しい解析手法は、人が処理しきれない莫大なデータを効率良く処理し、これまで気づかれなかった新しいパターンの発見につながる点で大いに注目されているが、残念ながらまだAIを使った気象予測を実施している企業はほとんど知られていない。

そういう視点から、現在世界のAI業界を牽引する企業の一つであるIBMが気象予測という分野に参入してくるのは自然な流れでもあり、また大きな一歩だともいえるだろう。IBM自身は、機械学習による気象予測システム「Deep Thunder」を導入済みではあるが、これに加えてWatsonによってデータを解析し、3カ月程度先(中長期予測)の正確な予想を作成するという。

○ワトソン事業部がシステムを統括

実はこの気象予測ビジネス全体は、日本IBM内ではワトソン事業部の管轄下に置かれる。なぜ、ワトソン事業部がこのシステムを統括するのだろうか。

もちろんWatson自体の予測精度自体にも興味は集まるが、IBM自身はそれよりも、Watsonの開発で培ったノウハウを生かして、ユーザーごとに必要な形にデータを加工し、ユーザーニーズに合った予測を可能にすることを目指しているという。

また、気象予報センター内での予報官の意思決定にもWatsonの能力が生かされるだろう。Watsonが気象予測自体の精度を高めるだけでなく、その結果を利用してさまざまなビジネスに特化した形で出力できるのだから、二度美味しいということになる。

●IBMが目指す21世紀型資源メジャー
気象予測サービスの第一弾として、航空業界、電力業界、メディア業界などに特化したデータ分析と活用ソリューションをまとめた「The Weather Companyデータ・パッケージ」の提供が開始され、分析結果を踏まえて顧客に対するコンサルティングも実施される。

また、それ以外の顧客に対しては、要件に応じて気象予測データの活用を支援し、IBMクラウドを利用したSaaS型のソリューション構築サービスを提供するという。ユーザーが求めているのはレアなデータではなく使いやすい形に分析・整形されたものであり、それを提供する上でワトソン事業部が統括するというのは当然というわけだ。

米IBMのジニ・ロメッティーCEOは天候予測事業の発表に際し、「データは21世紀の新たな天然資源である」というメッセージを送っていたが、まさにIBMはWatsonを使い、データの収集から精製、そしてその正しい使い方の指南までを一手に担う、21世紀型の資源メジャーの座を狙っているということなのだろう。

今回は気象予測という分野だったが、これだけでも今後、世界中で金融や医療、農業、情報技術など各分野において非常に大きな(一説には数十兆円規模の)市場価値があるとみられている。IBMはここで十分に経験値を蓄え、次なる鉱脈の攻略へと発展させていくことになるだろう。今後も思わぬ分野での大規模な買収やデータ解析サービスへの参入といった発表が続くことになりそうだ。

(海老原昭)