ブンデスリーガでも結果を残す日本代表FW大迫勇也【写真:Getty Images】

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中村俊輔専属トレーナーの新盛氏が、UAE戦で痛めた大迫の負傷箇所を解説

 日本代表FW大迫勇也(ケルン)は、今季持ち味である巧みなポストプレーに磨きをかけ、ブンデスリーガで6得点7アシストと結果も残すなど好調ケルンをけん引。日本代表でもバヒド・ハリルホジッチ監督の信頼を手に入れ、レスターFW岡崎慎司から1トップのレギュラーの座を奪うほど台頭している。

 だが、3月23日に行われたロシア・ワールドカップ(W杯)アジア最終予選の敵地UAE戦(2-0)で、前線での競り合いの際に相手DFに左ひざの裏に乗られる格好となり途中交代。帰国後に精密検査を受けた結果、「左膝関節包の負傷」と診断され、全治3から4週間の離脱と発表された。28日のタイ戦を前に代表チームから離脱したストライカーの負傷箇所は耳慣れないが、一体どのような症状なのか。また、後遺症の懸念はどれほど存在するのだろうか。ジュビロ磐田に所属する元日本代表MF中村俊輔の専属トレーナーを務める、入船しんもり鍼灸整骨院の新盛淳司院長が解説してくれた。

「関節包とは、簡単に言えば靭帯や筋肉とともに膝を補強している組織のことです。関節を包む組織で2層から形成されています。外側が線維層で、関節包靭帯と言われることもあります。やや固めの組織で、関節を強固にしたり、衝撃を吸収する役目などがあります。

 内側は、滑膜という組織から成り、関節液を分泌して関節の動きを滑らかにする役割を果たします。軟骨や靭帯などの部分に栄養を与えて、老廃物の代謝などに関与すると言われています。サッカー選手でも膝に古傷を持つ選手は、よく膝に水が溜まると言いますが、炎症した滑膜から多量の関節液が出た状態を指すことが多い。膝だけでなく、肩や股関節にもあります」

新盛院長は関節包についてこう説明すると、大迫の負傷箇所について具体的な考察を始めた。

リハビリを急ぎ過ぎると、膝に慢性的に“水が溜まる”可能性が…

「大迫選手の場合、負傷したシーンを見ると膝後方の関節包の損傷が予想されます。特に後外側には、膝外側構成体(PLC)という、膝の安定性に寄与する部分があり、近年注目されている怪我の一つです。PLCは外側側副靭帯(LCL)、膝窩筋腱複合体(PTC)、弓状靭帯複合体から構成されていて、大迫選手は靭帯も痛めたと発言していたので、このうちのいずれかの靭帯も痛めているのではないでしょうか」と、膝の安定性を左右する靭帯にダメージが及んだ可能性を指摘している。

「膝外側構成体損傷は、組織が複雑に入り組んでいることもあり、MRIでは明確な鑑別がつきにくいケースがあります。徒手検査や症状などから診断されることが多い。症状には膝の痛みや腫れ、また不安定感などがあります」

 大迫の怪我の状況を分析した新盛院長は、同時に復活への道筋を急ぎ過ぎると、逆に長期化する恐れがあるという。

「治療は、まずは安静です。腫れや痛みを抑える。状態を見ながら徐々にランニングなどの運動を再開することになります。関節包の内側には滑膜があります。あまり急に動いてしまうと滑膜が炎症を起こす滑膜炎になり、膝に水が溜まります。繰り返すと水が溜まりやすい膝になり、慢性化してしまうので、特にリハビリ初期には慎重さが必要です。

 半月板や靭帯の手術を受けた選手が、早期復帰のためにリハビリを急ぎ過ぎて慢性的な滑膜炎を起こし、その後のキャリアで苦しんでいるアスリートもいます。例えば全治4週間と診察されたとしても、最初の1週と最後の1週では怪我をした組織の修復具合などで、リハビリの目的など意味合いが全く違うことを選手が理解することが重要になります」

 ブンデスリーガ終盤戦に差しかかり、ケルンは6位以上に与えられる欧州カップ戦出場権の獲得を目指して激しい争いを繰り広げているが、今季アントニー・モデストと好連携を築く大迫への依存度は高くなっている。そのため苦しいチーム状況から復帰を焦り、リハビリの強度を高め過ぎると、膝に水が慢性的に溜まるリスクが高まるという。

負傷の裏側に潜む、海外組にのしかかる心身両面での負担

「大迫選手の場合、当初は打撲と診断されていました。甚大な靭帯の損傷があったわけではないと分析できるので、重大な後遺症はないと思われます。ただ、関節の緩さなどの症状が残存した場合は、復帰が遅れることも考えられます」

 新盛院長は慎重にリハビリをこなせば、後遺症のリスクは少ないと分析している。そして今回の故障の遠因となる、海外組の見えない心身両面での負担の重さも指摘している。

「大迫選手の離脱は本人や所属チーム、日本代表にとって痛手であることは間違いありませんが、海外でプレーする選手の見えない負担は並々ならぬものがあります。欧州から日本やアジアへ移動して試合を行うことは、選手の身体やメンタルに想像以上の負担がかかっていることは、もっと理解されなければいけないと思います。

 中村俊輔選手もセルティック時代には、週末にスコットランドでリーグ戦を戦い、そのまま飛行機を乗り継ぎ、12時間以上のフライトの後に日本代表のゲームに出ていました。試合2日前に到着して代表戦を戦い、翌日に朝一番の飛行機で渡英というのが当時のルーティーン。グラスゴー空港に到着した2日後にスコットランドリーグというハードなスケジュールをこなすと、相当な疲労が自然と蓄積していきました。

 私自身は中村選手のコンディション維持のために、当時からサポートさせていただいています。日本人選手の海外移籍の頻度は現在さらに増えていますが、日本サッカー界と日本代表強化のためには、海外リーグ所属選手の休養という部分に今まで以上に気を遣う必要があると思います。大迫選手にはリハビリ期間を経て心身ともにリフレッシュし、活躍する姿を見せてほしいと願っています」

 新盛院長は日本代表強化のために、海外組の負担軽減に向けた新たな施策を打ち出すべきと提言していた。

◇新盛淳司(しんもり・じゅんじ)【新浦安しんもり整骨院入船院】【新浦安しんもり整骨院今川院】【クローバー鍼灸整骨院】代表。柔道整復師、鍼灸師の資格を持ち、関節ニュートラル整体普及協会会員。サッカー元日本代表MF中村俊輔をセルティック時代から支える。ブリオベッカ浦安チーフトレーナーも務める。