北朝鮮を支持する民族団体、在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)は1日、機関紙である朝鮮新報を通じ、北朝鮮とマレーシア両国政府が3月30日に共同声明を発表したのを受けて、クアラルンプール国際空港で起きた金正男(キム・ジョンナム)氏殺害事件に「朝鮮側が何の関わりもなかったことが確認されている」との認識を明らかにした。

朝鮮新報は日本で発行されており、スタッフは全員、日本の生まれ育ちである。しかし、その編集権は朝鮮総連により掌握されており、朝鮮総連の人事権は北朝鮮本国が握っている。

父親は極秘裏にやった

だから韓国メディアなどは、朝鮮新報の論調をもって「北朝鮮の主張」として伝えるのが常だ。

事実そうなのだが、日本で発行されている媒体であるだけに、本国メディアのような一本調子の主張でごり押ししたら朝鮮総連の会員からも敬遠されてしまう。そこで、日本など各国メディアの報道の変遷をくみ取り、客観性を装って我田引水の論調を作るのが特徴だ。たとえば、前述の記事には次のようなくだりがある。

「当初、マレーシア外務省と病院側は、朝鮮の外交旅券所持者が空港で心臓麻痺倒れ(原文ママ)病院への移送中、自然死のように亡くなったと朝鮮大使館に通報した。ところが、その日の夜、南朝鮮の保守メディアが『政府消息筋』によるものとして『北工作員』による別の名前の人物の『毒殺』について報道した。マレーシアの警察はこれを既成事実化し、ウィーン条約に基づく治外法権の対象である外交旅券所持者の遺体解剖を強行した」

たしかに、このように整理し得る流れがなくはなかった。だが、どうにも苦しい点がひとつある。死亡した(殺された)のはあくまで旅券名義のキム・チョルなる男性であり、金正男氏は「別の名前の人物」としている部分だ。

死亡したのが正男氏でないと言いたいのなら、「別人」と書けば済むことだ。そう書けないのは、「死んだ人は金正男ではない」と言い切るのがはばかられるからだろう。

ちなみに、朝鮮新報が同事件の呼称として用いているのは「クアラルンプール事件」であり、複数ある解説記事の中に、「死んだのは金正男ではない」と言い切っているものは一本もない。

ではなぜ、そのように言い切るのがはばかられるのか。それは朝鮮総連の中に、正男氏のことを直接知る人物が相当数、いるためだ。機関紙といえども、「臆面もなくウソを書く」と身内から思われては、やっていけないのだろう。

そもそも、北朝鮮の金正恩党委員長は、異母兄である正男氏殺害の黒幕が自分たちであることを、本当の意味で隠そうとしているのだろうか。本当に隠そうと思えば、父親がやったように極秘裏に暗殺させることも可能だったはずだ。

(参考記事:「喜び組」を暴露され激怒 「身内殺し」に手を染めた北朝鮮の独裁者

いや、むしろその方がずっと簡単だったのではないか。衆人環視の中で実行された正男氏殺害は、正恩氏が恐怖政治を維持するために多用している「公開処刑」と同じであると筆者は見ている。

一説に、正男氏殺害は5年も前から計画されていたと言われる。それなのにこれほど時間がかかったのは、国際空港のような監視カメラだらけの、世界中に開かれた場所で殺害を実行しつつ、決定的な証拠を捜査当局に渡さない高度な作戦を立案するためだったのではないか。

ともあれ、本国の最高指導者が世界に見せつけるためにやったことを、日本の出先機関が否定するというのも奇妙なものだ。そんなことをするよりも、朝鮮新報には、筆者や日本メディアにも想像の及ばない、正恩氏の心の深奥について解説してもらいたいものだ。