全ての生物の設計図である遺伝子を自由に組み換える方法を手に入れた人類は、まさに「神の領域」に踏み込んで、「遺伝子組み換え作物」のように耕作に好ましい農作物を生みだしてきました。そんな遺伝子組み換え技術を使うことに問題はないのか、今後はどのように活用することが期待されるのか、そんなことを問うムービーが、さまざまな問題を解説する「Kurzgesagt - In a Nutshell」によって公開されています。

Are GMOs Good or Bad? Genetic Engineering & Our Food - YouTube

作物や家畜など全般を含む「遺伝子組み換え生物」を意味する「GMO」に関して、科学的な議論が巻き起こっています。



しかし、この種の問題は医学の分野では容認されることが多いのに対し、食物に関することとなると途端に否定する見方が強くなるのはなぜなのでしょうか。



・自然とは何か?



人類はこれまでの歴史の中で、作物を育て、食糧にする生活を営んできました。そしてその中には、より生育に優れた品種を生みだす改良が行われてきました。



例えば、それぞれ異なった利点を持つ2つの苗を交配して、より多くの作物を収穫できる品種改良がこれにあたります。



人類の農耕の歴史には、このような品種改良が深く関わっています。より多くの作物を求めて改良を繰り返すことで、人類はより生存に適した環境を作り上げてきたといえます。



数千年にわたる世代の移り変わりの中で、もはや過去と全く同じ状態の作物や家畜は存在しないといっても過言ではありません。



品種どうしを掛け合わせる交配を行って新しい品種を作りだしてきたことと……



遺伝子を操作して新しい品種を誕生させることは、何が違うことになるのでしょうか?



従来の手法では、多くの品種を作りだして性能の良いものだけを残してきましたが……



遺伝子組み換え作物は、狙った利点を遺伝子を組み換えることで発現させることが可能なのです。



「遺伝子組み換え作物は悪いことなのか?」



遺伝子組み換え作物を巡っては、反対意見と賛成意見が真っ向から対立している状況。まずは否定派の考えから見てみましょう。



否定派が懸念していることの1つが、遺伝子を組み換えた作物と、そうでない作物が何らかの形で交配してしまうことで、予期しなかった性質を持つ品種が生まれてしまう可能性があるという問題です。



しかし、この問題は「ターミネーター種子」を用いることで回避が可能。ターミネーター種子は生殖能力を奪われた種子であるため、例え交配が起こったとしても、その種子からは発芽しないという性質があります。



一方で、このターミネーター種子を使ってしまうと、農家は毎年新しい種を種苗会社から購入する必要があります。そのため農家からの猛烈な反対を受けており、普及しているとはいえない状況です。



また、遺伝子組み換え作物が風に乗るなどして、意図していない場所で成長していたというケースも過去にはみられました。



しかし、植物が何世代にもわたって生きながらえるためには、一定の数が集まっている必要があります。



また、このような事態が起こらないようするため、「バッファーゾーン(間衝地帯)」を設けて隔離された環境を作ることで、物理的にほかの地域へ伝播しないようにする方法もあるとのこと。



ここで1つの疑問が起こります。もし、遺伝子組み換え作物とそうでない作物が特に問題もなく交配できるということになると……



それら2つの品種から生まれた食物には、どのような違いが存在しているのでしょうか?



食物用に改良された遺伝子組み換え作物は、考え得る危険物の検査が行われており、複数の機関によって評価がなされています。



その結果、遺伝子組み換え作物に存在する食のリスクは、非・遺伝子組み換え作物と同等のレベルであることが結論づけられているとのこと。



では逆に、毒性を持たせるために改良された品種に関してはどうなるでしょうか?



遺伝子組み換え作物の中には、農作物に被害を及ぼす害虫にのみ毒性を発揮する性質を持つように改良された品種が存在しています。



この品種は害虫抵抗性作物または「BT作物」と呼ばれており、この作物を害虫が食べると……



体の中で、ほかの生物では起こらない反応が起こり……



体の組織を破壊して殺虫作用を発揮するようになっています。



「人体に影響はない」とはいうものの、やはり心配が完全に消え去るわけではありません。殺虫剤などの農薬であれば、収穫後に洗浄することでほとんど除去してしまうことが可能ですが……



遺伝子そのものに特性が組み込まれているBT作物の場合、いくら外から洗浄を行ってもその能力が除去されることはありません。



しかしやはり心配は無用とのこと。これは、特定の生物にのみ攻撃力がある特長を備えているから。



例えば、人間はコーヒーを飲みますが、コーヒーの成分は昆虫などに対して強い攻撃性を発揮します。



犬にチョコレートは禁物ですが、人間はチョコレートを味わって食べることができます。



BT作物は、「BTたんぱく質」と呼ばれる特定のタンパク質が、昆虫の消化器系で消化されることで毒性を生みだし、攻撃性を発揮します。人間の体内ではこのBTたんぱく質に毒性を発揮させる反応がないために、いくら食べても問題は生じないというわけです。



この性質を逆に活かすパターンも。遺伝子を操作することで除草剤の成分に耐性を持つ品種を生みだして、生育時に除草剤の働きを最大限に高めることが可能になります。



しかし、これによって大きな利益を生んでいる業界も存在しています。



アメリカで栽培されている商品作物の90パーセントは、除草剤に耐性を持つ品種となっています。そのため、除草剤を販売する企業は巨額の利益を上げるに至っているのです。



除草剤は人体に対する影響が少ないので、必ずしも悪いものではありません。しかし、農家は特定の種類の栽培方法に依存してしまうために、農業のやり方そのものに対する疑問を投げかける声も存在しています。



このような手法が取り入れられることで、農業の在り方が「ビジネス」そのものになっているという批判が投げかけられています。



我々は、農業をサスティナブル(持続可能)なものにする必要があります。遺伝子組み換え作物は、環境に与える影響を少なくしながら、自然を守る試みの手助けとなる可能性があります。



遺伝子組み換え作物のメリット



ここで遺伝子組み換え作物のよい面を見てみます。バングラデシュでは、ナスは多くの利益を上げる貴重な農作物です。



しかし、疫病によって農作物が被害を受ける事態がたびたび発生していました。そのたびに殺虫剤などを散布するのですが、薬剤が高価で簡単には買えないうえに、農家が健康を害するという事態が起こってきました。



しかしそんな事態を一変させたのが、2013年に持ち込まれた遺伝子組み換えナスでした。



前述のBT作物と同じはたらきを持つこのナスは、害虫の被害を受けることが激減し……



殺虫剤の使用を80%削減しました。



そして農家の健康状態も改善され、収入が劇的に増加したのです。



また、遺伝子組み換え作物が唯一の選択肢となるケースも存在してきました。そんな一例が、ハワイで起こっています。



1990年代、ハワイのパパイヤは「輪点ウイルス」と呼ばれる疫病に冒され、ハワイのパパイヤがまるごと全滅するという危機に見舞われました。



唯一の解決策が、遺伝子組み換えを行ったパパイヤだった、というわけです。



このおかげで、ハワイのパパイヤ産業は全滅の危機から脱し、回復したという歴史があります。



・遺伝子組み換え作物の将来は



ここまでに語られたものは、遺伝子組み換え作物に関するほんの限られた一例です。



遺伝子組み換え作物の99%は殺虫剤に関するものです。



しかし、今後は人間の食生活を改善する遺伝子組み換え作物の開発も期待されているとのこと。



抗酸化成分を多く含む「ムラサキトマト」や……



βカロチンを多く含む「黄金の米」などの登場が、その一例。



さらに、気候変動にも耐える遺伝子組み換え作物の研究も進められています。



また、環境によい影響を発揮する特性を持つ作物の研究も進められています。大気中の窒素を多く吸収する植物がその一例。



作物に与えられる肥料の主成分は窒素ですが、多く与えられた窒素は水源を汚染し気候変動の原因にもなるとのこと。



そこで、大気中の窒素を自分で吸収して栄養にするという作物が誕生すると、「2つの問題」を一度に解決することが可能。



その問題とは、先進国における肥料の使いすぎと、発展途上国における肥料の不足問題です。



さらに、「アメリカグリ」の木のように、大気中の二酸化炭素を多く吸収することで温室効果ガスを吸着し、温暖化問題を解決に向かわせる遺伝子組み換え作物の登場も期待されています。



・結論



人口が増え続ける地球では今後、食糧危機が訪れると予測されています。



足りない食糧を確保するために、人間は自然を壊し、農地に変えて耕作や畜産を行うことになるでしょう。そしてそこには多くの肥料や薬剤が使われます。



もうひとつの方法は、遺伝子組み換え作物を用いることで農業の効率を上げるというもの。



遺伝子組み換え作物は、農業の在り方を変えると同時に、人間が行っている自然に対する無責任な行動の影響を抑える可能性があります。



遺伝子組み換え作物は、地球という生態系を守る最も強力な武器になるかもしれない、というのが Kurzgesagt - In a Nutshellの結論というわけです。