記者会見する東芝の綱川智社長〔PHOTO〕GettyImages

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この会社の経営陣はもはや死に体。マネジメントもできない会社の末路は破綻が筋だが、事をそう簡単に運べない「大人の事情」もあった。判断に苦慮していた巨大銀行が、ついに決断を下す――。

■國部頭取が語った「不信感」

「メインバンクとして大変残念に思っている」

3月16日、東京・大手町の朝日生命大手町ビル。

この日、全国銀行協会会長としての任期を終える最後の会見に臨んでいた三井住友銀行の國部毅頭取は、記者から「東芝問題」について問われると、率直な胸の内を明かし始めた。

「東芝という個別取引先に関することなので、コメントは差し控えるべきだと思うが、少しコメントをさせていただく」

全銀協会長の会見で、個別企業の案件について言及するのは異例のこと。それでも國部頭取はみずからこう切り出すと、続けて、辛辣な言葉を投げかけていった。

「各ステークホルダーの不信感を払拭できない状況が長期化している」

中でも、國部頭取が問題視したのは、東芝が決算発表を2度も延期する事態に陥っていること。記者から「東芝側の説明に納得されているか」と聞かれると、

「1日も早く決算を公表していただきたい」「信頼回復にぜひ努めていただきたい」

と、東芝経営陣に釘をさすかのように、怒りをぶちまけたのである。

三井住友銀行は東芝に巨額を貸し出すメインバンクの筆頭。そのトップが表立って「東芝批判」をしたのだから、ただ事ではない。

銀行は東芝を見捨てる――。実際この頃から、そんな不気味な観測があちこちから聞こえるようになっていた。

「この会見の前日にも、ある『事件』が起きたばかりでした。取引行が、東芝サイドに怒りをぶつけるひと悶着があった」

そう明かすのは、東芝に融資するある金融機関の幹部である。

「現場となったのは、東芝が関係金融機関を集めて開催したバンクミーティング。この日は東芝サイドから決算延期の理由などが説明されたうえ、融資継続のお願いがされたのですが、ここで一部銀行から不満が噴出したのです。

融資団の中でも『付き合い行』と言われる下位行は東芝の内部情報がとれておらず、メディアで次々に新情報が出てくる事態にいら立ちがピークに達していたようで、参加者からは『どうなっているんだ』などと声が漏れた。

取り引きしている金融機関の中には、東芝が開く記者会見に『潜入』してまで情報を取っているところもある。実際、ある取引先が会見に行ってみたところ、東芝の綱川智社長がフリーアナウンサーの膳場貴子氏に言いこめられているのを目の当たりにして、『この会社の経営陣は本当に終わっている』と頭を抱えていた」

晴れの日には傘を貸し、雨が降ったら取り上げる――。銀行融資の残酷な実態はしばしばそう語られるが、もはや雨を通り越して、土砂降りの雷雨にさらされている東芝にいたっては、言わずもがな。銀行からすれば、取り上げた傘で横っ面をはたきたい気持ちになっているのだ。

前出・幹部が続ける。

「関係者の間で注目されているのは、三菱グループの動きです。三菱東京UFJ銀行は東芝に1000億円以上を融資しているのですが、小山田隆頭取は東芝への態度表明をしていない。

しかも、不気味なのが、同じ三菱グループのモルガン・スタンレーMUFG証券が東芝株の空売りを仕掛けていること。昨年末に東芝問題が明るみに出た直後から空売りをし、直近でも空売り残高を維持している。

三菱が『東芝切り』を表明した途端、銀行団は我先にと逃げ出すでしょう。東芝はあっという間に資金繰りが追い込まれ、万事休すです」

そんな最悪のシナリオがいつ現実化してもおかしくない。

■トリガーを引けるのか

ところが、実はいま主力行を中心とした巨大銀行団はそれとはまったく逆、水面下ではむしろ「東芝をなんとしてでも助ける」という救済策を捻り出そうとしていることはあまり知られていない。

見てきたように、銀行は東芝経営陣に対して怒りが煮えたぎり、切り捨てたいと思っているにもかかわらず「救う」とは本末転倒だが、その背景にはまた別の深刻な事情がある。

主力行幹部が言う。

記者会見する東芝の綱川智社長〔PHOTO〕GettyImages

「われわれが東芝を簡単に切り捨てられないのは、東芝が抱えているインフラ事業の問題が大きくかかわっているからです。

東芝のインフラ事業はエレベーター、鉄道、道路標識など多岐にわたり、日本全国に納入されている。仮に銀行が支援をストップして東芝が破綻すれば、そうしたインフラの整備や改修などが滞るリスクが急浮上しかねないのです。

メディアではこの点についてまったく報じられませんが、その理由は想像すればわかります。全国のオフィスビルやタワーマンションでエレベーターが止まり、メンテナンスが行われなくなった鉄道区間が運休を余儀なくされ、道路標識の誤表示で交通事故が多発する……東芝が破綻すれば、そんな悪夢が起きてもおかしくないわけです」

当然、そんなことになれば日本全国がパニック状態に陥り、日本経済そのものが根っこから揺らいでしまう。そのトリガーを銀行が引いたとなれば、全国民の怒りが東芝ではなく、銀行に向くのは目に見えている。

「それだけではありません。これもメディアは表立って報じませんが、東芝は軍事企業です。防衛省に対してミサイルやレーダーなどを納入して数百億円規模の契約を国と結んでいるし、米軍などのハイテク兵器にも東芝製品が使用されてきた。

おまけに原子力事業を抱え、いまや東京電力福島第一原発の廃炉作業は東芝なくしては行えない。そんな『国策企業』の生死を金融機関の一存で決定すれば、安全保障問題に影響を与えかねない」(前出・幹部)

実は三井住友銀行の國部頭取も、前述の会見で東芝批判を繰り広げた後、それでも最後には「メインバンクとして可能な限りサポートしていく」と語っている。

東芝経営陣に言いたいことは言わせてもらうが、「大人の事情」を考えるとこんな腐った会社であっても救わざるを得ない――國部頭取の一連の発言は、そうした取引行としての苦悩と決意の表明だったわけだ。

■全国1万件の連鎖倒産

そして、三井住友銀行、みずほ銀行、三井住友信託銀行という主力3行の東芝担当者たちはいま、頻繁に会合を重ね、東芝をいかに救済していくかを議論し始めた。

内情に詳しい関係者が明かす。

「3行の担当者と東芝側の担当者は、毎日のように打ち合わせをしています。時に東芝本社に集まり、時に弁護士なども同席させたうえで、具体的かつ、法律的な見地からも問題がないような救済策を模索している。

しかも、営業部の担当者レベルだけではなく、すでに営業担当役員、審査担当役員同士も顔を突き合わせて、フル稼働している」

債務超過をいかに解消して、会社を存続させるかを東芝と一緒になって考えているのが実情。ここへきて新聞やテレビは、産業革新機構や日本政策投資銀行が東芝の半導体子会社に出資すると報じ出したが、現場レベルではさらなる「ウルトラC」の救済策も検討され出している。

前出・関係者が続ける。

「その一つが、産業革新機構が半導体子会社ではなく、東芝本体にも出資をするシナリオ。

そもそも産業革新機構の理念は、『革新性を有する事業に対して成長資金を提供する』というもの。その点、東芝本体が手掛ける廃炉技術はまさに全世界で求められる新しい革命的技術なので、革新機構からすれば出資の理由を説明しやすい。

政府系が出資をすると、『税金』を出した以上、東芝の経営に口を出しやすくなるのもメリット。特にアメリカでの原発事業については、対処を誤れば外交問題にも発展しかねないため、むしろ政府が前面に出て交渉したほうがスムーズに事が運びやすい。

おまけに国が前面に出ると地銀などの融資行にも安心感が広がるので、資金繰りにも余裕が出てくる」

実は官邸からしても、これは妙案。東芝には日本全国に1万を超える取引先があり、その多くは年商10億円にも満たない会社なので、仮に東芝が破綻すれば次は「全国1万件の連鎖倒産」すら起きかねない。

東芝社員19万人のみならず、そうした取引先、関係先に勤める従業員とその家族を路頭に迷わせれば、「なぜ政府は日本航空を助けたのに、われわれは助けてくれなかったのか」と批判の矛先が向けられる。

「しかも、東芝が多くの工場や事業所を抱える神奈川県横浜市近辺は、菅義偉官房長官のお膝元。東芝の半導体の巨大工場がある三重県四日市市も、民進党の岡田克也元代表の地元なので、与野党ともに東芝支援に反対しづらい」(経産官僚)

■小山田頭取が本誌に明かす

つまり、現在は銀行管理下にある東芝が、国家管理へと移行していく可能性も出てくる。メインバンク幹部も言う。

「国家主導での東芝救済案についても、そのシナリオが語られ出している。

具体的には、いったん東芝を上場廃止させる。その上で、東芝を新旧2つの会社に分社化させて、新社には軍事、原発などの国策部門を集めて、残りは旧社に集める。そして、新社には政投銀や三井住友、みずほなどの主力行、生保などの機関投資家がファンドを組んで投資する。

新社のバックには国がつくから、再上場すれば株価は急騰必至。旧社は清算処理して、そこで融資行が損失を負う可能性もあるが、新社の再上場による株式の値上がり益でそれも穴埋めできる。さらに、新社の株式の半分以上は東芝が持ち、新社の再上場で東芝が利益を上げる形にする」

もちろん、いずれの金融支援策も、銀行団の足並みが乱れてしまえば台無しになる。その点、みずほフィナンシャルグループの佐藤康博社長はこの2月、本誌に次のように語っている。

「東芝は日本にとって大切な会社。メインバンクのひとつとして東芝を支えていく。これに尽きます。これは三井住友銀行さんもまったく同じです」

4月から三井住友信託銀行の新社長に就く橋本勝副社長も、「先方から相談があれば真摯に対応していきたい」と公然と語り、主力3行はすでに一体。今後のキーは前述したように三菱東京UFJ銀行の動向だが、同行の小山田頭取は本誌の取材に次のように語る。

「東芝さんはインフラ、デバイスなど、広く日本の産業を支える役割を果たされている。今回の危機を乗り越えて頂き、立ち直って欲しいと思いますし、われわれとしてもそれに向けてしっかり対応していきたいと考えている。

(グループ証券会社の空売りについては)その動きをつぶさに認識しているわけではないが、ひとつの意思があってのものではない。あくまで銀行団としてまとまっていく形で、東芝さんには立ち直ってもらいたいという思いがありますし、それだけの力を東芝さんはお持ちだと思います」

つまり、混迷を続ける東芝経営陣に代わって、銀行や国が前面に出てこの会社を復活させていく「再生シナリオ」が、ここから始まる。

こうした銀行団の動きに気付いた一部の市場関係者の間ではさっそく、現在暴落している東芝の社債を買い漁る動きも出てきているという――。

「週刊現代」2017年4月8日号より