1

イーロン・マスク氏が立ち上げたロケット開発・打ち上げ企業の「SpaceX」は現地時間の2017年3月30日、世界で初めてとなるFalcon9ロケットを「再利用」した打ち上げに成功しました。これは、SpaceXが掲げてきた「ロケットの再利用で打ち上げコストを激減させる」という目標の実現に向けた可能性を大きく広げるもので、まさに歴史的偉業というにふさわしいものといえます。

SES-10 MISSION | SpaceX

http://www.spacex.com/webcast

SpaceX Has Reused Its First Rocket - MIT Technology Review

https://www.technologyreview.com/s/604029/spacex-has-reused-its-first-rocket/

打ち上げの様子はSpaceXのYouTubeチャンネルでも生中継されていました。現在でも録画されたものを視聴可能です。

SES-10 Hosted Webcast - YouTube

アメリカ・フロリダ州のケネディ宇宙センター第39複合発射施設で打ち上げを待つFalcon9ロケット。画面右上には、打ち上げまでの残り時間が表示されています。



今回打ち上げられるのは、SESが運用する通信衛星のSES-10



そしてこのSES-10の打ち上げには、打ち上げを1度実施しているFalcon9ロケット第1段ブースターが用いられます。このブースターは2016年4月のCRS-8ミッションを成功させたもので、打ち上げ・分離後に、自動で洋上のドローン船「Of Course I Still Love You」に着陸していました。



回収されたブースターは分解され、再利用に向けた整備が行われました。1機あたり9台用いられるマーリンエンジンがズラッと並んでいます。



「飛行済みハードウェア 触るな」の張り紙。



通常のエンジンとは区別して取り扱われるマーリンエンジン。



そして全ての整備が完了したFalcon9ロケットが発射施設に据え付けられ、発射の時を待ちます。3月28日には、打ち上げ前のエンジン燃焼テストが実施されており、問題なく動作することが確認されていました。



ロケット先端には「SES」と大きく書かれた「フェアリング」と呼ばれるカバー。打ち上げ時に搭載物を保護するためのもので、この中には小型のバスがまるごとすっぽり入るほどの大きさがあります。後述しますが、今回の打ち上げではブースターに加え、このフェアリングを地上に帰還させることにも成功しています。



右上の時計が「T- 00:01:00」を示し、打ち上げまであと1分。Falcon9ロケットに搭載されたコンピューターが機体の制御を引き継ぎました。



そして1秒前、9機のマーリンエンジンに火が入り……



真っ赤な炎を吹き出しながらFalcon9ロケットが上昇を開始。



リフトオフ(打ち上げ)から約9秒で、打ち上げタワーから離れる「タワークリア」。スピードをグングン上げつつ上昇していきます。



リフトオフから約1分で機体速度は音速に到達。このあたりでFalcon9は、気圧と機速の関係で機体に最大の圧力がかかる「Max Q」に達します。Falcon9はマーリンエンジンの推力をわずかに弱め、機体にかかる負担を調整しながらなおも上昇を続けます。



そしておよそ1分30秒後、高度が1万4000メートルあたりに達して気圧の影響が弱くなったところでFalcon9ロケットは再び推力をフルパワーに戻しました。いわば、機体に最も負担がかかる瞬間をクリアしたということで、打ち上げを見守るSpaceXのスタッフからも大きな歓声がわき起こります。



そして最も重要な瞬間の1つ、第1段ブースターの分離の瞬間が訪れます。映像は第1弾ブースターに取り付けられたカメラ(左)と、第2段ブースター側から下方を映すカメラ(右)。



分離の瞬間、第1段ブースターのエンジンを停止させる「MECO (Main Engine Cut Out:ミーコゥ)」が行われ、ブースターが分離されました。会場からはひときわ大きな歓声。



そして、第2段ロケットのエンジンに点火完了し、第1段ブースターは与えられた任務をまっとう。会場の歓声はさらにヒートアップします。



そして第1段ブースターはドローン船を目指して降下を開始。エントリーバーン(突入噴射)を行って軌跡を制御し、網のような「グリッドフィン」を使って姿勢と向きをコントロール。



そしてまもなくドローン船に帰還する瞬間。無事に着艦に成功すれば、これはもう文句の付け所がない大成功ということになります。



ブースターの炎がうつったのか、ドローン船の一部がオレンジ色に変わって「そろそろか!」と思った瞬間、映像がストップして……



なんとそのままブラックアウト。会場からは「おい〜〜」というどよめきが上がります。



しかしその数秒後、今度はレポーターも苦笑いするほどの大歓声。



画面には、第1段ブースターが4本の脚でしっかり立っている様子が映し出されました。1度打ち上げられて再利用したロケットが再び打ち上げられ、しかも2たびドローン船に着艦するという、ロケット開発の歴史に残る瞬間がいまここです。



この様子を見守っていたマスクCEOも画面に登場。



普段ならTwitterでコメントを寄せるマスク氏でしたが、今回は生中継で興奮気味にコメント。「今日は信じられない程素晴らしい日です。人工衛星を軌道に投入できる規模のブースターの再打ち上げに成功して、第2段ロケットを無事に送り届けたのちに、ドローン船に無事に戻ってきました。今日は宇宙開発に携わる人々にとってめちゃくちゃすごい日になりました。第1段ブースターはロケット全体の中でも最も高価な部分であり、これは宇宙飛行におけるとてつもなく画期的なことです。ここに到達するまでに15年の月日がかかりました。本当に長い時間でした。開発チームのこと、そして今日ここでマイルストーンを達成したことをとても誇りに思います。ありがとう」



その後、第2段ロケットは地球を周回しながらタイミングを見計らい、さらに高度の高い軌道に向かう静止トランスファ軌道に乗るための噴射を実施。残念ながらそのあとの様子はほとんど見ることができませんが、無事に飛行を継続した模様です。



そして前述のように、今回の打ち上げではブースターに加えてロケット先端のフェアリングも地上に戻ってきたとのこと。フェアリングは2枚で1組の分離式になっており、アルミハニカムと複合炭素素材でできた1枚600万ドル(約7億円)もする大きなパーツ。それぞれに噴射装置を搭載することで狙った軌道にのって地球に帰還できるようになっています。今回は1枚だけの帰還が確認されているようですが、フェアリングはパラシュートを開いて海のどこかに着水したものと見られています。



By SpaceX

偉業を達成したSpaceXですが、マスク氏はその後のツイートで「宇宙開発のマイルストーンを達成したSpaceXのチームをとても誇りに思う!次のゴールは24時間以内の再打ち上げだ!」と思わずコケてしまいそうになるほどのムチャぶりをつぶやいています。普通なら「無理だろ……」と思ってしまうところですが、SpaceXならなぜか実現してしまいそうになるから不思議です。





ちなみに、第1段ブースターが地上に戻ってくる様子をカメラが捉えたムービーがコレ。最初はビックリするぐらいのスピードで降下してきたブースターが、エンジンの噴射とともに急減速し、ドローン船に着艦する頃にはほぼ停止状態にまでなっている様子がよくわかり、思わず「人間はこんなこともできるものなのか……」とつぶやいてしまいそう。ただし、これは2015年に着艦成功寸前で転倒・爆発してしまった時の映像です。

April 14, 2015: CRS-6 First Stage Tracking Cam - YouTube

民間によるロケット開発を巡っては、Amazonのジェフ・ベゾスCEOが立ち上げた「Blue Origin」による開発も進められており、2017年3月には大型ロケットエンジンの組み立てを完了したことも報じられています。民間主導で進められる宇宙開発のめざましい進歩から、これからも目が離せなさそうです。

ジェフ・ベゾス氏のBlue Originがついに大型ロケットエンジンを組み立て完了、「月へのAmazon計画」も浮上 - GIGAZINE