「オーウェンと一緒に!」とオチャメなノリをみせるウィリアムズ監督

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 2月に授賞式が行われた第89回アカデミー賞にて、長編ドキュメンタリー賞にノミネートされた映画『ぼくと魔法の言葉たち』で監督を務めたロジャー・ロス・ウィリアムズが来日し、撮影中のエピソードや映画賞での素晴らしい体験について語った。

 映画『ぼくと魔法の言葉たち』は、自閉症の青年オーウェン・サスカインドさんを追ったドキュメンタリー映画。オーウェンさんの父ロンさんの著書「ディズニー・セラピー 自閉症のわが子が教えてくれたこと」を基に、大学を卒業し、社会人として自立していく彼の姿を追っている。サンダンス映画祭での監督賞受賞をはじめ、アニー賞での特別業績賞、そしてアカデミー賞のノミネートと快進撃を続ける本作だが、観る者を魅了する理由は何だろうか。

 「オーウェンはディズニー・アニメーションの世界に没頭し、それを通して自分が誰であるかということを読み解いてきたんだ。この映画はそんなオーウェンの世界に包まれるように映像も音響も設計して作ってある。彼の頭の中に一歩踏み込むことで、(自閉症に対する)理解を深めたり、モノの見方が変わったなと思ってもらえたら最高だよね」と監督が語るように、ディズニー・アニメーションという身近な存在と共に1人の青年の成長物語を見届けることで、どこか遠い世界の話ではなく、より身近な出来事として受け入れやすく、またアニメーションや映画といったエンターテインメントが起こしたミラクルを実感できることも魅力の一つかもしれない。

 実際に1年間オーウェンさんを追い続けた監督に、撮影中最も印象的な出来事を尋ねると、本作のクライマックスともいえる彼のスピーチの瞬間を挙げた。「自身の言葉で自分の人生を語り、自閉症であることを誇らしいと宣言する。とてもパワフルで誇らしい瞬間だったよ」と興奮気味に振り返る。

 スピーチといえば、特別業績賞を受賞したアニー賞の授賞式でもオーウェンさんは壇上に上がり、多くのアニメーターたちの前でスピーチをしている。「皆が涙していたよ。立ち上がって拍手してくれて、本当にエモーショナルな瞬間だったんだ。素晴らしい作品を作り上げてきたアニメーターたちが、自分たちが作るものがこんな風に人の人生を変えることができたんだと実感した瞬間でもあったんだと思うよ」とその様子を語り、「アカデミー賞でももちろんスピーチをする予定で準備していたんだ。トミーヒルフィガーがカスタムメイドしたタキシードを着て参加していたんだよ!」と明かした。

 本作をきっかけに人生が一変したオーウェンさんだが、この環境の変化を彼はどのように受け止めているのだろうか。「彼は観客の前に立つこと、人と触れ合うこと、そしてロールモデルであることをすごく楽しんでいるよ。彼のご両親も『なんて生き生きしているんだ!』って驚くくらいなんだ」と監督。さらに、「素晴らしいことに、自閉症のコミュニティーでも『僕らのスポークスパーソンになってくれてありがとう!』って言ってもらえているんだ。誰もが自分たちの思いを代弁してくれる人を望んでいるわけだけど、彼らもまたヒーローを求めているんだよ」と続けた。

 最後に今後も彼を追ってみたいかと尋ねると、「一つの世界・物語を撮り終えたらまた次の世界に行けるというのがドキュメンタリー作家の素晴らしいところなんだ。同じものをずっと伝え続けるのであれば、作家として少し実のないものになってしまうかもしれない。僕はいろんな物語を分かち合っていきたいんだ」とすでに次のプロジェクトに着手していることも語っていた。はみ出し者たちのストーリーに惹かれるというウィリアムズ監督。はみ出し者であったかもしれないオーウェンさんは、本作を通じて、スポークスマンとして、またロールモデルとして、新たな未来へと歩んでいる。(編集部・浅野麗)

映画『ぼくと魔法の言葉たち』は4月8日よりシネスイッチ銀座他にて全国順次公開