V字回復を主導した戴正呉社長(写真/時事通信フォト)

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 シャープは2017年3月期の業績が大幅に改善する見通しで、東証一部への復帰も間近と見られる。このV字回復を主導したのが、親会社となった鴻海から送り込まれた戴正呉社長だ。家電業界を長年取材する立石泰則氏がレポートする。

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 二〇一七年三月十三日、「社長懇談会」が堺市の臨海エリアにある新本社で開かれた。二〇一六年度連結業績の通期見通しが、営業利益、経常利益、最終利益とも四ケタの赤字を計上して前年同期と比べて大幅に改善していた。

 しかし懇談会を通じて、少し不安を感じたことも事実である。たとえばシャープの将来像を、家電メーカーから《「人に寄り添う」IoT企業》と規定していることだ。正直、このスローガンから具体的なイメージがわかない。

 会場の記者からも「よく分からないから、詳しい説明が欲しい」という要望が出た。ひと目みて理解されないスローガンなど意味がない。説明が必要なのは、作った側も理解できていないからだ。

 ということは、シャープの将来像が経営陣の間で共有されていないのではないか。戴社長を始め経営陣の考えが明瞭なのは、数値目標などを掲げた実務に限られるのだ。その意味では、戴政権の経営は管理業務に徹している。

 戴社長は自分のミッションについて、債務超過に陥ったことで東証二部に指定替えになったシャープの一部復帰と、後継社長の育成の二つを挙げている。東証一部に復帰した段階でシャープ社長を退くというものだ。

 では、鴻海トップの郭台銘氏は、シャープ社長としての戴氏に何を期待しているのか。それは旧経営陣の無責任経営で疲弊し、組織の体さえなさないシャープをまず“普通の企業”へ整え、そのうえでグローバル企業・鴻海の経営スピードに順応できる会社にすることに他ならない。有り体に言えば、鴻海とシャープの一体化である。

 そして次の段階、戴氏の後継社長のもとで、シャープは鴻海グループで果たすべき役割が与えられ、目指すべき企業像が明らかになるだろう。つまり、戴社長は「過渡期」の政権担当者なのである。鴻海と取り引き経験のあるパナソニックの元役員は、こう諭す。

「鴻海の傘下に入れば、黒字化され倒産することもないでしょう。でもいままで持っていた独立性は失われます。それが、鴻海なのです」

 私たちが夢みる「日本企業・シャープの再建」と鴻海精密工業のそれとは、けっして同じものではない。

文■立石泰則(ノンフィクション作家):たていし・やすのり/1950年、福岡県生まれ。中央大学大学院法学研究科修士課程修了。週刊誌記者等を経て、1988年に独立。1993年に『覇者の誤算―日米コンピュータ戦争の40年』で講談社ノンフィクション賞受賞。2000年に『魔術師 三原脩と西鉄ライオンズ』でミズノスポーツライター賞最優秀賞受賞。『さよなら!僕らのソニー』『パナソニック・ショック』など家電メーカーに関する著書多数。

※週刊ポスト2017年4月7日号