先日、筆者は陳氏太極拳の教室の方々と中国武術愛好家の方々がどのように練習しているかということを見に、早朝の魯迅公園に出かけた。写真は筆者撮影。

写真拡大

先日、筆者は陳氏太極拳の教室の方々と中国武術愛好家の方々がどのように練習しているかということを見に、早朝の魯迅公園に出かけた。中高年の中国人が、それぞれのグループの旗を掲げ、その下で練習している姿が印象的であった。

【その他の写真】

中国の一つのイメージとして、朝靄(あさもや)の中の公園で太極拳を練習する姿というのがあるだろう。健康や養生を考えて、高齢者が練習する風景だ。実際、上海市内の各所でその姿を見ることができる。前述の魯迅公園、人民広場、静安公園、外灘などなど。筆者もその中で練習する一人なのだが、この景色は決してのどかな中国がもとになっているわけではない。

清末民初、アヘン戦争以来上海は外国人勢力の租界化、植民地化を受け、中国自体も「東亜病夫」などと言われていたことは、ブルース・リーの映画やジェット・リー、ドニー・イェンらが大活躍する映画の中でも描かれている通りである。たとえば、ジェット・リーの演じた霍元甲が創設し、魯迅公園でも練習する精武体育会はこの時期に始まる。欧米列強の進攻に対し、尚武精神が提唱され、さまざまな中国武術家たちが国民を鍛えるという目的のもと、武術の練習が盛んに行われ始めたのである。その影響で、公園で練習するグループが現れた。

もっとも、これ以前に義和拳や梅花拳を練習するグループが義和団事件を起こしており、その影響も大いにあるものと考えられる。

韓国が高高度防衛ミサイル(THAAD)の配備を進めたことで、中国国内で韓国製品ボイコットなど反韓運動が展開されている。つい最近までは、反日の意識が強かったが、今では反韓国一色だ。タクシーの中で、日本人というと面倒なので韓国人だといっていたが、それが逆に煩わしさを生む状況だ。

反日運動、反韓運動は同じ理屈で動いているとみることができる。五四運動を曲解し、それこそが愛国主義的であると考える、いわば「創られた文化」が継承されている。そこに政府に不満を持った国民のガス抜きが加わる。結果、暴力的な行為が生まれる。

現在、エンターテインメントとして、リングにあがる中国武術家もいるにはいるが、大方の武闘派といわれる武術家はそれを求めない。中国武術の根本は自身の健康、家族、コミュニティを守るところから始まっているからだ。「武」という字が「戈」を「止」めることに由来していることからそれは明らかだ。

文化の継承、愛国主義の継承、それにはさまざまな形があるだろう。しかし、朝の公園から見る文化・愛国主義は自身や家族、コミュニティを守ることを目的とした、穏やかで健全なものだ。決して人を傷つけることを求めるものではない。傷つけることは文化ではなく、「強いことの証明」ではありえない。

■筆者プロフィール:小坂剛
1978年生まれ。東京大学大学院博士課程満期修了。専門は中国民間信仰と社会変動。子どものころから中国の歴史に興味を持ち、大学院まで専攻は中国地域文化研究。大学院修了後は高校社会科教師として勤務。上海に新設校が開校された際、上海に移り、現在はインターナショナルスクールにて様々な国の子どもたちに接し海外の教育を学びながら、文化交流活動などをプロデュースしている。趣味は陳氏太極拳。