なぜ映画「ムーンライト」はアカデミー賞を受賞したの?と思う人に送る!! 映像・物語・役者など全ての才能があふれでた作品なのです

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【公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画のなかから、おススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。

今回ピックアップするのは、第89回アカデミー賞作品賞、最優秀助演男優賞を受賞した『ムーンライト』(2017年3月31日公開)です。貧しい黒人青年の半生を3部作で綴った映画で、同じ人物を3人の俳優が演じています。なんと撮影期間は25日という驚異の傑作。では物語からいってみましょう。

【物語】

第一部:シャロン(アレックス・ヒバート)はイジメられっ子。母(ナオミ・ハリス)はドラッグ中毒で荒れており、居場所のない彼が廃墟の中で閉じこもっていると、フアン(マハーラシャ・アリ)が声をかけてきます。シャロンは彼に心を開いていきます。

第二部:高校生になったシャロン(アシュトン・サンダーズ)は、あいかわらずいじめられ、母は変わらずドラッグ中毒です。しかし、シャロンは恋をしていました。相手は幼なじみのケヴィン(アンドレ・ホランド)。二人は気持ちを通わせあいますが、その後、学校で事件が起こるのです。

第三部:大人になったシャロン(トレヴァンテ・ローズ)は、麻薬の売人になっていました。それなりに裕福ですが昔のまま、孤独です。その彼にケヴィンから連絡が。あの事件のことを謝りたいというケヴィンのもとへ、シャロンは会いに行くのです。

【孤独な少年と救世主の関係】

舞台はマイアミ。太陽サンサンの明るいイメージが強いけれど、シャロンの暮らす黒人のコミュニティは危険地帯にあります。シャロンは家族とロクに言葉も交わさずに生きてきたから無口。映画が始まってすぐにシャロンの置かれている現状の厳しさと彼の孤独がスクリーンから立ち上がって来て、気の毒でたまらなくなるのですが、そこにフアンという救世主がやって来ます。

父親を知らないシャロンにとって、フアンは父のような存在なんですね。フアン、いい人だ〜、出会えてよかった〜と思ったら、フアンは麻薬の売人で、シャロンのママにも薬を売っていたのです。ここでまた一気にやりきれない気持ちに。でも救いはフアンも、自分とシャロンが置かれている現状にやりきれない思いを抱いていることです。

フアンを演じたマハーシャラ・アリは、本作でアカデミー賞ほか各映画賞の助演男優賞を総なめにしましたが、そうでしょう、そうでしょう! と思いましたよ。カリスマ性、父性に加えてセクシーなんですよ。ぬくもりと色気の融合! フアンがシャロンに泳ぎを教える海のシーンなど神々しいほど。役に魂が宿るってこういうことなんだと思いましたね。

【徐々にラブストーリーに変化していく物語】

第二部から、幼なじみケヴィンの存在が大きくなっていきます。イジメを受けるシャロンの安らぎはケヴィンです。シャロンは彼に恋をしており、二人は浜辺で思いを通わせて……。シャロンがそれまで自分がゲイであることを自覚していたのか、それはよくわからないのですが、ここで自分の気持ちに正直になります。でもそのあとショッキングな事件が起こり、せっかく幸福な瞬間を迎えた二人の関係が……。

第一部のフアン、第二部のケヴィンといい、シャロンは、なぜ安らぎを感じる相手と未来を繋ぐことができないのだろうと悲しくなります。でもその辛さが第三部で昇華されるのです。カタルシスを感じるというのではないのですが、シャロンはフアンを忘れていないし、ケヴィンとシャロンもお互い忘れられない相手なのです。

【監督と原案者の共通の過去から生まれた作品】

映画『ムーンライト』は、劇作家タレル・アルヴィン・マクレイニーが書いた短い戯曲「In Moonlight Black Boys Look Blue」が原案になっています。この戯曲に出会ったジェンキンズ監督は、自分の過去が甦るように感じたそうです。戯曲を書いたマクレイニーと監督は、同じ公団住宅で育ち、同じ小学校と中学校だったのです。当時、知り合いではなかったそうですが。そして、二人とも母親が麻薬中毒者というのも共通点。運命的なものを感じます。シャロンという人物は、監督とマクレイニーの思いがつまった主人公なのですね。

ちなみに、この映画の製作会社プランBはブラット・ピットの会社。彼の会社は『それでも夜は明ける』もアカデミー賞作品賞を受賞しており、これってすごくないですか。ジェンキンズ監督は「ブラット・ピットは大スターだ。好きな事ができる地位を築いた彼は、あえて興味深いストーリーを語るための会社を作ったんだよ」と語っています。ブラピ、何気に映画界への貢献度大ですね!

全米メディアが2016年のベストムービーにあげている映画『ムーンライト』。映像の美しさ、詩的表現が絶賛されていますが、自分は映画だけど私小説を読んでいるような印象がありました。それは監督や原案者の人生の一部が描かれていたからかもしれません。

この映画はみんなでワイワイ見に行くより、ひとり劇場でジックリと見るのがいいかも。今、映画のことを思い出しながらコレ書いていて、また強烈に見たくなってきました。なんだかジワジワと心に染みる映画です。

執筆=斎藤 香(c)Pouch

『ムーンライト』
(2017年3月31日より、TOHOシネマズ六本木ヒルズほか全国ロードショー)
監督:バリー・ジェンキンズ
出演:トレヴァンテ・ローズ、アンドレ・ホランド、ジャネール・モネイ、アシュトン・サンダーズ、ジャハール・ジェローム、アレックス・ヒバート、ナオミ・ハリス、マハーシャラ・アリほか
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