東尋坊で「ポケモンGO」に興じる観光客

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 せり出した岩肌に日本海の荒波が打ち寄せる景勝地、福井県の東尋坊。地元民の悩みの種は、断崖絶壁から身を投げる人が後を絶たないことだ。しかし、「ポケモンGO」のおかげで事態は一変、「レアポケモンが多く出るスポット」として有名になり、観光客が途切れることなく訪れるようになった。

 この結果、場の雰囲気が変わり、常に人の目があることで抑止効果が生まれたのか、2017年に入ってからの自殺者はゼロ。「自殺の名所」と言われてきた東尋坊が、汚名を返上した格好である。

 アプリがリリースされた直後の昨年夏、東尋坊にポケモン目当ての観光客が大挙して押し寄せていると話題を集めた。夜間に多くの人がテントを張って陣取り、闇の中でたくさんのスマートフォンの画面が光っている光景などが地元紙で報じられたことも。「今でも、にぎわっているのか?」。3月下旬の平日午前中、東尋坊へ向かった。

 土産物店が軒を連ねる通りの入り口横にある市営駐車場は、ほぼ満車で福井県以外のナンバーがほとんど。歩き始めると、多くの若者とすれ違った。春休み中だからだろう。岩場の手前にある日本海が一望できる場所では、海外からの観光客が写真を撮影し、手前にある芝生の広場ではポケモンGOのプレーヤーが10人ほど集まってスマートフォンを操作していた。坂井市三国観光協会によると、昨年夏から秋にかけて激増したポケモン目当ての観光客は冬場に入って減った。しかし、雪解けを待って増えている様子である。

 プレーヤーの20代男性会社員は「富山市内で勤務していますが、実家が福井県あわら市にあるので帰省のついでに寄りました」とのこと。石川県小松市から来た40代と思われる母と10代の娘は「親子の会話が弾むので来ました。今回で2度目。レアなキャラクターが出ていますよ」とうれしそうに笑い合っていた。

 岩場に向かう通りの中ほどにNPO法人「心に響く文集・編集局」の活動拠点がある。同法人代表の茂幸雄さんは「東尋坊の“ちょっと待ておじさん”」。福井県警OBで、三国署(現・坂井西署)勤務時代、自殺防止のパトロールを始めた。任期中、自殺したとみられる21人の検視を行い、約80人を保護した。自殺を思い立って東尋坊に来るのは、9割以上が福井県外以外の人らしい。

「自殺者が家族に宛てた遺書をみせてもらいましたが、誰一人『死にたい』とは書いていませんでした。また、金銭問題などはっきり原因が分かる人は少ない。人間関係のつまずきといった、ちょっとしたきっかけで自殺を考えた人が『助けてくれ』と心の中で思っても、救いの手を差し伸べられていない現状があります」(茂さん)

 定年退職後の2004年4月にNPO法人を立ち上げ、現在はメンバー16人がローテーションを組んで午前11時から日没までのパトロールに当たっている。このほか、講演活動や著書を通じて自殺防止を呼び掛け、自殺を思いとどまった人と関わって、職場・家庭・地域の人と連携を取りながら問題の解決を支えている。

 茂さんによると、東尋坊での自殺者は過去40年間に10人から30人で推移してきたが、NPO活動を始めると減少に転じ、14年は最少の7人と初めて2桁を割った。15年は12人、16年は14人と増えたものの、17年は3月末の時点で0人である。茂さんたちの活動とともに、「ポケモンGO効果は絶大」とのこと。「このペースで、自殺者ゼロが続いてほしい」という。

 ポケモンGOのプレーヤーが集まる芝生の広場、かつては自殺を決意した人が最後に思いを巡らす場所だった。東尋坊に足を運ぶと分かるが、荒々しい岩肌は約1キロにわたって続いており、眺望のいい記念撮影スポットから少し奥に入ると人通りの少ない場所がある。

「自殺願望者が暗がりに身を隠し、日没を待って観光客を避けて岩場へ向かうことなどないように、パトロール体制をもっと充実させます」と茂さん。現在、ドローンの導入を検討しているとのこと。「ポケモンGO効果」を喜んでいても、気は抜けないのである。(ライター・若林朋子)