環境より雇用の大統領令でトランプが陥る「中国のジレンマ」

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約束を守る男ではない、とは言えないようだ──。ドナルド・トランプ米大統領は先の選挙戦で、石炭生産が主要な産業となっている地域で勝利した。そして3月28日、トランプはバラク・オバマ前大統領が導入した一連の環境規制を見直す大統領令に署名した。

トランプは選挙公約を守った。ただし、これによって今後、トランプは中国が直面している困難な状況とそう変わらない苦境に陥ることになる。

中国が抱える問題

中国では、何千もの炭鉱の閉鎖が予定されている。ある鉱山では今月、4000人近くが年末での解雇を通告された。中国の炭鉱労働者のうちおよそ130万人が、向こう数年内に職を失う見通しだ。

世界最大規模の鉱山のうち、上位4か所は米国と中国のそれぞれにある2か所ずつだ。米国ではワイオミング州、中国では内モンゴル地域にある。発電用燃料の石炭依存度は米国の方が低く、約33%。中国は70%程度となっている。さらに、中国の炭鉱は米国のそれとは異なり、より危険である上に、より環境を汚染している。

中国は大気汚染問題の改善のために、石炭以外のエネルギー源に対する依存度を高めようとしている。だが、世界最大の太陽電池パネルの生産国であるにもかかわらず、政府は代替エネルギーや天然ガスの利用拡大に向けての目立った動きを見せていない。

一方、米国にこうした問題はない。上海と北京に比べれば、空気はずっときれいだ。しかし、それでもトランプと中国の習近平国家主席が抱える問題は同じだ。石炭採掘の継続は、雇用の維持を意味するのだ。

住民のほぼ唯一の収入源

ウェストバージニア州からワイオミング州まで、米国には収入を得る主な手段が石炭の採掘だけだという地域がある。この地域で石炭産業に従事する人の賃金は2015年、5万7820ドル(中央値)だった。米労働統計局によると、経営陣など高所得の人なら年収は12万〜19万ドルに上る。低水準の賃金で働く人たちの年収は、およそ4万2000ドルだ。

アパラチア山脈のふもとにある小さな町やワイオミングの西端に近い地域では、4万2000ドルは悪くはない年収だ。そして、他の仕事で同程度の収入を得るのは難しい。この地域で石炭産業に従事する人は、約8万人いる。

トランプが署名した大統領令は、一部の人たちにとっては雇用の保護であり、大都市ほどには流動性がない地域で、家族が離れ離れにならずに生活していくために必要なものだ。問題の根は深い。これらの労働者にとっての新たな収入源が見つかるまで、石炭産業は保護されることになるだろう。

ただし、それでも石炭産業の今後が上向いているということではない。この点においても米国は、深刻な問題に直面する中国と同じだ。

大統領令が意味するもの

オバマ政権が目指した「脱炭素社会」に向けての取り組みを見直すとしたことで、トランプは地球温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」の下で米国が掲げた目標を撤回する可能性もある。このパリ協定は、中国も昨年9月に批准している。

一方、昨年中には少なくとも3社が経営破綻した米国の石炭業界が直面する多大な困難を考えれば、トランプの支援があったとしても、関連企業がすぐに事業拡大に乗り出すとは考えづらい。

石炭業界は米国でも中国でも、依然として問題を抱えている。ただ、米国で関連産業に従事する労働者たちのストレスは、トランプが大統領である限り、少しは軽減された状態であり続けるのかもしれない。