V・ファーレン長崎の胸スポンサーにもなっているジャパネット【写真:Getty Images】

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チームの活躍とは裏腹に…大きくなっていった予算の穴

 2年連続黒字を計上していたにもかかわらず、突然1億2000万円の赤字を出す事態に陥ったJ2のV・ファーレン長崎。2013年にJ2入りを果たしてからすでに2度J1昇格プレーオフに進出し、ピッチ上では躍進している印象があるが、なぜこのような状況に陥ってしまったのだろうか。(取材・文:藤原裕久)

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 3月21日、3月のJリーグ理事会を終えた村井満チェアマンは、前日にジャパネットホールディングス(長崎県佐世保市)がV・ファーレン長崎の株式を100%取得する意向を示したことにふれ、他の株主が了承する場合は株式譲渡を認める方針を明らかにした。

 2月8日に突然、赤字決算見込みが発表されてから41日、状況・方針・情報が錯綜していた長崎の方向性がようやく定まったわけだが、これまで2年連続黒字を計上していた長崎が、突如1億2000万の赤字と、約3億もの累積赤字を出す事態に陥ったのはなぜか。そこには長崎の抱えるいくつかの問題点が潜んでいた。

 親会社を持たない地方クラブの例にもれず、強い財務基盤を持たない長崎は、発足以来、常に経営難に悩まされてきた。

 当時を知る関係者によれば、その中で行なわれてきたのが、経営陣による「自腹での資金負担」、本来は翌年に計上されるべき予算を今季分に組み込む「先食い」、スポンサーや株主による「決算前の支援や増資」といった手法であり、特にJリーグ参入後は、チームの活躍と裏腹に「先食い」による予算の穴は大きくなっていったという。

 無論、この状況を軽視していた者はいない。別の関係者は、2年連続の黒字を達成したことで、2016年度は債務超過にならない範囲での赤字を計上して予算の穴を埋め、数年かけて健全な状態へ持っていく方針だったと語る。

 事実、赤字決算発表後にクラブの財務担当者も「9月の時点で赤字決算だと分かっていたので、債務超過にならない範囲での軟着陸を図ってきた」と語っている。だが2016年の長崎は、深刻なコンプライアンス、ガバナンス問題に直面し、軟着陸できる状態ではなくなっていたのである。

クラブの運営や経営を疑問視する匿名の投書

 練習場やクラブハウスの整備や海外クラブとの提携、公益性の高い事業を行うための社団の設立……近年、長崎のクラブ運営は、クラブの取締役GM 兼 社団代表理事の服部順一と、県内大手のガス会社を経営する中核スポンサーで、長崎県体育協会理事長でもある非常勤取締役の荒木健二が、ガッチリと手を組むことで支えられてきた。

 その一方、社団とクラブの関係性が曖昧でクラブの全体像や方向性がわかりにくく、服部が信頼するスタッフのみで構成する「GM室」への権限集中によりスタッフ間で情報・待遇・業務の格差が拡大。一枚岩とはほど遠い状態になっていたのも事実である。

 2016年に池ノ上俊一が代表取締役として招聘された後、この傾向は一層強くなり、一部のスタッフを除いてクラブの現状が分からないという状態に拍車がかかっていった。

 クラブの運営や経営を疑問視する匿名の投書が、JFAとJリーグへ送られたのはそんな中のことである。

 6月と11月にJFAへ送られた投書に対して、クラブは「問題なし」と回答するのであるが、12月に3度目の投書を受け取ったJリーグは問題を重視し、クラブに外部監査を受けるよう要請する。

 こうしてクラブは、12月末から外部監査人と顧問弁護士のもとで調査を開始するのであるが、中立性を欠いた調査手法と投書内容以外の調査に注力した結果、監査報告はJリーグによって否定され、外部監査人と顧問弁護士を解任した上でのJリーグによる再監査と再調査が入ることになってしまった。

情報の広まりとともに、表面化し始めたクラブへの影響

 クラブは11月に財務立て直しの一環として増資を行なっていたのだが、これらの情報や経緯の一部が広まり始めると、支援を見合わせるスポンサーが現われはじめ、営業体制縮小で中小スポンサー離れが続いていた財務状態は一層厳しさを増していったという。

 こうして2月8日に赤字決算と、取締役の岩本文昭と服部が1月末で辞任したこと、そして社長の池ノ上もすでに辞職届を出していることが発表されるのであるが、その3日後に行なわれたサポーターズミーティングで、クラブはコンプライアンス問題についての説明を「質問内容を誤認した」として二転三転させ、クラブ内で大きな権限をふるっていた服部の説明が一切ないことへの反発もあって、サポーターの不信を募らせることになってしまう。

 2月15日には荒木が常勤の代表取締役会長に就任し、第三者割り当て増資での経営危機脱却を目指す考えを示したが、3月1日の株主総会でもコンプライアンス問題を巡り紛糾し、さらに池ノ上が経営する法人よってクラブハウス内に開院された整骨院による保険不正受給疑惑や、累積赤字が3億1000万との見込みという報道も相次ぎ、その後も混乱が納まる気配は一向に見えなくなっていった。

 こうした中で、多くの関係者からホワイトナイトとして全面支援と経営参加を期待されたのが、メインメインスポンサーのジャパネットだ。自らの影響力の大きさと立場を自覚し、不用意にクラブ運営に介入せず「支援者」に徹してはいるが、高田旭人社長・明前社長、共にクラブと地元への想いが強いことは周知の事実である。

 経営難が表面化するずっと前にも、よりクラブに協力したいと出資を打診し、昨年末にもクラブの財務状況開示後に支援案を提示すると申し入れてもいる。当然、今回の第三者割り当て増資の引受先として第一の候補でもあることを疑うものはいなかった。

ジャパネットの支援で明るい兆し。問題解決はこれからが本番

 だが支援の手は思いがけないところから上がる。3月6日に英会話大手NOVAホールディングス(東京)が、子ども向けのサッカー教室を展開するためサッカー界での人脈づくりを進めたいと、クラブへ5億出資を打診。7日の会見で会長の荒木も県内企業を最優先としながらも、受け入に前向きな姿勢を示したのである。

 この予想外の状況下で、クラブへの支援を決断したジャパネットは10日に東京で会見し、株式を100%取得し3年で10億円以上を支援する意思を表明するのだが、その2時間後に開催された会見で荒木は、一刻も早い資金調達とJリーグへの報告するための時間的な制約を理由に、NOVAの支援受託を発表。

 しかし、6日に県内最優先と公表しながら、地元企業の打診を即日に退けたことへの、株主・スポンサー・サポーターから反響は大きかった。県からも問い合わせがあったとされる中、翌日の会見に憔悴した顔で出席した荒木は、ホワイトナイトを迎えるには似つかわしくない大粒の涙をこぼしながら、ジャパネットの支援受け入れへの転換を表明した。

 3月21日に開催された株主への説明会は、ジャパネットによる100%の株式取得の方針に大きな異論も出ず滞りなく進んだという。

 その後の記者会見でも「やる以上は腹をくくってやる」と明前社長が再建への覚悟をのぞかせれば、旭人社長も「J1やACLは夢。だが、それ以上に仲間と会い、スタジアムで楽しめる週末を作ることが大事」と理念を語り、再建へ向けた上々のスタートを感じさせるものでもあった。

 現在、ジャパネットはクラブについての情報を収集、整理しながら順調に株式の譲渡を進めているが、ジャパネットとして初のM&Aである点や、スポーツビジネスの特異性を思えば、今後の経営や運営の道は平坦なものではないだろう。

 昨年からの1年だけで3年以上勤務していたスタッフが大量にクラブを去っており、整骨院をはじめとするコンプライアンスや、クラブガバナンスの問題も未だ外部調査中だ。ジャパネットの支援により明るい兆しが見えてきた長崎だが、山積する問題の解決という大仕事はこれからが本番なのである。

(取材・文:藤原裕久)

text by 藤原裕久