楽天・三木谷浩史会長兼社長(つのだよしお/アフロ)

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 2月13日、東京・二子玉川の楽天本社で開かれた決算発表会見において、三木谷浩史会長兼社長は「一部の本社機能をシリコンバレーに移すことを考えている」と語った。「ネット業界の中心であるシリコンバレーは、さまざまな国から英知が集まりイノベーションを推進している」と移転の理由を述べた。

 三木谷氏自身は、シリコンバレーに住むなど日本の外で働くことを実践してきたが、そのひとつの到着点がシリコンバレーに本社機能を移すことだったというのだ。

 さらに、医療事業への進出を表明した。三木谷氏が筆頭出資者となっている米ベンチャー企業、アスピリアン・セラピューティクスの取締役会長に就任したことを明らかにした。

 アスピリアンは、新しいがん治療法として期待される光免疫治療を目指している。光免疫療法とは、米国立衛生研究所の主任研究員である小林久隆氏らの研究グループが2011年に開発したもので、特殊な薬品と近赤外線を使い、がん細胞を破壊する。近赤外線は身体に無害といわれ、副作用が少ない。がんの新薬の開発や治療法の発見に期待をかけているわけだ。

 米グーグルなどシリコンバレーに拠点を持つ企業は、医療バイオ事業に力を入れている。三木谷氏は主戦場を米国に移し、シリコンバレーを核に医療事業に新規参入することを計画しているのだ。

 主力のネット通販事業については、こう述べた。

「我々は、漢方的な治療という表現をしている。あえて劇薬を使わずに、漢方による治療法のようなやり方で対処していこうと言っています」

 激化するネット通販市場でどう戦うかと記者から問われた三木谷氏が、ネット通販事業の改善策として持ち出したのが「漢方的な治療」だった。

 楽天の中核事業である楽天市場は、店舗が自由にサイトを構築できるモール型で、出店者に場所貸しする大家のような存在だ。かつて、楽天市場はネット通販の代名詞だった。ところが、スマートフォンの普及や物流の高速化を背景に、ネットでの買い物はより手軽になり、アマゾンジャパンが楽天から主役の座を奪い取った。

 アマゾンは直販体制だが、楽天市場は取引先の店舗や業者が多岐にわたっているため、アマゾンのように送料を無料にすることや配送時間の指定など、顧客が望むような思い切った手が打てない。

 本当は即効性のある方法を使いたいが、それが無理なので、副作用が少なく、じわっと効く漢方的な治療(対策)で乗り切りたいということのようだ。苦しまぎれにも映り、三木谷氏らしい歯切れの良さがまったく感じられない回答だった。

 シリコンバレーへの本社機能の移転、医療事業への参入、ネット通販の漢方的な治療。いずれも楽天が苦戦している裏返しともとれる。

●ポイントの大幅還元がポイント依存症という副作用を生む

 楽天の2016年12月期連結決算(国際会計基準)は、2期連続の営業減益に陥った。売上高にあたる売上収益は前期比9.6%増の7819億円だったが、営業利益は同17.6%減の779億円、純利益は同14.5%減の379億円となった。

 増収減益になった原因は、はっきりしている。楽天ポイントの大盤振る舞いによるコストの増大だ。昨年1月からグループの発行するカードを使って楽天市場で買い物をすると、ポイントを最大7倍に増やすという、事実上の値引きセールを展開している。

 顧客へのポイント還元を手厚くしたことで、国内EC(電子商取引)事業の取扱高は増え、主力のネット通販の売上高は伸びた。だが、ポイントの付与率を高めれば高めるほど費用は嵩む。ポイントは、将来の使用見込みを見積もった上で、引当金として損失を計上しなければならないからだ。その結果、販促費などが2割膨らみ、ネット事業のセグメント営業利益は前期の909億円から555億円へと38.9%も減少した。営業利益は設立以来、初めてネット事業が金融事業(655億円)を下回った。

 記者会見の席上、三木谷氏はネット通販事業の競争が激しくなるなか、「劇薬で顧客を奪い取るのでなく、漢方薬で末永く楽しく使ってもらうために、ポイントの還元策を今後も継続する」とした。

 セールを年間通して続けている現状から、引くに引けなくなっているのだ。ポイントの還元をやめれば、利用者が競合他社に流れるのは目に見えている。ポイントの大盤振る舞いは、三木谷氏が主張するような副作用が少ない漢方薬ではない。ドラッグ依存症と同じ、“ポイント依存症”という重大な副作用をもたらした。

●海外M&Aの失敗で多額の減損を計上

 三木谷氏が中心となって推進してきたM&A(合併・買収)で手に入れた海外事業の多額の減損が、業績の足を引っ張っている。楽天は10年以降、電子書籍販売のカナダのコボ、ネット通販のキャッシュバックサービスを手掛ける米イーベイツなど、海外で大型買収を繰り返してきた。大型M&Aをテコに、20年度に海外売上比率を5割に引き上げるという大きな目標を掲げた。

 しかし、海外戦略は頓挫した。15年12月期に、ネット通販の仏プライスミニスターやコボなどの「のれん」代を、減損損失として381億円の損失を計上した。さらに16年12月期は動画配信のVIKIなどの減損損失を243億円計上した。それでもまだ、12月期末時点で、3584億円の「のれん」代を抱えており、今後も減損リスクは高い。

 そこで海外では、拡大路線から一転してネット事業の撤退を決めた。10カ国・地域以上で展開していた楽天の海外ネット通販事業は、米国や台湾など5カ国・地域に縮小した。これにより、「20年度に海外比率5割」の達成は絶望的となった。

●株価上昇策としての自社株買い

 減益決算の発表以降、楽天の株価は下落を続けた。そこで株価を上昇させるための即効薬といわれる自社株買いに踏み切った。2月21日、1000億円、1億2000万株を上限とする自社株買いを発表した。自社株を除く発行済み株式の8.4%に相当する。

 大規模な自社株買いを好感して楽天株は2月22日、一時前日比12%高の1158円まで上昇した。楽天株は16年9月7日に付けた昨年来高値(1462円)から、自社株買いを発表する日までに3割近く下落していた。確かに、アナウンス効果はあった。

 しかし、主力の楽天市場などネット通販事業の収益力の低下に関する疑念は、くすぶり続けたままだ。ポイント依存症から抜け出せなくなっているからだ。

 三木谷氏は、「4〜9月に向けて収益は回復していく」と強気の見方を示しているが、株式市場では半信半疑だ。「安売りセールを連発して収益力を落とした姿は、どこか総合スーパーと二重写しだ」と辛辣な評価を下すアナリストもいる。

 3月24日の楽天株の終値は前日比10.5円安の1095.5円。株価上昇の勢いは、いまひとつである。
(文=編集部)