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By Pablo Fernandez

1880年代には最初のハードコンタクトレンズが誕生し、その約100年後の1970年代には新素材を用いたソフトコンタクトレンズが誕生しました。メガネを着ける煩わしさを解消できるコンタクトレンズは、視力に悩みを抱える人にとって非常に役に立つアイテムであり、眼球に直接触れるコンタクトレンズは装着時の快適性を高めるための技術革新の連続でした。

Making better contact lenses | March 27, 2017 Issue - Vol. 95 Issue 13 | Chemical & Engineering News

http://cen.acs.org/articles/95/i13/Making-better-contact-lenses.html

世界的にみても、裸眼の視力が十分に確保できている人の割合は減少しており、特にその傾向はアジア地域で顕著であることがわかっています。日本でも若い世代の人の間に近視の人が増えており、裸眼視力が1.0未満の小学生の割合は30.9%に達しています。さらに、日本の隣国である韓国では大学進学を迎える世代の実に90%が視力に問題を抱えていることが判明しています。



このような視力の問題を抱える人が頼らざるを得ないのが、メガネやコンタクトレンズ、そして近年広まってきたレーシックなどによる視力の補正です。近年ではソフトタイプのコンタクトレンズ(ソフトレンズ)の進化が進んでいることもあり、アメリカではコンタクトレンズ市場のおよそ9割がソフトレンズによって占められているという統計も明らかになっています。



アメリカでは、女性の54%、男性の46%が近視の症状を持っているという統計も。また、ソフトレンズを使用している人のうち、31%は1日使い捨てタイプのものを使っているとのこと。しかし、コンタクトレンズ使用者のうち30〜50%が装着時の快適性に問題を抱えており、医者の相談をうけています。さらに、全体の20%は使用そのものをやめてしまうという結果も明らかになっています。



このような実態に対し、コンタクトレンズメーカーは素材の見直しや新技術を用いて快適性の改良を続けてきました。初期のソフトレンズは「ヒドロキシエチルメタクリレート (HEMA)をベースとする、内部に水分を含む性質のあるポリマー素材「ハイドロゲル」を用いていました。この素材は非常に柔らかく、装着感が良いという特性を持っていましたが、酸素を通さない(空気の透過性が低い)という特性があったため、眼球への酸素供給はもっぱら涙に溶けこんだ酸素に頼るしかありませんでした。

その後、酸素透過型のソフトレンズも開発されてきましたが、より酸素を多く通すタイプのハードレンズに比べるとその差は歴然だったとのこと。そのため、ソフトレンズを常に着用している人の中には、眼球への酸素供給が不足するために白目の部分が赤くなってしまう症状を抱える人も少なくありませんでした。眼球には血管が存在しておらず、酸素の供給は外気からに頼っています。しかし、コンタクトレンズによって酸素の供給が滞るようになると、眼球の中に血液を送り混むために血流が生じることになり、その結果として白目の部分が赤くなってしまうとのこと。コンタクトレンズメーカー「CooperVision」の研究員であるスティーブ・ディアマンティ氏によると、眼球への酸素が不足する状態が続いて危機的な状況に陥ると、眼球が膨らんで視界がゆがむ「角膜浮腫」の症状につながります。

1990年代後半になると、このような欠陥を解消する新素材としてシリコンを含むポリマー「シリコーンハイドロゲル」が登場しました。従来のハイドロゲルに比べておよそ6倍の酸素透過率を持つシリコーンハイドロゲルによって、眼球への酸素供給という問題は大きく改善されることになりましたが、そこには大きな開発上の問題が存在していました。シリコンそのものは酸素透過性が高いのですが、単体では疎水性を持つために、親水性が高いハイドロゲルと組み合わせても乾燥しやすいという特性を持っていたとのこと。そのため目が乾きやすくなるというデメリットがありました。

また、シリコンは涙に含まれる脂質を捉えてしまうために、素材が劣化してしまうという問題が存在していたとのこと。コンタクトレンズメーカー「Alcon」のジョン・プルイット氏はシリコンハイドロゲルを用いたコンタクトレンズの開発について、「酸素透過性能を確保しつつ弊害を取り除くことが最も大きなチャレンジでした」と語っています。

この問題を解決するために、レンズの表面にプラズマで原子数百個分の厚みのコーティングを施すことで保水性を高める技術が開発されましたが、外力に弱く、すぐにひび割れてしまうという問題があったとのこと。そこでAlconが開発したのが、ナノテクノロジーを用いて両方の素材の特性を最大限にする技術でした。このレンズでは、レンズの中心部分のシリコン含有率を高めることで酸素の透過量を高めつつ、周囲の部分には親水性の高いハイドロゲルのチャネル(細い筋)を作ることで乾燥を防ぐという技術が用いられていました。



一方のCooperVisionでは、より柔らかくて装着感の良いレンズを実現するため、全体で同じ組成を持つレンズに注力して開発を行っていたとのこと。そして同社がたどり着いた結論が、「新しい分子構造を持つ素材の開発」でした。ディアマンティ氏は「当社では、親水性物質と、逆のシリコン素材を分子レベルで接着する技術を開発しました。その結果、同社では「生得的に水分を含みやすい」という新素材を獲得することになったそうです。

その結果、2013年にこれらの素材を用いたソフトレンズが登場したことでシリコンハイドロゲルのソフトレンズは飛躍的な進歩を遂げることになります。従来よりも80%も水分保有率が高いソフトレンズが高く評価され、ユーザーがレンズを問題なく受け入れる割合は従来の約60%から80〜90%にまで上昇したとのこと。

また、この恩恵はコンタクトレンズユーザーにも行き渡っているとのこと。ワシントンDCの検眼医であるスティーブン・S・グラッサー医師は、多くの人が朝から晩までコンピューターの画面を見つめ、まばたきの回数が減少している現代社会において、これらのレンズは人々に良い影響をもたらしていると語っています。ただし、「レンズを着けない」ことが最良の方法であると、一方では強調しているそうです。

これまで、コンタクトレンズには「視力矯正」という役目が与えられてきたわけですが、今後はこれに加えて「情報端末」としての役割を担うことが期待されています。2014年、制約・バイオテクノロジー企業「ノバルティス」傘下のAlconは、Googleから「スマートレンズ」技術の特許のライセンス提供を受けて共同開発を行うという発表を行っています。一節によるとこの試みは難航しているともいわれていますが、もしスマートレンズが現実のものになると、視界の一部に必要な情報がいつでも表示されるようになり、スマートフォンなどの端末をわざわざ見なくても済む日が到来するかも。さらに、血流をモニタリングすることで健康状態を把握することも可能になると考えられています。

さらに、コンタクトレンズそのものがカメラになってしまうという、映画「ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション」で登場したような技術も考案されています。

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また、こちらは「スマートレンズ」とは少し異なりますが、偏光レンズを内蔵することで視界を標準と2.8倍に切り替えることができる「望遠コンタクトレンズ」の試作品も公開されています。

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