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●情シス部門が1カ月在宅勤務に挑戦、その成果は
2016年4月から、在宅勤務制度を日数の制限なく利用可能にした製薬会社のMSD社。制度改定以降、内勤部署の社員のうち毎月2〜3割近くの社員が制度を利用し、1人あたりの利用日数も月平均2.5日以上に伸びたという。

そこで今回は、同社人事部門人事グループマネージャーの萩原麻文美氏と、情報システム部門システム技術サービスマネージャーの三澤龍志氏に、テレワーク(在宅勤務)を中心とした働き改革の取り組みや運用実績についてお話を伺った。

○「しかるべき理由」がなくても在宅勤務OK

――2016年4月に在宅勤務を日数制限なしにされてから約1年経ちましたが、実際の利用実績はいかがですか?

萩原氏:4月以降、利用者は右肩上がりに増えています。制度拡充前の2016年1月に比べて、利用者数は12月の時点で約1.5倍です。1人あたりが月に在宅勤務を行う日数も増えており、1月の1人あたりの平均利用日数は2.0日でしたが12月は2.6日。月に3日、4日利用する社員が多くなりましたね。

あとは、8月も利用者が多いです。お子さんが小学生だと、夏休みの間、家に居てあげたいという方が多いのです。また、8月というのは夏季休暇を取る人も多く、社内も人がまばらになりますので、それならば自分も在宅勤務にという気持ちになるようです。8月は450人ぐらいの社員が在宅勤務を取得しました。

――周りで在宅勤務を取得する人が増えたので、自分もやってみようという感じで広がっていったのですか?

萩原氏:そうですね。弊社はもともと在宅勤務を利用する人が多く、前年の2015年も年間約600人が利用していました。それが2016年4月以降、日数に制限がなくなってさらに使いやすくなったということですね。

――社員の方からはどういった声が聞かれますか?

萩原氏:それまでは週1回までは事由に関係なく在宅勤務が可能でした。それが、4月以降はいつでもどんな理由でも使えるようになったことで、例えば子どもが熱を出してしまって週に何日も自宅で仕事をしなければならない時にも使えるとか、子どもの学校行事と住宅の設備点検が同じ週に重なってしまったとか、そういう「いざという時」にも仕事を休まずに済むので安心だという声が出ています。

社員には、本当にしかるべき理由がなくてもどんどん在宅勤務を活用してほしいと伝えています。例えば、冬に寒いので外に出たくないという理由でも大丈夫です。大切なのは、自分らしい働き方を実践することによって生産性を上げ、より高いパフォーマンスにつなげること。オフィスに来ることや上司の前で仕事をすることが重要なのではなく、働く場所はどこであっても結果を出すことが重要なのです。昨年の4月を境に、特に理由はなくても在宅勤務をうまく活用しようと、社員のマインドがものすごく変わったように思います。

○情シス部門が1カ月在宅勤務に挑戦、その成果は

――社員の方は4月から急に在宅勤務を積極的に利用しようというモチベーションに変わったのでしょうか?

三澤氏:いや、私のチームではすぐには制度を活用するというふうにはなかなかならなりませんでした。やはりチームのメンバーも在宅勤務のパターンというのをそれまでも自分なりに決めていて、例えば別の部門の人と会う時にはやはり出社し、対面で話をしなければ、などの気遣いがあって、せいぜい週に1回程度で、何日も取得するということはありませんでした。

そんな中、チームの会議で話している際に、「せっかくの制度拡充だから、思い切ったことをやりたいよね」という話がでてきました。そこで、2016年の主要な仕事は11月までに全部終わらせて、残りの12月は全て在宅勤務で翌年のプランニングに充てようということを5月の時点で決めました。チームのメンバーは皆喜んで、12月を心待ちにしていました。

その後、6、7、8月と「今年の仕事を11月に収められる?」と毎月確認しました。その結果、11月までに主要な仕事はすべて終わって、12月は約束どおりプランニング業務に集中することが可能になり、全員取れるだけ在宅勤務を取ろうということになりました。

――チームの皆さんからの声は?他部署から何か言われたりしなかったのでしょうか?

三澤氏:メンバーから「うちのチームだけ全部在宅にして大丈夫なんですか?」「他のIT部門の人から苦情はないんですか?」という声もありましたが、事前に他のITのマネージャー全員に話をしていましたので何も問題なかったです。むしろ、「そんなことやるんだね」「やったあとの皆の感想を聞かせて」と彼らの協力も得られたりしました。

実際に取り組みが終わった後は、チーム全員が期待していたとおりの結果を得ることができ、すごく喜んでいましたね。自分で仕事のコーディネートを自由にできるし、まさに"ワークライフバランス"をうまく調整でき、プライベートの充実で業務効率がすごく上がるということを実感できました。やってみてよかったと思います。

特に、年末の1カ月を集中してプランニングに充てるというのは、昨年に限らず、今後も引き継いでやっていこうと話しているところです。今回の在宅勤務制度の拡充というきっかけがなければ、思い切ってやり方を変えるということは難しかったと思います。

●勤怠管理に「顔」は必要ない
○勤怠管理に「顔」は必要ない

――やはり2016年4月の制度改定が働き方を変える大きなきっかけというか、かなりの後押しになったということですね。

萩原氏:きっかけであったことは間違いありません。でも制度が変わっただけでは、そうそう簡単には行動パターンは変えられないと思います。ですので、社員に人事からはこういうことやっている社員がいますよというのをイントラネット上の社内報に載せたりしてアピールしました。

在宅勤務をこういう事由で使っていますよ、という事例を紹介するのです。例えば、朝、小学校の通学路で旗振りをする活動がありますけれど、その後の通勤時間を考えていたら現実的ではないと思います。しかし、在宅勤務ならすぐに自宅に戻って仕事を始められるので、できますよね。

――やはり在宅勤務は育児や介護といった家族の理由で利用される人が多いのでしょうか?

萩原氏:それだけとも限りません。例えば、昼休憩を長めに取ってその間にジムに行くという社員もいます。弊社はグローバル企業なので、同僚や上司が日本以外の国にいるということが珍しくないのですが、この社員の場合、一番接触が多い同僚がヨーロッパにいるので、ヨーロッパの同僚が仕事を開始する夕方以降がピークタイムとなります。

このような業務上の特性のある社員は、日本にいるからと言って日本人の働く時間に合わせる必要はまったくありません。むしろ昼の時間に休みを長く取って、夕方から夜にかけて集中して仕事をするほうが効率的です。しかし夜は休むことが必要ですし、家族との時間も大切なので、途中で夕飯を食べたり、合間に家族との時間も取ったりしたい。こういう時間の使い方が、在宅勤務を取るとものすごくしやすくなるんです。ジムにも行けるし、通勤時間も活用できる。プライベートと仕事の距離がすごく近くなって、コントロールがしやすくなるのでストレスも減りますし、業務効率が上がっていきます。

――テレビカメラを在宅勤務者のパソコンの前に設置して、勤務中の様子を映すシステムを導入されている企業もありますが、在宅勤務中の勤怠管理はどのように行っているのでしょうか?

萩原氏:弊社の場合、グローバル企業ですので、そもそも顔が見えない同僚と会議をするとか、上司と部下が直接顔を合わせずに電話面談をするといったことは割と日常的にあります。顔が見えないと一緒に仕事ができないとか、顔が見えないと上司が部下を管理できない…ということはない、というのがまず前提です。

それから、もう1つポイントなのが弊社の内勤者のほとんど全てが完全に裁量労働なんです。勤務時間が決まっておらず、何時に出社して何時に帰ってもいいという仕事のスタイルがほぼ全社員に適用されています。ですので、もともと何時間働いたとか、休憩時間を何時間取ったとかではなくて、最後に出したパフォーマンスが重要なのだという考え方がすでに社員に浸透していました。

そうした感覚に、在宅勤務という制度が入っただけです。従って、「どこで働くかは問題ではない。どれだけパフォーマンスを発揮できるかが重要なのだ」という在宅勤務の考え方を浸透させるのに、それほど苦労はありませんでした。

○テレビ会議はシステムの使い方が肝心

――在宅勤務となると、テレビ会議などシステム面でのサポートも不可欠だと思いますが、長年運用されてきた中で培ったスキルというのはありますか?

三澤氏:会議システムはいかにうまく使いこなすか、というのが大事なポイントで、例えば、長いテーブルでズラッと人が並んでいる中で真ん中だけに電話会議システムが置いてあると、距離の関係でマイクから遠い人の声が聞きづらいということが起きます。この場合、マイクの位置と向きを意識して話すことで相手に聞き取りやすく話をすることができます。

それから、話しているうちにいつの間にかその人たちだけの内輪話になってしまって、電話の向こうのその場に居ない人が話についていけなくなってしまうといった、会議での発言方法に起因する問題も実は大きいんですね。

萩原氏:システムの活用には、会議運営スキルも重要なんですよね。事前にアジェンダを共有しておいて、会議の流れが滞らないようにする、遠隔から参加している人の存在を忘れないように、電話会議システムの前に旗とかポストイットなどで印をつけておく、「○○さん、意見はありますか?」と意識してその場に居ない人にも話題を振るとか、そういうスキルも大事ですね。

○プレミアムフライデーへの取り組みは?

――育休中に業務を可能にしたとのことですが、どのような理由なのでしょうか?

萩原氏:本来、育休中は育児に専念して仕事はしないでくださいというのが基本の考え方です。しかし男性にももっと育休を取得してもらうために、試験的に育休中の業務を月80時間まで認めるという対応を行いました。

きっかけは1ヶ月育休を取りたいという営業職の男性社員の声でした。営業というのはお客様相手の仕事なのでなかなか男性で育休を長く取りたいという発想の人もいませんでした。実際、その社員に話を聞いてみたところ、急にお客様から何かを頼まれた時に自分がいないと心配だし、同僚に負担をかけてしまうことになるのが心苦しいと、育休取得を悩んでいる状況でした。会社としては、営業職の男性社員でも長期の育休にチャレンジしたいというこの社員の希望をなんとか実現したいと思い、育休を取れるようにするために一部業務を認めたことですね。

新しい働き方にチャレンジしたいという社員が出てきたら、その時に社内の制度はこうだからダメです、育休中は業務禁止になってるからダメですというのではなく、できる方法は何かないかと、とにかく考えていくというようにしています。

――先月から開始されている"プレミアムフライデー"は実施されましたか?

萩原氏:あえてやりませんでした。これには理由があって、なぜやらないかというメッセージを社員には出しました。

なぜかというと、弊社には裁量労働が導入されているので、毎日いつ仕事を始めて終えてもいいんです。パフォーマンスちゃんと出せるのなら毎日午後3時に帰っても構いません。この日を一斉に"プレミアムフライデー"にするっていうやり方は弊社にとっては意味がないと思っているんです。

早く帰りたい事情がある日なんて人それぞれ違いますから。国や会社が指定しなくても自分自身の判断で、自分は今日早く帰りますということを宣言して帰る社員になってもらいたいと思っていますので、あえてやりません、と人事のトップから改めて発表しました。

――今後は働き方改革のどういった部分に取り組んでいかれるのでしょうか?

萩原氏:次は長期休暇を取りやすい会社にしていきたいと考えています。長期休暇を本当に誰でも取れるようになるということは、会社の中で1人が欠けても仕事がカバーできるバックアップ体制ができている、隣の人の仕事も誰かが知っている、つまり日常の業務基盤がかなりしっかりできている証拠です。意識も変わっているということだと思います。社員同士が助け合うの当たり前みたいな意識ができているから長期休暇も取れると思うんですね。このように、長期休暇を取りやすい会社を目指すことで、結局は層の厚い強力な組織をつくることにつながると考えています。

三澤氏:弊社の社員は、皆間違いなく良い仕事をしたいと思っている方たちばかりだと思っています。ですので、他社のようにカメラで勤怠状況をチェックするしてとかそういったことは全然必要だと思いません。人事制度も拡充されてきていますし、IT部門としてはこれからも柔軟な働き方を可能にするITサービスを提供していきたいと思っています。

(神野恵美)