イラストレーション=中川原 透

写真拡大

だるくてぼんやり、なんだか仕事がはかどらない……。そのまま放置していると、取り返しのつかない結果に!? 食事、運動、睡眠を見直して、健康な脳と心身を取り戻そう。

■万病を招く睡眠不足の恐怖

夜中に何度か目が覚めて寝不足気味という人、いますよね。「いや、それどころじゃないよ。仕事が忙しくて日常的に寝不足だよ」という人もいるでしょう。

気を付けてください。そんなあなたの脳は正常に働いていない可能性があります。

では、どのような睡眠をとるべきなのでしょうか。まず大事なのは、「睡眠の量」です。

ちょうどいい睡眠時間には個人差があります。6時間未満で元気な人もいれば、8時間以上の睡眠が必要な人もいます。まず意識して、頭がすっきりして非常に快活に1日を過ごせる睡眠時間を見つけてください。その睡眠時間が基準になります。

それよりも2時間以上足りない状態が2日以上続くと、人は睡眠不足の症状が出てきます。4時間ほどの極端に短い睡眠時間で平気だという人がいますが、睡眠不足が常態化しているのはとても危険なことです。

自治医科大学が行った研究に、健康な男性では睡眠時間が6時間未満の場合、7〜8時間の場合と比べて死亡率が2.5倍になるというデータがあります。いったい、何が起きているのでしょうか。

人は睡眠不足の状態になると、脳の一番外側にあり、情報を言葉に変換して記憶する大脳新皮質と、その内側にあり、五感と感情をつかさどる大脳辺縁系に変化が出てきます。

まず、代謝・内分泌の機能が低下します。人は元気な状態を保つために、甲状腺、脳下垂体、副腎、脾臓など多数の内臓からさまざまなホルモンを分泌しますが、この分泌機能が低下すると、糖尿病や心疾患などの病気にかかりやすくなります。

自律神経にも悪い影響を与えます。眠るとアドレナリンの濃度が下がり、新陳代謝が抑制されます。それにより自律神経の活動が弱まるため、人は休養をとることができます。眠らないでいると、アドレナリンの分泌量が上がったままになってしまい、自律神経を休める暇がなくなります。すると、血圧と血糖値が上がりやすくなり、糖尿病の原因になります。慢性的な睡眠不足が続くと、全身の多系統に影響が及び、狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患も起こりやすくなります。

メタボリックシンドロームにも繋がります。睡眠不足になると、食欲を促進する「グレリン」というホルモンが増加し、食欲を抑制する「レプチン」というホルモンが減少して、食事の量が増えてしまうためです。睡眠時間を削って働くハードワークのビジネスパーソンのなかには、朝食を抜き、昼はご飯も麺も大盛り、夜は脂っこいものをドカッと食べて、お酒を飲んで、さらにラーメンで締めるといった過剰な食欲で、とても太っている人がよく見られます。これは、睡眠不足による内分泌の乱れからきている可能性があります。

睡眠不足によって、脳は抑うつ状態(気分が落ち込んで活動を嫌っている状態)になっていきます。さらに、認知機能を含めた作業の機能が落ちていきます。すると、記憶力や作業能力、決定能力が下がってきて、仕事のパフォーマンスが確実に落ちます。また、睡眠時間が短いと、うつ病の発症率が上がるといわれています。まだ議論の段階ですが、慢性的な不眠症が、将来の認知症の発生リスクを高めるという研究報告も多くあります。

「睡眠の質」も重要です。質を上げるためには、睡眠環境を整える必要があります。明るいところで寝れば睡眠が浅くなりますし、音もよくありません。布団の中の温度は32度ぐらいが適正で、暑くても寒すぎてもいけません。

アルコールに頼って寝るのはNGです。寝る直前までお酒を飲んで寝る人が結構います。確かに寝付きはよくなるのですが、後半の眠りが浅くなります。アルコール離脱現象が起こるためです。結果的に睡眠の質が悪くなり、次の日に疲れが残ります。さらに、寝酒の癖がつくと、酒量がどんどん増えていき、アルコール依存症のリスクも高まります。

そして、「睡眠の規則性」もとても大切で、毎日同じ時間に寝て同じ時間に起きるのが理想です。フリーランスで寝る時間がバラバラな人や、夜勤と日勤が交互にある職業の人などは、リスクがあります。

■規則性を崩さず睡眠量を増やす

では、どうしても十分な睡眠がとれず寝不足気味の人は、どうしたらいいでしょうか。最後の手段ですが、週末に睡眠量を増やすことです。やってはいけないのは、休日に昼過ぎや夕方ぐらいまで「寝だめ」をすることです。体内時計が乱れて、時差ぼけ状態となり、休み明けはぼーっとして使いものにならなくなってしまいます。

それを防ぐには、平日に起きる時間より後ろに2時間以上は眠らないことです。普段7時起きの人ならば、休日は頑張って9時には起きましょう。それで寝足りないのであれば、就寝時刻を早くします。金曜日はできれば2時間早く入眠し、土曜日は2時間遅く起きます。日曜日も2時間早く入眠すれば、週末に睡眠時間を6時間多く稼げます。

日中、眠くてたまらないという場合は、短時間、昼寝をすることをお勧めします。ひどい眠気のなか頑張っても、うとうとして仕事にならないぐらいなら、席をはずしてどこかで20分、さっと眠ってしまいましょう。このときは浅い眠りのほうがすっきりしますので、椅子に座って眠るぐらいでいいと思います。30分以上眠ると深い眠りに落ちてしまい、起きた後に「睡眠慣性」といって眠気やだるさが残り、かえって仕事にならなくなってしまいます。

OECDが世界29カ国を対象にした調査では、日本人の睡眠時間は韓国に次いで2番目に短く、平均睡眠時間は7時間43分でした。いかがですか。それよりもはるかに短いという方ばかりではありませんか。

「寝ないで働くことが美徳」という思考があるのならば、今すぐ捨ててください。命を削ってまで働いて、本当によいですか。

----------

井上雄一
睡眠総合ケアクリニック代々木 理事長。医学博士。1982年、東京医科大学卒。鳥取大学大学院修了。東京医科大学睡眠学講座教授、医療法人社団絹和会理事長、日本睡眠学会理事を務める。

----------

(嶺 竜一=構成 中川原 透=イラストレーション 教えてくれる人:睡眠総合ケアクリニック代々木 理事長 井上雄一)